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新米探偵の初仕事
3 失踪の理由
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「末の子の名前は、ツトム、まだ三歳でした。その子が半年前に、ショッピング・センターの駐車場で事故に遭いました。それで――」
ヤマネ氏が声をつまらせた。こんな時に、どんな言葉をかければいいのか、わからない。「さぞお辛いでしょう」それは、そうに決まっている。「お気持ちお察しいたします」無理だ、我が子を事故で亡くした人の気持ちなんて、わかりっこない。
依頼人がうつむいて肩を震わせているのを見て、こちらも感情をゆさぶられた。これではいけない。こういうときは、ビジネスライクに行くに限る。
「では、奥さんはツトム君の側にいる、と」
ヤマネ氏ははっと顔をあげた。目が赤くなっている。
「おそらく、家族五人全員がそろっていた過去に囚われているんじゃないかと思います」
それは、帰りたくないだろう、とぼくは思った。
「そういうことなら、発見するのはそう難しくないと思います。問題は、奥さんがこちらへ戻って来たがるか、ということで」
「その網で捕えるのではないのですか?」
ヤマネ氏が指さすのは、ぼくの座るソファーの横に立てかけた捕獲網。全長百六十センチほどで、細長い柄の先に三十センチほどの輪っかがあり、そこにネットがついている。見た目は昆虫採集用の網と大差ない。
「捕まえます。でも、激しく抵抗されると――」
父親の顔が暗くなった。
「今まで、捕獲に失敗したことはあるのでしょうか」
「ご安心ください。我が社の失踪人捕獲率は、業界でもトップクラスの九十八パーセントです」
ぼくは慌てて営業スマイルで胸を叩いて見せた。事務員を含めても総勢五名の探偵事務所だが、評判はまずまず――これは嘘偽りない真実だ。
「あなたは、その若さでキャッチャーになられたのだから、さぞかし優秀なのでしょうね」
父親の顔に希望が戻った。
「子どもがらみの失踪人は、手強いぞ。お前がクライアントの子供たちの年齢に一番近い。とにかく、情に訴えろ。必要ならば、泣き落とせ。一家の母親を家族の元に連れ戻すには、それしかない」
ぼくの師でもある事務所の先輩探偵に背中を叩かれ、問答無用で送りこまれたのだ、などと、言えるわけがなかった。
ぼくはただ、わらにもすがりたい父親に、力強く頷いて見せるしかなかった。自信ありげに見えますように、と祈りながら。
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「では、奥さんはツトム君の側にいる、と」
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それは、帰りたくないだろう、とぼくは思った。
「そういうことなら、発見するのはそう難しくないと思います。問題は、奥さんがこちらへ戻って来たがるか、ということで」
「その網で捕えるのではないのですか?」
ヤマネ氏が指さすのは、ぼくの座るソファーの横に立てかけた捕獲網。全長百六十センチほどで、細長い柄の先に三十センチほどの輪っかがあり、そこにネットがついている。見た目は昆虫採集用の網と大差ない。
「捕まえます。でも、激しく抵抗されると――」
父親の顔が暗くなった。
「今まで、捕獲に失敗したことはあるのでしょうか」
「ご安心ください。我が社の失踪人捕獲率は、業界でもトップクラスの九十八パーセントです」
ぼくは慌てて営業スマイルで胸を叩いて見せた。事務員を含めても総勢五名の探偵事務所だが、評判はまずまず――これは嘘偽りない真実だ。
「あなたは、その若さでキャッチャーになられたのだから、さぞかし優秀なのでしょうね」
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