【完結】彼此繋穴～ヒコンケイケツ。彼の世と此の世を繋ぐ穴～

日記

５

　
　
　七月十二日（月）曇り

　先日、金を磨った。この、する、という漢字が分からなくて、辞書を繰った。

　俺は頻繁に辞書を使う。使う、より、用いる、の方が、格好がついたように思う。

　馬鹿だから、漢字も、その用途もよく分からない。

　だからといって、ひらがなで書くのも馬鹿を露呈しているようで嫌だ。

　たったこれだけ書くのにも、おおよそ五分は掛けている。

　時間の浪費としか言えない。

　時は金なり。タイム、イズ、マネーだ。

　時間を金に変えられるのなら俺は喜んでそうするのだが、至極残念なことに、終戦後もそういう制度は出来ていない。誰か作ってくれないだろうか。

　日記は、しばらくつけていなかった。三日坊主も驚きの二日坊主になるところだった。

　やはり、金を持つと良くない。

　俺は馬鹿だから、大した額でもないのに気が大きくなってしまう。

　おそらく、半端なのが良くない。

　女に物を買ってやって、一緒に飯を食って、飲み屋で一杯やっても、もう何日かは同じように遊べる程度の半端な額を持つからいけないのだと思う。

　金が沢山あれば、人に知られまいとして倹しい生活を送るに違いない。

　資金力をひけらかすのは賢者と自信家と間抜けだ。賢者は成功して更なる利益を収めるだろう。自信家は失敗して反省するだろう。間抜けは自慢して余計なやっかみを買うだろう。

　俺のような無知で臆病な馬鹿者は隠すしかない。食うと遊ぶ以外に用途が分からないのだから仕方がない。失敗したくはないし、やっかみも怖い。

　俺も含めて、人間ほど信用ならないものはない。皆、他人の物を虎視眈々と狙っている。

　乗せて、騙して、奪って、殺して。また、そうしなければ生きていけない者ばかりというのが今の世の中だ。いや、それは昔からか。延々と格差は消えていない。

　復興して立ち直っても、それは変わらないのではないだろうか。

　話が逸れたが、どうせ誰が読む訳でもないし、適当に書いている日記だから、後で読み返して、馬鹿なことを書いているなと、笑えればそれで良い。

　だから、思い切って書くが、無心した金が一週間ともたずに消えた。

　薬と煙草だけなら、まだ細々とやっていけたのに、ついつい魔が差してしまった。

　ちょっと遊ぶつもりで、友人が勤める雀荘に顔を出したのだ。

　悪いことに、そのとき、

「良さん、あいつをカモに一儲けしないか」

　と、友人に持ちかけられた。

「イカサマはいかんよ」

　と、俺は断ったが、

「頼むよ。金に困ってるんだよ」

　なんて、友人が手を合わせて頼むものだから、俺は仕方なく乗ることにした。

　二人でグルになって、悪人面したハゲを相手にちょっとしたズルをしてかなり儲けた。