イスカソニア~異世界で十歳に転生した中年の俺が無能と呼ばれる子供と出会ってからの話~

月城 亜希人

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第一章 シュンジュ編

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「今度は一緒に行こうな!」

 寂しそうな背中に声をかけると、ハオランが振り返って「うん!」と笑顔で頷いた。

 俺は軽く手を振って、ハオランの言っていた魔物を探しに湖の方へと駆けた。が、一分もしないうちに不安になって立ち止まる。

 あら? こっちで合ってるよな?

 白い小屋はやや高い位置にあるので草原を見渡せたが、高低差がなくなると途端にわからなくなった。背の高い草に阻まれ、湖も目視できない。
 ざっと周囲を見て魔物がいないのを確認してから、白い小屋に向かい手を振る。

「ハオラーン! 湖ってどっちだー?」
「あっちー!」

 気づいたハオランが指というか腕で方向を指示してくれた。残してきて正解だった。出口の白い小屋は見えるので帰れなくなることはないが迷子は御免被りたい。

 ときどき振り返って白い小屋との距離感を見て進む。指示された方向に進んでいるつもりでも、歩いているうちに段々とずれていくのがわかる。これは怖いな。

 帰ったらコンパスと地図は手に入れておこう。なければ方眼紙とペンだな。でも草原のマッピングって方角と目印くらいしか書くことないよな。森で使うか。

 備えあれば憂いなし。しかし問題は地図やコンパスの有無だけではなかった。

 広い上に見通しが悪い場所が多く、草むらから急に魔物が出てきたりする。
 今のところ動きが鈍重なスネイルとスラーグしか遭遇していないが、もし素早い魔物が飛び出してきたら大怪我や一撃死もあり得そうだ。

 怪我はしたくないし、服も汚したくない。何をするにも金がかかる。
 現在は借金まで背負っている身だ。無茶は余裕ができてからがいい。

 湖までの道のりをかなり簡単に考えていたが、自分の慎重さを計算に入れていなかった。ストレージで時刻を確認すると十六時過ぎ。既に出発から三十分が経過していた。

 草むらを掻き分けて開けた場所に出ると、またもスネイルとスラーグの小さな群れがいた。

 経験値になれー。エスカルゴ種の肉をよこせー。

 さっと塩を撒いて、うねうねしているのを眺めて消えるのを待つ。

 そろそろ別の魔物も出てこないものかね。

 周辺にあるパジマル草を摘みながらそう思っていると、奥の草むらから一メートル程の青虫が出てきた。

 お! ハオランがキャトルピラーとか言ってたのはこいつだな!
 うわ、思ったより速いぞ!

 比較対象が遅すぎるというのもあるが、キャトルピラーは人が歩行するくらいの速度があった。そこは素直に驚いたが、すぐにぞわぞわしてそれどころではなくなった。
 ハオランが『緑色の気持ち悪いやつ』と言っていたが、正にその通り、色々と大丈夫な俺もこれは駄目だ。一目散に逃げ出したい。

 体の側面下部に生えた短い多脚の動きと、体表にある赤、黄、白、黒の円形模様が生理的に受けつけない。しかも頭からめちゃくちゃ臭い蛍光色の黄色い角が出てきた。

 うげっ、鼻が曲がるどころの騒ぎじゃないぞこりゃ!

 俺は呼吸を止めて離れ、地面に落ちていた石を拾い上げ全力投球した。

 バチュッ──。

「うぎゃあああ!」

 俺は思わず悲鳴を上げてしまった。石がキャトルピラーの体を突き破り青色の体液を噴出させたのだ。ぐねんぐねんとのたうち回る姿は、もう怖気だって見ていられない。
 距離をとって安全確保し、極力見ないようにする。ちらりと見ると、嫌がらせみたいな死に際の演出を終え、キャトルピラーが白い煙になって消滅した。

 恐る恐るドロップアイテムを確認しにいくと、ブロック状になった緑色の肉片と小銅コインが落ちていた。先に倒したスネールとスラーグのドロップと一緒に回収。
 ストレージを確認すると『虫の肉』と書いてあった。何に使うのか知らないが、俺には関わりのないことだ。

 もうキャトルピラーとは戦わないことを心に決める。
 ドロップアイテムを拾うのも悍ましい。

 ダメージ表示は『7』だった。おそらく防御力が低いのだろう。体液が噴出していたということは継続ダメージがあったことも間違いない。
 なんにせよ殺せたのだからもう気にしない。臭くて気持ち悪いとか最悪だ。

 そうこうしているうちにまた道がわからなくなった。白い小屋を頼りに進むべき方向を確認。なるべく死角が少なく、背の低い草が生えている道をやんわりと進んだ。

 道中、ついでに見掛けたパジマル草やドリアンガの花、ヒリエリ草も摘んでいく。パジマル草以外はストレージに入れたときに『雑草』と表示された。

 似てたけど違うらしい。やはり俺には採取は向いていないようだ。


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