イスカソニア~異世界で十歳に転生した中年の俺が無能と呼ばれる子供と出会ってからの話~

月城 亜希人

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第一章 シュンジュ編

検証(2)

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 湖の側に着いた。

 陽に照らされた湖面が風に吹かれて光を波立たせている。
 それはそれは美しい風景なのだが、そこに似つかわしくないものがいる。そいつらが周辺に点在している木々の木陰から顔を覗かせていて、俺は少し戸惑っている。

 伸び放題の黒髪。裾が破れたワンピースのような汚い服。黒ずんだ肌の黄色い目の女たちが歯ぎしりしながらこちらを見ているのだ。

 おそらく、あれがバンシアだろう。ハオランが『女のお化け』と言っていた意味がよくわかる。あれは危ない。なんだか触れてはいけないもののような気がする。
 体を半分だけ木陰に隠して、木に爪を立ててずっとガリガリやっている。あの行動に一体どういう意味があるというのか。ただの嫌がらせのような気がしないでもない。

 湖はダンジョン出口の白い小屋から三キロくらい離れた場所にある。地図があれば正確な距離もわかるんだろうが、今はないので目算と体感。

 そこまで大きくずれてはいないと思いたいが……。

 どうしてそんなことを考えたかと言えば、逃げる気でいるからだ。
 顔が同じ危ないおばさんの群れは思ったより怖いのだ。一人であれを相手にするのはかなりの勇気が必要だ。なんだってあんな魔物をこしらえちゃったかな。

 くっ、フェリルアトスめ。

 悪戯好きの神は今も俺を見ているのだろうか? そんな気がしてならない。

 とはいえ、何もせずに帰るのも面白くない。正直、気配だけで言えばさほど強い感じはしないので、一体相手にしてみることにする。

 慎重を期して、とりあえず遠距離から。

 足元の石を拾い、最寄りのバンシアに全力投球してみる。

 ゴッ──。

「キイイイエエエエエエエ!」

 石はバンシアの胸付近に直撃した。『4』と表示が出たが、大して怯まず大絶叫。それを合図にしたかのように周囲に潜んでいたバンシアが何体か跳び出した。

 バンシアが一気に群れを成し奇声を上げつつ俺に迫ってくる。
 ガクガクと無駄な動きが多いくせに足が速いのがまた怖い。

「うおおおお! 怖ええええ!」

 俺は全力で逃げた。それはもう全力で。
 しばらく進んだところで走りながら振り返ると、バンシアの群れが肩を落として湖へと帰って行くのが見えた。『あー疲れた。やってらんねーわもう』とでも言いたげな、とてもシュールな光景に自然と足が止まった。

 なんだよ……。

 一気に気が抜ける。どうやらヘイトを失う位置が設定されているようだ。もしかすると、定められた範囲から出れなくしてあるのかもしれない。

 しかし、お化け屋敷の担当位置に戻ってるみたいだな。ん? お化け……?

 閃きが走った。もしかするとバンシアにも塩が効くのではないだろうか? 塩には魔除けの効果があると耳にしたことがある。盛り塩とかもそうだもんな。

「ふむ、やってみるか」

 バンシアたちが俺を追うのをやめた辺りから石を遠投してみる。木に当たったが、バンシアに反応はない。当てるのが難しいので少し近づいてバンシアに石を当てる。今度はしっかり反応したが絶叫はせず、唸りながら一体で近づいてきた。

 表示されたダメージは『1』だった。与えるダメージによっては絶叫しないということだろうか? 例えば奇数偶数での判定とか。なんにせよ単独で来てくれるのは好都合。行動範囲と塩の効果を試してみる。

 バンシアが目前に迫ったところでバックステップ。それを二回繰り返すと、バンシアは見えない壁に阻まれているようにうろうろし始めた。湖の木陰に戻ろうとはしない。

 なるほど。俺との距離がヘイトを失う程には離れていないとこうなる訳か。

 俺は自分が立っている位置に石を集めて目印になる円を作り、バンシアにひとつまみの塩を振りかけた。

「キイイイエエエエエエエ!」

 まさかの絶叫。だが『1』のダメージ表示はしっかり出た。三秒後にまた『1』の表示。継続ダメージの効果あり。そして湖にいたバンシアたちが絶叫に反応して群れを成して近づいてきた。離れていても絶叫の仲間を呼ぶ効果は失われないらしい。

 バンシアの絶叫には他の魔物を引き寄せる効果があるのかもしれないので、周囲を警戒しつつ【気配制御サインコントロール】を解除する。
 解除前に一応確認したが、バンシアに【気配制御サインコントロール】は有効だった。

 湖にはレイキーフィッシュという魚の魔物がいるらしいので、それを相手にするときは気配を薄くすればバンシアを引き寄せないで済みそうだ。

 寄ってきたバンシアたちに塩を振りかけて生命力の検証に移る。

 トータル『10』で塩の継続ダメージは消える模様。バンシアは生き残るので、生命力は『10』を超える。二回振りかけても生き残り、三回振りかけて様子をみたところ『25~27』と差異はあるものの絶命した。

 草原にいた魔物と比べて一気に生命力が跳ね上がっている。湖から出れないように設定されているのもそれが理由かもしれない。バンシアがふらふらと草原を歩いていたら、それはもう最初級ダンジョンとは呼べないだろう。

 攻撃方法は髪の毛の振り回しと爪による斬撃のようだ。どちらも観察していると隙がある。髪の毛での攻撃は一度大きく仰け反る。爪の攻撃は手を振り上げた場合が振り下ろし、腕を横に開いた場合は横薙ぎを行う。

 いずれも攻撃前の予備動作で一秒程の硬直時間がある。隙が明確なのは有り難い。

 隙を突いて石で腹を殴ってみると『10』の表示。部位別に変化があるか試してみたところ、腕を打てば爪攻撃を行わなくなり、足を打てば転んで立たなくなった。ダメージの通りは多少悪くなるが、特殊な効果が表れるのは発見だった。

 最もダメージが通ったのは頭で『14』という数字を叩き出した。

 ふと思いつき、一度『気配制御サインコントロール』で気配を薄くしてヘイトを失くし、帰っていくバンシアの背後から頭を石で殴打してみたところ赤文字で『24』と表示された。やはり致命的クリティカル攻撃の判定もあるようだ。

 まぁ、そうじゃなきゃレベル四以下でストレーダーグは倒せてないだろう。

 急にダメージが上がったので驚いたが、すぐにレベルが上がった可能性に気づく。ステータスの確認をする為には情報端末が必要な為、斡旋所に戻るまでレベルがわからないのがもどかしい。

 まぁ、バンシアにさほど脅威がないことがわかったので良しとしよう。

 ドロップアイテムは真っ黒な糸玉だった。ストレージに回収すると『バンシアの髪』と表示された。思ったより綺麗なので、そのまま糸として使われるのかもしれない。
 今のところ用途に興味はないが、いくらで売れるか考えると少し胸が踊る。

 対して確定ドロップと聞いている小銅コインは今回は二枚。八体倒したので十六枚。つまり、これだけ倒して十六リエムにしかならない。
 驚くほど少ないとは聞いていたが本当にそうだった。
 コインで稼ぐのは現実的ではなさそうだ。

 まだ夕暮れ前。あと三十分は粘りたい。レイキーフィッシュ狩りの為にも、バンシアが再出現リポップするまでの時間の検証をしたいので、しばらく湖付近をうろつくことにした。
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