イスカソニア~異世界で十歳に転生した中年の俺が無能と呼ばれる子供と出会ってからの話~

月城 亜希人

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第一章 シュンジュ編

帰還(1)

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 十七時半でダンジョン探索を切り上げ、ハオランと共に斡旋所へと向かった。俺はともかく、ハオランはまだ子供。暗くなってからは街を歩くのも危ないだろうと思ってのことだ。収穫は十分にあったし、そこまで根を詰める必要もないと判断した。

 ダンジョンに入った時点よりハオランが元気に見えるのは、おそらくレベルアップの効果が出ているからだろう。ダンジョンから出るときに「なんだか体が軽いんだよ」と嬉しそうに言っていた。俺も強くなった実感があるので気の所為ではないはずだ。

 なんにせよ可愛い笑顔が見れてなによりだ。

 中華風な建物が軒を並べる賑やかな大通り。人の往来が激しい土の道を二人で歩き、途中の出店で肉まんらしきものを買い食いしつつ、ようやく斡旋所の前に辿り着く。

「はぁー、やっと着いたー」
「お疲れさん。報告楽しみだな」
「うん!」

 夕暮れ間近の西日を浴びながら斡旋所の扉を開いて中に入ると、シンイーの受付にムーシェンとそのパーティーの女たちが立っているのが見えた。
 ムーシェンは扉の開く音を気にしたのか、ふと俺たちに顔を向けた。

「おー! ハッハハー! 見ろよ! 無能のお帰りだぞー!」

 ムーシェンが両手を広げ、まるで歓迎するように言う。

「物好きがいたもんだー! そんな無能を連れてダンジョンに入るなんてなー!」

 どっと笑い声が上がる。何が面白いのか。

 周囲の反応をざっと見たが、どうやら本気で笑っているのはムーシェンのパーティーメンバーを含めて十人程のようだ。

 残りの五六人は知らん顔。俺に絡んできた革鎧の痩せたおっさんとシンイーに至っては、ムーシェンが気に食わないと言いたげな仏頂面をしている。

 それでも誰もハオランをかばわない。

 それぞれ意図があるのはわかるが、これを放置しているのはあんまりな気がする。ハオランがこんな状況を我慢して働いてきたのだと思うと、健気さに胸が詰まった。

 ハオランはずっと俯いて肩を落としたままだ。斡旋所に入る前の笑顔はもうない。悔しさより、悲しさと怯えが感じられる顔をしている。

 どうしようもないと諦めているようにも──。

 はぁ……この顔には弱いんだよなぁ……。
 前世の神域で女子生徒が見せた顔にそっくりだ。頭が破裂する直前のな。

 まぁとにかく、それだけムーシェンが厄介な相手なのかもしれない。幅を利かせられるだけの実力か後ろ盾があるということだろう。

 少なくとも、文句があっても誰も咎められないくらいには。

「イスカ兄ちゃん、行こう」
「ん? おう」

 ハオランが俺の手を掴んで引っ張った。そのまま情報端末へと向かう。

 情報端末は黒い直方体で、ソウルカードの差込口と画像を展開するレンズだけが付いた簡素な魔道具だ。ソウルカードを差込口に入れるとステータスがタッチ操作可能なホログラムで表示され、技能設定変更などが行える。

 二台置いてあるので、ハオランと横並びになる。が、俺がソウルカードを差し込もうとしたとき、横から情報端末の上に手が置かれた。
 顔を向けると、ムーシェンと目が合った。情報端末に寄りかかるようにして立っている。後ろにはパーティーメンバーの女が三人。全員、薄ら笑いを浮かべている。

「なぁおい、よそ者のガキ。無視か? 俺のこと無視してんのかお前?」

「ムーシェン! やめろよ!」

 突然、ハオランがムーシェンに向かって怒鳴った。

「イ、イスカ兄ちゃんにまで嫌がらせするな!」

 ハオラン、お前……。

 意外だった。まさかハオランが立ち向かうとは思わなかった。
 涙目で、握りこぶしを作って、足が震えてるのに、それでも俺を庇おうと──。

 ムーシェンは驚いた顔をしたが、ふっと吹き出すと腹を抱えて笑い出した。

「イヒャハハ! このガキ無能に庇われてやがる!」
「なになにぃ? もう、無能の癖にどうしちゃったのー?」
「アハハハ、涙目でイキってんじゃねぇよ無能がよお!」
「初めて吠えたわね! 無能は吠えない品種だと思ってたわ!」

 後ろの女たちも可笑しくてたまらないといった様子でそんなことを言った。だが俺は誰がどの台詞をほざいたかは見ていなかった。既に情報端末を操作していたからだ。

 馬鹿笑いされている間にステータスの確認が取れた。レベルは十五。バンシアに感謝だ。トータルで八十体狩ったからな。引き寄せ釣り狩りで大幅にレベルアップだ。

 けどこれで百リエムか。情報端末使用料ってアコギだよな。

「ハオラン、終わったから行くぞ」
「え? ご、ごめん。僕はまだ終わってないや」
「しょうがないなぁ。こんな馬鹿を相手にしてるからだろ?」

 笑い声がピタリとやんだ。ハオランが息を吞む。

「どうしたハオラン? 俺の後ろにいる馬鹿が気になるのか?」

 振り返ってムーシェンを見ると、引き攣った笑顔の額に青筋を浮かべていた。

「おい、ガキ。お前、今なんつった?」
「あ? 馬鹿がいるって言ったんだよ」

 俺は鼻を鳴らして肩を竦める。

「お前もしかして自覚してなかったのか? こんな子供を大勢で馬鹿にするなんて、すごく恥ずかしいことだぞ? 馬鹿の他にどう表現するんだそんな奴。クソ野郎か?」

 斡旋所のあちこちから吹き出すような笑い声が上がる。
 だがムーシェンが睨みつけるとまた静かになった。

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