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第三章 六年後編
動画編集者(2)
しおりを挟むモニターに映るボギーベアは遠隔光源に反応を見せているが、側で悠々と体を曲げ伸ばしするイスカには気づいたそぶりを見せない。
「ここは? 初級ダンジョンではないようだけど……」
「中級ダンジョン。少し前、ルシファリス公国と繋がったでしょう? ノルトエフ叔父さんたちは中級ダンジョン攻略の為に、今は首都のベルゼにいるらしいわ。レッキスの街は後任に任せて休暇を取ったみたい。フットワークが軽いわよね」
ルシファリス公国──ゲイロード帝国の東方、山脈を隔てた先にある国家である。
百二十七年前アーケイディア王国に反旗を翻したシャイン・ルシファリス公爵が興し、現在は象徴君主制を残す一元議員型内閣制の民主主義国家となっている。
長年南方の大国アーケイディアと小競り合いを続けてきたが、十六年前に隣国のアリアトス聖教国が帝政国家に体制を変えたことにより休戦。安寧を得たことで急激な発展を遂げ、現在ではイスタルテ共和国と並ぶ程の技術力を有する先進国となった。
その安寧が「気に食わん」の一言でアーケイディアと戦争を始め、小競り合いを続けた初代皇帝ゲイロードによってもたらされたことはルシファリス公国で周知の事実となっており、ゲイロード帝国とは友好的な関係が築かれている。
そして六年前、両国間の悩みであった交通を改善する為、ゲイロード帝国二代目皇帝クロースルが忙しさに泡を吹きながらも軍に命じ、山を開通する工事を開始した。
その開通工事が完了したのが半年前。
トンネルとして整備され、一般開放されたのが数週間前のことである。
ゲイロード帝国の屈強な脳筋戦士たちが、訓練を兼ねて楽しく手作業で掘り進めたそのトンネルは、古代言語で『力』を意味するデュナミストンネルと名付けられた。
イスタルテ共和国にもそれを発案実行したクロースルの偉業は轟いている。
スカーレットの周囲でも知らぬ者はいない。
「あの一家はもうデュナミストンネルの通過を経験したのか」
「そうみたいよ。新しい物好きなのかも。人生を楽しんでるわ」
「羨ましいと思うのは私だけかな、と?」
「うふふ、さぁ、どうかしらね?」
頬に軽くキスをされ、スカーレットは顔を僅かに赤くする。
それ以上を期待したが「それにしても」というシンの声で露と消える。
(もう……!)
それがシンのよくやる焦らしだと、スカーレットはよく知っている。その手口で与えられる体の疼きを覚られないようにするのも嫌いではなかった。
「イスカはかなり胆力があるね。こんな所でストレッチをするのは異常かと」
「【気配制御】で気配を遮断してるのはわかるけど、普通はできないわよね。それと遠隔光源の使い方に驚かされたのよ。こんなヘイトの管理方法なんて見たことなかったから、これも上手く紹介できるよう編集したくて」
「もしかして、これは広報用?」
「えぇ、そうなの。ノルトエフ叔父さんにヴァージョンアップした装備品のモニターを頼んだんだけど、送られてきた映像はイスカ君とソニアちゃんのツーマンセルだったのよ。中級ダンジョンを制覇なんて、装備の紹介にはうってつけなんだけど……」
映像の中のイスカがトンファーを手にしてその場で軽く二度跳ねる。直後、一体のボギーベアの背後に素早く接近。トンファーを振るい頭に打撃を加える。
ガッ──という打撃音がイヤホンからもれ、赤文字で『2315』と数字が浮く。
「致命的打撃……! しかも一撃死……!」
「ね、凄いでしょ?」
頭を粉砕されたボギーベアはその場で崩れ落ち、白い煙となって消失。その間にもイスカは別のボギーベアの背後に無駄なく移動し頭に一撃を加えていく。
「致命的打撃の量産……! これは圧巻かと……!」
「恐ろしいわよね。一発も外さないのよ……」
イスカがボギーベアの数を減らしていき、五メートル四方程の余裕ができる。
その中心に跳ね戻ったイスカに、長い銀髪の少女が駆け寄り背を預ける。ボギーベアが一斉に反応するが、浮遊する五本の長剣が踊るように付き従い少女を守る。
装備品はやはりGS社製のもの。イスカと違うのは軽鎧装甲がM弐型改であることと、その色が銀一色であること。そして女性らしさが損なわれていないこと。
「この子が……ソニアちゃん?」
「そうよ」
「一瞬わからなかった。凄い美少女になっていたので……」
「プロフィールだとスタイルも羨ましいくらい良いのよ。御両親の影響ね。身長はイリーナさんと同じで百七十センチ。体重とスリーサイズは教えない」
「私には身長だけで良いかと……」
ソニアはボギーベアに向かい自身の周囲に浮遊する五本の長剣を射出していく。それらは対象の体に突き刺さると消えて血を噴出させる。
ダメージ表示は白文字で『624』。
刺さった分だけ五百後半から六百前半の数値が現れる。
長剣は射出された側から補充され扇状に放たれ続ける。単体特化のイスカとは違いソニアは複数体に細かくダメージを与えて倒していく。
加えて、ソニアがストレージに両手を突っ込み取り出したのは──。
「二丁拳銃!」
「最大装填数が六発の回転式弾倉を持つ魔術式拳銃よ。威力と速射性は刻んだ魔術式と使い手次第だけど、ソニアちゃんは一流ね。銀色で四インチなのも素敵」
イヤホンから連続して銃撃音がもれる。
ソニアは長剣を射出しながら的確に銃撃を行い敵を寄せ付けない。
「六発以上撃ってるように見えるかと……」
「それが凄いの。弾丸の装填は剥き出しの回転式弾倉に銃把から魔力を流し込むだけに設定してあるみたいなの。だから実質装填に使う時間は無いに等しいわ」
「道理で。速射性を取るならオートマチックピストルの方が優れているので疑問に思っていたけど、装填時間が皆無ならリボルバーの方が確かに良いかと」
「そう。その上でソニアちゃんは威力より速射性を重視した設定変更を施しているみたいね。リボルバーの強みである威力を殺してバランス型にしたみたい」
「なるほど。でも一発で三百後半から四百前半は出てるので、決して低いダメージではないかと。反動を抑えて体への負担を軽減しているのも好ましい」
「どうして?」
「ダンジョンに限らず、慎重であることは最重要なので。腕を怪我したとき、自分の撃った銃の反動でダメージを負って、生命力が枯渇する探索者もいるので」
「あぁー、そっかぁ。すっかり頭から抜けてた。私も観たことあるわそれ。限定的なシチュエーションだから気がつかなかった。確かにそうだわ。メモしとく」
「ふふふ、大袈裟かと。それにしても、二人にはよほど優秀な魔道具師が付いているかと。かなり繊細な腕前がないと、これだけの武器は完成しないので」
「それが悔しいことに書かれてないのよね……。当たり前なんだけど……」
ソニアの殲滅速度はイスカを遥かに上回っており、湧き続けていたボギーベアが徐々に数を減らしていく。再出現が間に合わなくなり始めていた。
「この剣は、複合魔術かな? 私にはわからない技能だ」
「『火術』『水術』『土術』『闇術』の四属性複合魔術らしいわよ」
「四種も。凄まじい才能かと」
「見て。出血による継続ダメージも発生させてるの。スタイルは違うけど、この二人は『黒き死神』と『青き聖女』の再来よ。これはきっと、世間を賑わせるわ」
一年前、スカーレットの発案でラズグリッドに動画放映専用のスタジアムが建設された。ダンジョン攻略動画が一大事業となると見越してのことだった。
会議での反応は微妙だったが、社長のラスコールが興味を示し許可を出した。そしてスタジアム建設後はスカーレットが予期した通り大盛況となった。
巨大モニターに映し出された動画と大型スピーカーから流れる音声の迫力は多くの人を魅了し、スタジアムは連日賑わいを見せている。観光客も増加した。
治安の低下などの問題は浮上しているが、それを補って余りある程の経済効果が出ており、各地で動画の撮影者と編集者が新たな職業として注目されている。
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