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第三章 六年後編
再会の宴
しおりを挟む放映初日の夜──俺と二人の婚約者はスカーレットの手配してくれた送迎車に乗り、予約していた酒家に向かった。
なんとそこはシュンジュで肉まんの出店をやっていたおっちゃんが出した店だった。半月程前、ハオランがソウルカードのメッセージでヨウリンに確認したところ、ラズグリッドに店を構えたという返事があって知ることになった。
「出店のおっちゃんがラズグリッドの繁華街で店を出すとかどういう経緯だよ」
「金持ちのスカウトだって」
シュンジュに訪れたイスタルテの貴族がおっちゃんの肉まんに感動したらしい。
ちなみに、俺が通っていた大衆食堂の店長もスカウトされたが断ったとか。
確かに、中華風の料理はわかりやすく美味い。
こっちに連れてこれば繁盛するよ間違いなく。
でもそんな偶然あるのかよと思って、その日のうちに婚約者二人を連れて向かったところ、白いコックコートに潰したコック帽という装いのおっちゃんがいた。
何がびっくりかって、おっちゃんが俺とハオランに気づいたことだ。
「あの、お客さん、何年か前にシュンジュで暮らしてたことありません?」
頼んだ料理を食べてるとき、わざわざ厨房から出て確認しにきた。
既にGS社の宣伝は放映されていたので、若いウェイトレスが俺とソニアに気づき、厨房で「宣伝映像に出てた人が来てる!」と騒いだらしく「有名人が来たならちょっと見ておくか」と顔を見に来たら見覚えがあったという。
「おっちゃん、肉まん以外も作れたんだな」
「とっても美味しいよ。おっちゃん、僕ハオランだよ」
そう答えると、おっちゃんは目を見開き「やっぱりかあ!」と笑顔で言って俺の肩を軽く叩いた。その後は「同郷のよしみだ!」と飯を無料にするだとか、店員を呼んで紹介したりだとか、個室で良かったと心底思う事態になった。
店はおっちゃんの家族だけで経営しているとのことで、若いウェイトレスは「都会に出たい!」とせがんでついてきたおっちゃんの姪だった。
サインと写真の撮影を頼まれたので、気が早いなと思いながらも快諾した。
とはいえサインなんて書いたことがないし、俺は字が汚いのでどうしようかと思っていたら、ソニアが英語の筆記体でサラッと書いた。
なるほど、その手があったか。
真似をしてサラサラ書いたらハオランに「古代文字?」と訊ねられた。
「俺たちが昔使ってた文字だよ」
「ああー、そういうこと」
レクタスで読めるのが五人だけのサイン色紙は、写真と共に店に飾られた。
で、その日はしっかり代金を払って帰り、放映初日が決まった時点で予約。
おかしなことになると困るので貸し切りにした。
ソニアは遠慮すると言ったが強制参加だと伝えて現在一緒に向かっている。
俺の婚約者だって、皆に紹介しなきゃいけないからな。
「すみません、この通りは流石に入れないので、ここまでになります」
繁華街前で運転手に到着を告げられたので車から降りる。
うん、確かにこれは入れない。
スカーレットから「帽子は被るように」と強く言われた理由がよくわかった。
スタジアムで放映されて人気が出た攻略者が夜の繁華街に行くと、十中八九死人を出す程の騒ぎが起きる。そういう話を聞いてはいたものの半信半疑だった。だが実際に見て思った。どうやら大袈裟な表現ではなかったようだと。
人多すぎ。
警告に従い、ソニアはキャップ、ハオランはキャスケット帽を被っている。
素直に聞き入れて良かったよ。
俺はフードローブなので帽子は不要。下はチュニックとズボン。サイズ調整の魔術式がついているから着られるけれど、もうかなりボロい。
「どうしてその服に?」
「これなら目立たないし、皆と出会ったときの服でもあるからな」
「んー、でも雰囲気が全然違うよね。懐かしいっていうより怖いかも」
「え? そうか?」
「ええ、浮浪者よ。思いきり浮いて人目を引いてるわ」
ソニアとハオランはちょっと小洒落た普段着姿。
確かに俺だけハロウィンみたいになってるな。
だが変な人として人目を引いたというだけで、俺がスタジアムで放映されたダンジョン攻略者だと気づく者はいなかった。
あれだけ人で賑わっていたというのに。
有名人とは……?
「どうなることかと思ったけど、無事に着いたわね」
「ソニア姉ちゃんに視線が集まらなかったからじゃない?」
「はっ、それだわ。すごいわ。やるじゃない貴方」
「イスカ兄ちゃんって僕らまで騙すよね。そういう作戦なら言ってよ」
「ソニアよ、わかってて俺を追い詰めるのはやめなさい」
「ふふふ、なんのことかしらね」
ハオランの俺に対する絶対的信頼を利用して精神的苦痛を与える。
それがソニアの常套手段。
たまたま、計らずも、偶然、奇しくも上手くいったというだけで、作戦なんかまったく考えていなかったのをわかった上でのこの仕打ち。
「そういうとこ好きだぞ」
「えっ」
仕返しだ。
かぁっと顔が赤くなるのを見てニヤけながら酒家の扉を開ける。
「もう!」と怒ったように言われて背中を叩かれたけど気にしない。
店内に入ってフードをとる。と、ウェイトレスがわたわたと「おおおお待ちしてましたぁ!」と頭を下げた。色紙を抱えている。
「お、お連れ様を既にご案内しておりますぅ!」
「い、いやあの」
「きょきょきょ、今日、スススタジアムでですね!」
「あ、ああ、観に行ってくれたの?」
顔を真っ赤にしたウェイトレスがゴクリと喉を鳴らしぶんぶんと頷く。
もう目が泳ぎすぎて回っている。鼻息も荒い。
俺が狼狽えていると、ソニアがウェイトレスからすっと色紙を奪い取り、ストレージから取り出したペンでサラサラとサインし俺に渡す。
「ほら書いて。早く慣れなきゃ駄目よ」
「ソソソ、ソニアたん……! な、生ソニ……はふぅ」
ウェイトレスがくたりと床に倒れ込む。
「なんか昔のライブ映像の客みたいだな」
「失神ね。亡くなる人もいたらしいわよ」
「大変じゃない! なんで冷静でいられるのさ!」
ハオランがウェイトレスを介抱する。
でも必要ないと思う。
だって脱力しただけで恍惚としてるもの。
俺は色紙にサインしてウェイトレスに渡し、シュンジュを思い出させる中華風の店内を勝手に進んで奥の厨房に向かって声をかけた。
「おっちゃん! 来たんだけど!」
奥から出てきたおっちゃんがウェイトレスの不手際を謝罪して、二階の宴会場に案内してくれた。そこには六年ぶりの顔ぶれが揃っていた。
初めて見る小さな子供二人と共に。
「あっ、パ、パパ! イスカだ! ホントにイスカが来た!」
オンソウに抱かれた猿顔の男の子が俺を指差し、慌てふためく。
「うぇっへっへ、だぁから言ったろぉ? 友だちだってよぉ」
「友だちじゃなくて仲間だろ。久しぶりだなオンソウ」
片手を上げて言うと、オンソウも「おう」と片手を上げた。
その間にソンリェンとユーエンが立ち上がり、俺に素早く歩み寄っていた。
「あれ? 二人とも縮んだ?」
「馬鹿野郎この野郎! お前ぇがでっかくなったんだよ!」
「いっひ、観たぜ、ダンジョン攻略動画!」
「ブハハハ、ありゃとんでもなかったぜ!」
「二分でボス討伐とか何してくれてんだお前ぇはよ!」
二人に挟まれ肩を組まれたところで、俺の背後からハオランが顔を見せる。
するとシンイーが口を覆って立ち上がり、ヨウリンとメイメイもすぐ後に続いてハオランに駆け寄った。それはもう大変な感動の再会が始まった。
当然だ。酷い状態だったハオランしか知らないからな。
子供を抱いたオンソウとタイランが俺の側に来る。
「うわぁ、オンソウによく似てんなぁ。名前は?」
「リンチェイだ。ほれ、挨拶しな」
「リンチェイです! 五歳です!」
オンソウの息子リンチェイの頭を撫でつつ、タイランの娘を見る。
「んー、タイラン。こりゃメイメイ似の美人になるなぁ」
「喜ばしいことだ。ほら、挨拶しなさい」
「イーイーです。えっと、四歳です」
「ちゃんと挨拶できて偉いなぁ」
頭を撫でるとはにかんで笑った。リンチェイも嬉しそうだ。
嫌がられなくて良かったよ。
子供たちの紹介をしてもらったので、俺からはソニアの紹介をした。
が、婚約者だと言っても誰も驚かなかった。というか皆知っていた。
「ハオランとも結婚するんだろ? どうせなら私ももらっとくれよ」
シンイーがそう言って口を尖らせる。
「あ、ハオランのメッセージで知らされてたのか」
「ちょっと、そんな流し方しないどくれよ!」
「ブハハハ、もう俺かユーエンしか貰い手がいねぇって!」
「あ、兄貴、そいつぁ言っちゃいけねぇって!」
「ソンリェン! この唐変木!」
バチーン──。
「へぶっ!」
シンイーから力いっぱいビンタを食らい、ソンリェンがひっくり返る。
そして皆で爆笑。
これだよ。懐かしいな。
ソニアもあっという間に女性陣と馴染む。というか、馴染まされる。
ここにいるのは、そういう人たちばかりだ。
「変わってないな」
「うぇっへっへ、そんなに簡単に変われりゃしねぇよ」
「そうだな。だが、変わりたいと思った。イスカを見てな」
「なにそれどういうこと?」
「なぁに、俺たちも攻略動画を撮ってやろうかって思っただけよ」
驚愕。まさかそんな影響を与えてしまうとは。
「んー、でも最初級は人気ないぞ?」
「中級でやる。ルシファリスのベルゼを拠点にすることにした」
「いっひ、お前ぇのお陰で、貯えがたっぷりあるからなぁ」
「三十半ばで一旗揚げてやろうってことよ! ブハハハハ!」
「無理だけはしないでくれよ?」
「うぇっへっへ。俺らに限ってそりゃねぇよ。命が一番大事ってなぁ」
確かに。
む? それなら初心者用の安全な攻略法とか出せば売れるんじゃないか?
派手さはなくとも、需要は確実にあるだろう。そういう動画を出してる探索者もいるが、オンソウたちならもっと慎重にやる気がする。
ゲーム的な考え方も教えてあるし、ちょっと提案してみるか。
再会の宴は子供が寝るまで続いた。
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