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愛美~前編~
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しおりを挟む歩き出して間もなく、散策の片手間に御影山の謂れでも調べてみようと思いついた。ズボンのポケットからスマホを取り出して、少し考えて、またポケットに戻した。
ながら歩きは危ない。それが原因で怪我でもしたら、新しいスマホはお預けになる気がした。父はそういう狡いところがある。それに、来て早々そんなトラブルを起こせば、学がどんな風に馬鹿にしてくるか見当もつかない。母も心配するだろうし、ロッジに戻ればいつでもできることなので、我慢して散策に集中することにした。
ロッジの前の二車線道路の歩道を、来たときと逆方向に歩く。右側になだらかな傾斜のついた緑の下り坂があり、その先は幹の細い低木が点在する広大な野原。縁には柵が並んでいて、奥には街並み見下ろすパノラマが広がっている。
野原には、幾つもテントが設置してあり、親子や若い男女が結構いる。皆それぞれの時間を楽しんでいて、正にキャンプ場という感じの光景だ。
道の左側にも狭い野原があり、その先は勾配の強い緑の上り坂。坂の上から先は背の高い樹木が生い茂る林が続いている。
鳥の声、蝉の羽音。それらを聞きながら歩く。
振り返ると、自分の泊まるロッジが見えた。
だいぶ歩いたと思ったけど、まだ全然だった。
道は一本しかないので迷うことはない。ロッジが見えなくなるまで、もしくは舗装された道が途切れるくらいまでは進んでみようと思う。
道路の幅が狭くなり傾斜が出てきた。両側が林になる。丸太を使った簡素な階段が左に見えた。階段の脇に、木で作られた矢印型の看板がある。登山道と書いてある。
見上げると、砂利と土の混ざった道が林の中に続いていた。
道幅は狭く、人が二人並ぶのがやっとという感じに見える。靴が汚れるのはいやなので、私はそちらには進まず道路をまっすぐに進んだ。
太陽が眩しい。手で庇を作って進む。
正面に、背の高い草むらがあるのが見えた。その奥は林。道路は左に曲がっていて、右には車一台通れる幅の砂利道がある。側に矢印の書かれた看板があったので見てみる。左は展望台、右は川の名前が書かれていたけど、霞んでいて読めなかった。
展望台の方は上り坂、右の川へ向かう道はなだらかな下り坂になっている。
私は迷わず右に進んだ。この暑い中、坂なんて上っていられない。
道は蛇行していた。歩き出してしばらくすると、道幅が狭くなった。足下が砂利から土に変わって、せせらぎが聞こえてきた。左側の林の木が少なくなっていき、隙間から苔むした岩と水の流れが見えた。
そこで私は引き返すことにした。先に進めば、釣りができる沢のような場所に出るという予想がついたのと、目的達成で気分が晴れたからだ。
というより、疲れた。
分岐点まで戻り、草むらの近くで足を止める。行きは下りでも、帰りは上り。それを失念していた。私は膝に手を当てて乱れた息を整えた。
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