【完結】御影山キャンプ場にて~彼此繋穴シリーズR15短編~

月城 亜希人

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愛美~前編~

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 私は父に肩を借りてロッジに戻った。

 一人で大丈夫だと言ったのだけど、父が心配だと言い張るので仕方なく従った。

 父は何かと私に触れたがる。私はスキンシップが嫌いなので、体が密着して気持ち悪かったけど、あからさまな態度は取れないので我慢した。すべては新しいスマホのためだ。

 母が驚いた顔で出迎え、私はリビングに置いてあるソファに寝かされた。

「ちょっと、どうしたのよぉ」

「分からん」

 父が腰に手を当て、首を横に振る。

「まだ何も訊いてない」

「学は?」

「釣りだ、釣り」

「えー、一人で行かせたの?」

「しょうがないだろ。行くって聞かないんだから」

 父が険しい顔をして言う。

「それにな、学はもう十七だぞ。過保護にする歳は過ぎてるよ」

 父はソファの側に立ったまま、母に向かってそう言った。

 二人が話している間、私はぼんやりとロッジの内装を眺めていた。

 ロッジの中は綺麗で涼しかった。床はフローリングで、リビング、ダイニング、オープンキッチンと一部屋にすべてが収まっている。部屋の奥に扉が二つある。たぶんそこはトイレとバスルームではないかと思う。

 玄関の側に階段があったので、二階に寝室があるのだろう。三人いてもまったく狭くは感じないし、家具と家電も一通り揃っている。おまけにエアコンも効いているので、もはや自宅とほとんど変わらないように思えた。

 アランさんも、ドーム型の猫用ベッドの中で、快適そうに過ごしている。指で床を叩いて鳴らすと、私の方にやって来て可愛く鳴いた。

 アランさんの力は本当にすごい。たったこれだけで癒される。

「よしよし、後でコーミングしてあげるからね」

 囁きながら、アランさんの喉を指先で擦る。さらさらした柔らかい毛並み。アランさんは顎を上げ、気持ち良さそうに目を細めて喉を鳴らした。

 気分の悪さが治まってきたので、私は体を起こしてソファに座った。

 父が床に膝を着いて、私の肩に手を置く。

 母は心配そうな顔で水の入ったグラスを持ってくる。

「どうした、何があった?」

 私はグラスの水を少し飲んでから言った。

「変な男がいた」

「変な男って、何かされたのか!」

 父が私の両肩を掴み、尻上がりに語気を強くした。

 驚いたアランさんが逃げていき、猫用ベッドに駆け込む。

 私はそれを見届けてから、無言で首を横に振る。

 父は私に触れる手を放し、胸を撫で下ろすように息を吐いた。

「そうか、そうか、よかった」

「ねぇ、変な男って何よぉ。来たばっかりでそんなのに出くわすなんてぇ。何だか、いやな感じだわぁ。ここ本当に大丈夫なのぉ?」

 母が眉を顰め、相変わらずのごねた口調で訊いた。けど、父は相手にしなかった。

「変な男って、どんな奴だったんだ?」

 私はグラスを手に取り、残りの水を飲み干して言った。

「見た目は、中年くらいのホームレス。でも、何か違う。革靴を履いてて、靴底は破れてめくれて、それから、すごく臭って」

「ちょっとやめてよぉ。自殺しに来たとかじゃないでしょうねぇ」

「静かにしろ」

 父が忌々しそうに舌打ちして言う。

「それで?」

「上手く言えないけど、人じゃないみたいだった」

「はぁ? 何だそりゃ?」

「おばあちゃんが言ってた、よっちゃん、だっけ? そういう感じのものだと思う」

 父が不機嫌そうに溜め息を吐く。

「お袋がもう、余計なこと言うから」

「違うって」

 私は訴えるように言う。

「本当、本当に、そんな感じだったの」

「蛇食ってたってのか? え? 頭っから?」

「そう、それ」

 私は父を指差す。

「蛙を生きたまま食べてた」

 両親が驚いた顔で私を見た。私は続けて言った。

「蛙が口の中で跳ねてた。口の端から、脚が出てて、動いてた。それで、男が笑ったの。それから蛙の脚がブチッて噛みちぎられて、それから」

「何を馬鹿な」

 父が鼻を鳴らし、視線をテラス戸に向ける。それから小声で「そんな訳あるか」と否定的な言葉をぶつぶつ言いながら、私に視線を戻し、口を開きかけて動きを止める。

「何だ?」

 父は目を疑った様子で、またテラス戸に顔を向け、そこに足早に向かい戸を開く。

「お、おいおいおいおい」

 父が慌てた様子で言う。

「母さん、スマホスマホ、電話、電話取ってくれ」

「えぇ? どこに置いたのよぉ、もう」

「ああ、いい、いい、違う違う」父が母を手招く。

「外、ほら外」

 私たちは全員テラスに出た。

 父が息を漏らすような声で言った。

「あいつ、かぁ」
 
 
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