【完結】御影山キャンプ場にて~彼此繋穴シリーズR15短編~

月城 亜希人

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愛美~後編~

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「ねぇ、ここってお風呂あるんだよね?」

「あるぞ」

 父が座り直して言う。

「着替えついでにシャワーでも浴びてこいよ。気持ち悪いだろ」

 母が手を揉みながら顔をしかめる。

「愛美、そうじゃなくてぇ、その紅茶、私のよぉ?」

「え、そうだっけ?」

 私は紅茶を見る。もう残り少ない。

「ごめん、飲んじゃった。もう少しだし、全部飲むね」

 私が紅茶を飲み干すと、両親が不思議そうな顔をした。

「珍しいな」

「ねぇ、やっぱり変よぉ」

 母が父に顔を向けてごねた調子で言った。ごね方がいつもより強い。不安なのか、ずっと手を擦ったり合わせたりしている。

「どうしたの?」

 私が訊くと、父がきょとんとした顔で言った。

「お前、いつから回し飲みするの気にならなくなったんだ?」

 私は何を言われているのか分からず、空になったペットボトルを見る。別に気持ち悪くはない。母の飲みかけだからどうだというのか。これが父や学の飲みかけだったとしても家族なのだから別に気持ち悪くはない。回し飲みを気にしたことなど一度もない。

 私は黙って肩を竦めた。誰かと間違えてるんだろう。何を勘違いしているのやら。

 それから私は、空になったペットボトルを流し台に置き、蓋をキッチンの側にあるゴミ箱に捨てて、部屋の奥にある扉を開けた。そこはトイレだったので閉めて、シャツとズボンを脱ぎながら隣の扉を開ける。

「愛美!」

 母が叫ぶように呼んだ。驚いて振り向く私に、
「何してんのっ!」と続けざまに怒鳴った。

 母は眉間に深い縦皺を刻んでいた。まるで不快なものを見るように。

 困惑して父に目を向ける。と、驚いた顔で私を見ていた。それから突然我に返ったように咳払いをして視線を泳がせた。私は何がおかしいのか分からず、自分の体を見た。

 下着姿だ。何だろう? どこがおかしいのかな?

 視線を動かして気づく。二の腕と膝の辺りに血がついていた。

「ああ、これ? ごめん、びっくりしたよね。でも大丈夫だよ。私の血じゃないし、怪我はしてないから。ほら」

 私はその場でゆっくり一回転して言う。

「どこにも傷はないでしょ? あ、でもやっぱり気持ち悪いよね。死んだ人の血が体についてるって、なんだかいやな感じするもんね」

 父が私の体に舐めるような視線を向けていた。母は顔が引き攣っていた。
 
 
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