18 / 29
愛美~後編~
3
しおりを挟む「ねぇ、ここってお風呂あるんだよね?」
「あるぞ」
父が座り直して言う。
「着替えついでにシャワーでも浴びてこいよ。気持ち悪いだろ」
母が手を揉みながら顔をしかめる。
「愛美、そうじゃなくてぇ、その紅茶、私のよぉ?」
「え、そうだっけ?」
私は紅茶を見る。もう残り少ない。
「ごめん、飲んじゃった。もう少しだし、全部飲むね」
私が紅茶を飲み干すと、両親が不思議そうな顔をした。
「珍しいな」
「ねぇ、やっぱり変よぉ」
母が父に顔を向けてごねた調子で言った。ごね方がいつもより強い。不安なのか、ずっと手を擦ったり合わせたりしている。
「どうしたの?」
私が訊くと、父がきょとんとした顔で言った。
「お前、いつから回し飲みするの気にならなくなったんだ?」
私は何を言われているのか分からず、空になったペットボトルを見る。別に気持ち悪くはない。母の飲みかけだからどうだというのか。これが父や学の飲みかけだったとしても家族なのだから別に気持ち悪くはない。回し飲みを気にしたことなど一度もない。
私は黙って肩を竦めた。誰かと間違えてるんだろう。何を勘違いしているのやら。
それから私は、空になったペットボトルを流し台に置き、蓋をキッチンの側にあるゴミ箱に捨てて、部屋の奥にある扉を開けた。そこはトイレだったので閉めて、シャツとズボンを脱ぎながら隣の扉を開ける。
「愛美!」
母が叫ぶように呼んだ。驚いて振り向く私に、
「何してんのっ!」と続けざまに怒鳴った。
母は眉間に深い縦皺を刻んでいた。まるで不快なものを見るように。
困惑して父に目を向ける。と、驚いた顔で私を見ていた。それから突然我に返ったように咳払いをして視線を泳がせた。私は何がおかしいのか分からず、自分の体を見た。
下着姿だ。何だろう? どこがおかしいのかな?
視線を動かして気づく。二の腕と膝の辺りに血がついていた。
「ああ、これ? ごめん、びっくりしたよね。でも大丈夫だよ。私の血じゃないし、怪我はしてないから。ほら」
私はその場でゆっくり一回転して言う。
「どこにも傷はないでしょ? あ、でもやっぱり気持ち悪いよね。死んだ人の血が体についてるって、なんだかいやな感じするもんね」
父が私の体に舐めるような視線を向けていた。母は顔が引き攣っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/8:『そうちょう』の章を追加。2025/12/15の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/7:『どろのあしあと』の章を追加。2025/12/14の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/3:『かがみのむこう』の章を追加。2025/12/10の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/2:『へびくび』の章を追加。2025/12/9の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる