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愛美~後編~
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しおりを挟むサイレンの音が止まってしばらくすると、大勢の警察官が野原に姿を見せた。警官隊は野次馬を威圧するような大声でどかし、殺人現場の処理を始めた。
遺体の周囲がブルーシートで囲われ、ポールが立てられてテープが張られる。途中で救急隊員が一人ブルーシートの中に入ったが、すぐに出て行き視界から姿を消した。
私はまた道路に目を向けたけど、黒ずくめの男女はもういなくなっていた。
「災難だな、くそ」
父が不機嫌そうに言ってロッジに入る。母がその後を追い、私は二人に続いてリビングに戻る。父はソファに身を沈めて汗を拭うように自分の顔を撫でていた。動作に小さく唸るような声が入っていて、苛立ちが見えた。
父の隣に、不安げな表情の母が座って言った。
「ねぇ、これからどうするの?」
「どうするったって、帰るしかないだろ。こんなことになってんだから」
母がほっと息を溢す。
「そうよね、あー、良かった」
「良くはないだろ。予定が台無しになったんだから」
「そんなの、また立て直せばいいだけじゃないのぉ」
私は両親のそんなやり取りを聞きながらアランさんを探していた。癒しを求めていた。アランさんは階段の側で座っていた。私に気づくと鳴いて寄ってきた。
私はアランさんを抱っこして、リビングの隅にまとめて置いてある荷物の方へ行った。そこで自分のバッグを開けて、アランさんのコームを取り、ダイニングテーブルの席に座って、アランさんのコーミングを始めた。
アランさんは私の膝の上で丸くなってあくびをする。ブラッシングをするといやがって逃げるので、毎日コーミングで毛を整えている。アランさんもコーミングがお気に入りのようで、されている間に寝てしまうこともある。それが私にとっても癒しになる。昨日の夜にもとことんやったので、毛はまったくと言っていいほど抜けなかった。
「アランさん、終わりましたよ?」
アランさんは頭を上げて私を見ると、小さく一声鳴いて、膝の上から飛び降りた。それから尻尾を大きく振りながら、リビングを闊歩し始めた。
なんて偉そうなんだろう。
私は軽く笑ってキッチンに向かい、冷蔵庫を開けた。中には、バーベキュー用の食材と、朝コンビニで買った飲みかけのペットボトルの紅茶と缶ビールが入っている。
私は紅茶のペットボトルを取り出して、リビングに向かって歩きながら蓋を開けて飲んだ。
すると母が驚いた顔で「あ」と声を上げ、ソファを立った。
「愛美、それ」
「え?」
私は自分の体を見る。服が血で汚れている。忘れていた。アランさんのコーミングの間もまったく気づかなかった。急に不快感が出てくる。どうしてこんな状態で平然としていられたのかが疑問だ。
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