25 / 29
学~後編~
5
しおりを挟む母さんがテラス戸のカーテンを閉めてから数時間が過ぎた――。
外に出れば、キャンプ場が売りにしている星空と夜景が望めるんだろうが、誰も見に行こうとしなかった。
父さんはソファに身を沈めて居眠りし、母さんはキッチンで洗い物を続けている。器が触れ合う音と、蛇口から出る水の音が申し訳程度に聞こえてくる。
俺はダイニングテーブルに突っ伏し、ぼんやりとアランを観察していた。リビングの中を歩いては止まり、尻尾を振っては鳴き、横になりあくびをする。
姉ちゃんが恋しいのか、たまに二階に行きたがる素振りを見せるが、階段を上がる前にくしゃみをして逃げ帰ってくる。何かに怯えているように見えた。
二階にいる姉ちゃんには、二人の警察官の手で拘束衣が着せられた。それを着せられている間、姉ちゃんはボーっとしながらも少し戸惑っていた。だが中年の警察官から、
「拘束衣はあなただけでなく、家族の安全も考慮して着せるので我慢してください」
と説明されると落ち着いたようだった。俺は、どうして姉ちゃんが落ち着けるのか分からなかった。不思議でならなかった。
両親も同じ気持ちだったようで、二人の警察官に安全を考慮しなくてはならない理由についての説明を求めた。
だが返答は、「上からの指示」という言葉だけだった。警察官たちも困ったような顔をしていたから、もしかすると、何も知らされていないのかもしれない。不安ばかりが募った。
寝室で休む気は失せていた。姉ちゃんの様子を見たら、体の内側が収縮したような不快感が起きた。
何か悪いことが起こる気がして、寝てはいけないように思った。だが、そんな俺とは対照的に、家族は呑気なものだった。
警察官たちが帰った後、父さんはまたソファで居眠りした。母さんは、その隣で微睡みの中を漂っていた。
朝も早かったし、色々と心配が重なってそうなっているのだと解釈したが、その所為で俺は余計に気を張ることになった。
一番呑気だったのはアランだ。家族で昼飯を食べたのはアランだけだった。俺の足に体を擦りつけて催促してきたので用意してやった。
「俺はお前の執事じゃないんだぞ、分かってんのか?」
そう文句を言ったが無視された。アランは餌に夢中でそれどころではないようだった。
ふてぶてしい奴め。と思いつつ、テレビをつけてバラエティ番組を観た。両親を起こさないように音量をほぼ聞こえないところまで下げたので、面白くもなんともなかった。
チャンネルを変えると、この御影山キャンプ場の事件を緊急報道していた。狂犬病患者と思われる男が利用客の女性を殺害というテロップが出ていた。
映像が切り替わり、体育館で利用客が医者に診てもらっている状況が映し出された。
そこに蝙蝠から感染というテロップが出た。音量を上げると、専門家が意見を話していた。
その専門家が言うには、この山にある洞窟に巣くっている蝙蝠が狂犬病を媒介した可能性が高いとのことだった。
蝙蝠が人を襲うことがあるのかとか、野犬がいるのではないかという質問に対する返答も自信満々にしていた。それから狂犬病の恐ろしさを煽るような編集映像が流され、最終的には狂犬病への対策についての説明がなされた。
俺は鼻を鳴らしてテレビを消した。こんな嘘っぱちの報道を世間が信じるのかと思うと馬鹿にしたような気分になった。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
怪奇蒐集帳(短編集)
naomikoryo
ホラー
この世には、知ってはいけない話がある。
怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——
どれもがただの作り話かもしれない。
だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。
本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。
最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる