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異世界居候編
6.狐とステボと前科持ち(3)
しおりを挟むカタセ君が要領を得ないといった様子を見せたので、俺はそのまま言葉を続けた。
「俺は最近のロールプレイングゲームって知らないんだけどさ、今でもボスに与えるダメージの調節ってする?」
「しますよ。一定のダメージで行動が変化するボスキャラもいますんで」
「なら分かるだろうけど、もし現実にライフ表示があったら、人にもそれがやられると思うんだよね。要するに拷問に利用されるってことなんだけどさ、死なないギリギリを責められそうじゃない?」
カタセ君が眉を顰める。
「やめてくださいよ。急にサイコなこと言うの。発想がヤベーっすよ」
えぇ……?
露骨に引かれてショックを受けたところで、背後から草木を踏み分けるような音がした。振り返ると、剣道着に似た和装の女性が少し離れた森の中に立っていた。
あの三人と同じく狐のような耳があり、背後で尻尾が揺れている。違うのは髪色が銀であることくらい。腰には刀が二本。黒鞘の打刀と脇差を帯びている。
「二人だと?」
その大小二本差しの女性は眉根を寄せて呟いた。
「迎え、ですかね?」
カタセ君がこちらに顔を寄せ、小声で訊いてきた。
分かる訳がない。何故俺に訊く。と思いながら、俺は「多分」と返す。
二人で立ち上がり、女性と向き合う。その際、カタセ君が砂を握ったのがチラリと見えた。
砂を掛けての目くらまし。俺は呑気にしてたのにカタセ君は凄い。この女性が危害を加えてくる可能性もなくはない。逃げなくてはいけないかもしれない。
そんなことを考えていると、女性がふっと短く息を吐いて苦笑した。
「ああ、すまぬな。拙者はスズランという。リンドウから、渡り人がいるから迎えに行けとしか聞いていなくてな。まさか二人もいるとは思わなかったのだ」
俺はホッと安堵の息を漏らし、緊張を解く。
だがふと見ると、カタセ君は砂を握ったまま。体も顔も強張っている。
「ふむ、警戒は解かんか。君は渡り人らしくないな」
「俺のこと、ですよね? どうしてです?」
「渡り人とは、そちらの彼のように、すぐに気を許す傾向にあるのでな」
顎で示されて、俺は「うっ」とたじろいだ。
顔が熱くなる。警戒心の薄さを露呈してしまった。これは恥ずかしい。
両手で顔を覆って震える俺には一切触れず、二人の会話が続く。
「すぐに気を許さぬこともそうだが、何より君はステボを出しているからな」
「なるほど。やっぱり見えるんですね」
カタセ君が自分のステータスボードを指差す。と――。
「自分でそのように設定したのだろう? どれ、拝見」
スズランがカタセ君のステボを覗き込んでいた。突然すぐ側に立たれて声も出せず硬直する。一瞬で距離を詰められたカタセ君は口を開けてぽかんとしていた。
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