18 / 409
異世界居候編
18.五十六の名言と希望ある推測で迎える幸せな朝(1)
しおりを挟む日本では、風呂で溺れて死ぬ事故は結構多いらしい。浴槽内溺水と呼ぶそうで、推定では年間二万人近くが亡くなっているのだとか。冬場から春先に掛けては特に注意が必要とのこと。
つい今しがたマツバラさんから聞いた話である。
「マジ焦りましたよ」
「面目ない」
「いえ、大事なくてよかったです」
不覚にも、入浴中に居眠りをしてしまった。言葉通り、湯の心地良さに沈んだという訳だ。
側にいた二人が異変に気づき、すぐに引き上げてくれたお陰で事なきを得たが、こうして寝床に入ってからも話題にするのは少々引っ張りすぎではないかと密かに思う。
少し前――。
ちょっとした事故はあったものの、無事に入浴を終えた俺たちはスミレにこの部屋へと案内された。旅館のように部屋に入った時点で布団が用意されていたが、それは今晩のみのことらしく、明日からは自分たちでやってくれとのことだった。
「見ての通り俺たちもいい歳なんで、ここまでお気遣いしてもらわなくても良かったですよ。布団を敷くくらいならできますし。何から何まで申し訳ないので」
「皆さん親切ですので、こうすることで気を遣わせてしまうのは分かっているのですが、イノリノミヤ神教の教えで『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ』というものもありますので、寝具の場所と扱い方の説明まではこちらもせざるを得ないんです。それに、皆さんの世界とは勝手が違うこともあるでしょうから」
というのが、俺たちが床に就く前、案内役のスミレと苦笑しながらした会話。確かに彼女の言う通り、寝具一つとっても、いつどこで洗うのか、干すのか、また洗い方や干し方など、いざ説明が始まってみれば質問もかなり出た。
後々スミレを煩わせることのないようにという思いから真面目に取り組んだが、そう思っていたのは俺一人だけではなかったようで、カタセ君もマツバラさんも積極的に質疑応答に参加し、話し合い、最後には役割分担まで行った。
役割分担は、カタセ君とマツバラさんがほぼ同時に提案したことだった。俺が料理を担当することになったのが理由らしい。
「食事の後の洗い物とか洗濯は、水属性持ちの俺がやった方がいいですよね」
「じゃあ、俺は掃除と洗濯物の取り込みを担当します。他にもできることがあれば声を掛けてください。何でもしますんで」
二人とも気のいい若者だよなぁ。ただあれは山本五十六の名言だったよなぁ。
カタセ君がいまだに続けているヒノキ風呂溺水事件の話を右から左に聞き流しながら、俺はそんなことを思って小首を傾げていた。
それもこれも、俺とカタセ君が川の字の両端にいるからできることだ。もし真ん中がカタセ君だったら、すぐに聞いていないとバレて叱られていただろう。
「カタセさん、その辺で。ほら、カガミさんはもう聞いてませんから」
マツバラさん⁉
まさかの伏兵による襲撃。
慌てて「聞いてる、聞いてるよ!」と必死にアピールしたのだが、どうもそれが疚しいことを抱えているように映ったらしく、俺は二人から細く狭められた疑いの目を向けられた挙げ句に「じゃあ、俺が最後に話した内容言えます?」とカタセ君から質問を投げられ敢えなく撃沈した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる