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アルネスの街編
49.神樹も花咲く絶世の笑顔(9)
しおりを挟む眉を下げていたリンドウさんだったが、不意にまた驚いたような顔をした。それが感動に打ち震えているような表情に変わり、喜色満面になる。
「わしの阿呆の所為で、一瞬、事の大きさを忘れとったわ。ユーゴ、ヤスヒト、サクヤ。お前ら、とんでもないもん見たんやぞ。ステボ開いてみぃ」
言われて、ステボを確認する。能力値に変化はなかったが、フリックしてスキル欄を見ると【魅惑無効】という常時発動型のスキルが増えていた。
効果説明に目を通して絶句。『打算悪心を内包する偽りの好意に一切の魅力を感じなくなる』という凄まじい効果があった。
「これやばくないっすか?」
「ハニートラップ避け、というだけじゃなさそうだな」
「これな、この世で最も尊いとされる三十歳以下のハーフエルフの特別な笑顔を、波動を受けつつ目の当たりにせんと手に入らんスキルや」
「うわ、条件複雑」
「しかもや、特別な笑顔っちゅうのも、心の底から喜んどらんとアカンからな。その笑顔は至上とされとって、一度でも見たら魂に刻まれて、偽りの好意に魅力を感じることはなくなるっちゅう話や」
「それは凄い。いうなれば伝説の笑顔ですね! サイネちゃん、フィルをよしよししてあげて!」
「いや、もういいよぉ」
フィルが耳まで真っ赤にして顔を両手で覆っている。それはそうだろう。初対面の人に自分の笑顔についての賞賛と説明をされるなど、どれだけ長く生きていようがありえることではない。
羞恥の極み。生き地獄だ。
俺がふざけて、リンドウさんが満足気に笑い、ヤスくんは苦笑して、サクちゃんはウイナちゃんを可愛がりながら世話をする。
俺の横では、フィルがサイネちゃんによしよしされて、恥ずかしがりながらも満更でもない様子。
「カキ氷、溶ける前に食べちゃいましょうか」
とても幸せな時間だと思った。
カキ氷を食べ終えた後で、来ていなかったスズランさんとマモリ見習い二人の分を手土産に渡した。
「ほんなら、またな」
リンドウさんたちが帰るのを、皆で手を振って見送る。
「次に会えるのはいつっすかねぇ。サツキくん元気にしてるかなぁ?」
「あ、しまった。借金返済しとけば良かったね」
「それはこちらから会いに行って渡すべきだと思うぞ」
「はぁ、ウイナちゃんとサイネちゃん、可愛かったなぁ」
少しばかりしんみりしたが、営業再開してそんな気分を払拭。サクちゃんも手伝ってくれたので、小一時間で完売。
営業終了となり、その後はサクちゃんが久々に早い時間からいるので、ステボの確認やら今後についての話などして過ごした。
翌日、リンドウさんが一人でカキ氷を買いに来た。
昨日のしんみりはなんだったのか。
俺たちの表情がそれを物語っていたのか、リンドウさんも気まずそうだった。
「言いたいことは分かる。わしもこんな早く再会するとは思うてへんかったからな」
子どもたちよりも、スズランさんとスミレさんの圧がすごくて断れなかったとのことだった。
彼女たちがリンドウさんを使ってリピーター化したのは言うまでもない。
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