23 / 117
静かな森の出会い編
10
しおりを挟む*
ルシウスに声を掛けて、私たちはシャドウウルフと一緒に洞窟を出た。
それで滝壺の方に向かおうとしたのだけど、そこには先客の姿があった。
二匹は棍棒を持った小柄な緑色の人。ゴブリンね。
一匹は赤い帽子を被っていて、手にはナイフを持っている。
《レッドキャップだ!》
「ノイン、下がって」
シャドウウルフとルシウスが臨戦態勢をとる。
私は小声で注意してくれたルシウスの背に隠れた。
肩の上で、シクレアが跳ねる。
《酷い! あれじゃ水が駄目になっちゃうわ!》
ゴブリンが二匹、滝壺に顔を突っ込んで、がぶがぶと水を飲んでいる。
レッドキャップは周囲を警戒している。
よく見ると、ナイフが紫色に染まっている。
確か、レッドキャップって普通のナイフを持っているはずなんだけど。
《ねぇ、シャドウウルフ、あのナイフって何?》
《分からん。あれに斬りつけられて、俺のつがいは、あんな風になったんだ》
シャドウウルフも分からないってことは、訊くしかないわね。
だけど、どうしようかしら。
私の目に映る光は赤が三つ。それも真っ赤。
交渉しても大丈夫なのか分からない。
「ノイン、どうしたの?」
私がどうしたものかと唸っていると、ルシウスが訊いてきた。
「あにょね、ナイフが変にゃの。毒がにゅられてるの」
「それなら、この辺りにいるポイズンワームを潰して塗ってるんだと思う。ゴブリンの中でも、一部はそういうことをする知恵があるって聞いたことがあるよ」
「そうにゃの⁉」
ルシウスが「うん」と頷く。
「そういう敵は、危険だって聞いてる。ノインは魔物と話せるのかもしれないけど、そういうのは相手にしない方がいいよ。騙し討ちされちゃうと思うから」
「うん、わかっちゃ」
今回、私の出番は、なしみたい。
シャドウウルフとルシウスに任せることにした。
《おい、俺は行くぞ?》
《うん、頑張って!》
シャドウウルフが、牙を剥いて素早く滝壺に向かい駆けていく。
それを合図にするかのように、ルシウスも駆けていった。
《私も行くわね!》
私の肩からシクレアが翅を広げて飛び立つ。そしてルシウスの隣に並んだ。
シクレアに気づいたルシウスが自分から近づく。その肩に、シクレアが止まった。
私は一度洞窟に戻って、手ごろな大きさの石を集めて出入口の側に運んだ。
二個ずつ手に持って、蔓を除けて顔を出す。
外を覗き見ると、レッドキャップとシャドウウルフが睨み合っていた。
ゴブリン二匹の方は、ルシウスとシクレアのコンビと睨み合っている。
任せようと思ったけど、やっぱり何もしないとウズウズしてくるものね。
陸上で遠投もやってたし、石くらい投げて応援しましょうか。
投石なんてやったことないけど、似たようなものでしょ。
体は小さいけど、たぶん大丈夫なはず。
私はドレスの袖をめくり上げ、ぐるぐると肩を回して調子を確認する。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる