【完結】エルモアの使者~突然死したアラフォー女子が異世界転生したらハーフエルフの王女になってました~

月城 亜希人

文字の大きさ
59 / 117
エルモアの使者編

鍾乳洞からの脱出(1)

しおりを挟む
 ノインが倒れると叫んだとき、ルシウスはすぐに動いていた。
 ノインが言うことは必ず起こる。それをルシウスは信じて疑わない。だからこそ、ノインが気を失ってすぐに抱き止めることができた。

「まったく、急なんだから」

 七歳の少女。まだ幼女と呼んでも差し支えない小さな体を抱え上げ、アスラの背に乗せる。そしてルシウスもまたノインの支えになる為に、アスラの背に飛び乗った。

 奥にある水面が爆ぜ、巨大な水柱が次々と起こったのは、まさにその瞬間だった。
 飛沫が雨のように降り注ぎ、それを浴びたアスラが数回唾を吐き出す。

《なんだこの水は⁉ 塩気があるぞ⁉》

《あら本当。興味深いわ》

 ノインの緊急事態だと察したシクレアも出てきていた。
 アスラの毛に付着した水滴を指につけて口へと運び、呑気な言葉を呟く。

《毒は?》

《ないわよ。これは海水っていうの。南の方に、海っていう塩水の大きな池があるそうよ。ここの水はそこと繋がってるらしいわ》

《流石、博識だな》

《全部、ついさっきノインから聞いたことだけどね》

 水面から、水柱を上げて飛び出したのはマーマン。その数は十体。
 アスラとシクレアは、会話をしながらも、警戒していた。

 ルシウスも二匹と同じく警戒していた。体に浴びた飛沫を振り払うこともなく、マーマンの群れから視線を外さず、逃げ出す機会を窺っていた。
 今はまだ睨み合いの段階だが、背を向けた途端に襲い掛かってくるのは目に見えていた。数の上で有利な相手が、油断を見せるのを待っていた。

 アスラもルシウスの考えていることを理解していた。言葉は通じずとも、三年以上行動を共にしている。アスラはあまり辛抱強くないが、築かれた信頼が合図を待たせた。

 しばらくして、マーマンのうち半数が視線を逸らした。ルシウスはその折を見逃さずに手綱を引いた。アスラは機敏に反応して反転し、一目散に部屋を飛び出した。

《シクレア! 追ってきてるか⁉》

《半分! あっ! 槍を投げるわ!》

 ルシウスの肩越しに背後を見ていたシクレアが叫ぶ。それと同時にシクレアはルシウスの頬をペチペチ叩いて後方を指差した。ルシウスは即座に察して、背後を見た。

 直後、追ってきたマーマンが、槍を投擲した。ルシウスは手綱でアスラに指示を出し、飛んできた槍を躱す。槍は鍾乳石を砕いて、地面に転がった。

《興味深いわ! なんで見てないのに避けれる訳⁉》

《ルシウスが教えてくれるからだ! 任せておけば問題ない!》

 人を二人乗せているとはいえ、アスラの方が速度は上。マーマンとの距離は見る間に開いた。マーマンが槍を投げたのは追いつけないと覚ってのことだった。

(よし。難は乗り切った。あとは……!)

 ルシウスは手綱を軽く数回引いた。それは止まれの合図だった。
 思いもよらない指示に、アスラは怪訝に思いながらも足を止める。
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...