【完結】エルモアの使者~突然死したアラフォー女子が異世界転生したらハーフエルフの王女になってました~

月城 亜希人

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眠り姫の目覚め編

アデル出陣(2)

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「皆聞け! 敵は竜騎兵だ! 街壁は意味をなさん! 王都空襲を止めることはできんだろう! ゆえに、我らの役目は王都へ到達する数を減らすことにある! 全力で魔法を撃ち込み、こちらに引きつけよ! 後のことは考えるな! 行くぞ!」

「アデル将軍、ご出陣!」

 太鼓が打ち鳴らされ、鬨の声が上がる。

「出立する!」

 アデルが叫び、剣で前方を指し示しつつ騎馬を駆る。
 その後を、五百騎の騎馬兵が追う。正に疾風迅雷。アデルの引き連れた騎馬隊はあっという間に通りを駆け抜け王都の門を出た。
 竜騎兵との距離はまだ開いている。アデルは出来る限り王都から離れた位置での接敵を狙っていた。ゆえに何より速度を重視した。兵、軍馬共に軽装備なのはその為だ。

「構えー!」

 アデルが剣を鞘に収め、片手を竜騎兵のいる方向に向ける。それを目にした後続の兵たちが順次その動きに倣う。竜騎兵との距離が徐々に詰まる。

「放てー!」

 アデルの手から槍のような形状の炎が飛ぶ。それに合わせ、兵たちも各々、自身の身に宿している属性の攻撃術を放っていく。

 火の矢、氷柱、風の刃、石塊――それらが竜騎兵に向かい飛んでいく。しかし、到達する前に竜騎兵が散開してしまう。
 アデルはそれを見越していた。立て続けに魔法を撃ち続け、弾幕を作る。しばらくすると、逃げ場を失った竜騎兵に魔法が当たりだした。

 一度でも命中すれば、バランスを崩し弾幕の餌食となる。落下する同胞の姿を目にしたワイバーンたちが怒り狂い、口から火の球を吐き始める。

 それは空中で騎馬隊が放った魔法と衝突して爆散し、火の雨となって地に降り注ぐ。躱せなかった者たちが次々に落馬していく。命を落とす者も少なくなかった。

「怯むなー! 放てー!」

 竜騎兵の半数が騎馬隊の上空を通過した。残る半数は弾幕の回避に手間取り、先へと進めずにいる。アデルは半数を足止めできなかったことを悔いたが、決して攻撃の手を緩めようとはしなかった。
 何体かの竜騎兵は制御不能に陥り地面に落下した。アデルは隣にいる副官に指揮を任せ、単独で落下した竜騎兵にトドメを刺しに向かう。
 その最中、不意に一騎が急降下してきた。気づいたアデルは咄嗟に手綱を引いて騎馬を止めた。嘶きを上げて前脚を上げる騎馬の目前に、ワイバーンが猛然と爪を立てる。

 アデルは即座に騎馬の横腹を蹴って走らせ、ワイバーンの眼前を通り抜けざまに長剣を抜き放った。斬撃がワイバーンの喉を通り抜け血を噴かせる。
 そこでアデルは自分に向けられた魔力の流れを察した。明確な殺意に肌がひりつく。騎馬を止めても、向きを変えても、もう間に合うことはないと覚る。

(すまん、許せ!)

 アデルは咄嗟に騎馬から飛び降りた。それとほぼ同時に剣閃が走り、馬の首が刎ね落ちる。受け身をとって素早く向き直るアデルの目に、首を失った馬が横倒れになる光景が映る。

「チッ、勘のいい野郎だな」

 絶命したワイバーンの陰からゲオルグが姿を現す。アデルは立ち上がり対峙する。

(人? いや、魔物か?)

 異質な悍しさにアデルは直感した。
 これが、ルシウスから報告を受けたエルモアの敵であると。

 だが話せるとは聞いていなかった。自我を失い、ただ暴れ回る獣のようだったと知らされていたアデルは、目の前の敵がより厄介な存在であると油断なく判断した。

「まぁいいか。馬はぶっ殺してやったし、後はお前だな」

「何者だ。名乗れ」

「冷たい男だ。血を分けた弟のことも忘れたか」

 ゲオルグが嘲笑する。アデルは目を剥いた。

「まさか、ゲオルグ――⁉」

 アデルは会話を続けようとした。だが、ゲオルグは話す気がなかった。ガーランディア王国を蹂躙せねばならないという強迫観念に囚われ、アデルなど眼中になかった。
 ゲオルグは手にした長剣で力任せの打ち下ろしを何度も繰り出し、一気に畳み掛けにいく。アデルはその猛撃を剣で受け続けた。まともに受けたのは初撃だけで、二撃目からは力を受け流すことに努めている。にも拘らず、剣の損耗が激しい。
 ゲオルグの力と速度は人間離れしていた。土魔法で壁を作って距離を取るが、一瞬で壁を破壊されて詰められる。防戦一方で、疲労の溜まりも早い。

「早く死ね! 鬱陶しい!」

(ここまでの化け物とは……!)

 言い返す余裕がない。刃から火花と微細な欠片が散る。ゲオルグの一気呵成の猛攻に体力の限界が近づき、遂にアデルは片膝を着いた。
 しかし、アデルの心は折れていなかった。
 驟雨の如く打ち込まれる剣を、頭上に掲げた剣で防ぎ耐え忍ぶ。

(まだだ……! まだ、私の役目は終わっていない……! 必ず好機が――)

 アデルが自身を鼓舞した直後、剣が真っ二つに折れた。
 
 
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