42 / 81
14‐3 怨嗟の村(後編)
しおりを挟む「あら?」
俺はいつの間にか麓の村へと着いていた。
振り返ると誰もいない。
どうも皆を置いてきてしまった模様。
「考えごとしてると周りが見えなくなることってあるよな」
【随分と苦悩されていましたね。何度か声をかけたのですが】
「悪い。聞こえてなかった。護衛に行ってくれるか?」
【かしこまりました】
ポチが俺の背から離れ、シャカシャカ歩いて山道へと戻って行く。
飛ばないのかよ。
疑問に思いつつ見送った後で、俺は手で庇を作り村を眺める。
「えーっと、ジウルイの家は……あそこか」
俺は最も大きな家の前に荷車を引いて向かう。お届け物の配達だ。
足早に進んでいると村民たちがざわつき始めた。ガタガタゴトゴトうるせぇんだわこの荷車。地面がよくないってのもあるが、目立ってしょうがないんだよ。
村民の何人かがついてきたが知らん顔して足を進める。そりゃこんなもん積んでたら目を疑って見に来るわな。今の俺は西陽に照らされた残酷な旅商ってとこかね。
ついてくる村民の数は増えていき、やがてジウルイの家に着いた頃には人だかりができていた。物凄い怨嗟が荷車に向けられているのを感じる。こりゃいかん。
俺は村民たちに向き直って声を張り上げる。
「こいつらに危害を加えるのは待ってくれ。まだ役者が揃ってないからな」
「あ、あんたは一体……」
「俺? 俺は──」
名乗ろうとして、ふと思いつく。
これは、ちょっとした助けになるかもしれんな。
「俺はセイジ。レイジェン皇国の皇帝リュウエン陛下の懐刀といったところだ。密命を受け、宰相のロジン殿と共にこの村を救いに来たんだよ」
「こ、皇帝陛下が……!?」
「宰相様まで……!?」
ざわめき立つ村民を俺は手で制して言葉を続ける。
「陛下はこの村の民に辛い思いをさせたことを嘆いておられた。それもこれも、ここの地主のジウルイが国を欺いていた為だ。それは皆も知っているだろう?」
「ああ、汚い野郎だって知っているとも……!」
「伝えたくてもできなかったのよ! 連れ戻されて!」
「俺たちは、どうすりゃいいかわからなかったんだ!」
「そうだろうとも! だが、その地獄も今日で終わりだ! 即位して間もないにもかかわらず、リュウエン陛下が異常に気づかれ対処してくださったからな!」
村民たちがわっと歓声を上げて泣きながらリュウエンを称えだす。
なんか、ちょろいな……。
教育水準の低さが浮き彫りになった感じがする。
ここまで簡単に騙されるとは。
まぁ、だからこそジウルイにもやり込められたんだろうが……。
少し心配になったからロジンに対策を講じるように言っとこう。
お節介だけどな。
さて、そろそろ主役を呼ぶとするかね。
俺は振り返り、扉を壊さないように叩いて叫んだ。
「地主さーん! 頼まれてた肉のお届けに参りましたよー!」
窓から怯えた顔でこちらを覗くジウルイに笑顔を向けてやる。真っ赤な夕陽を背にした民衆と変わり果てた姿の賊、暗く陰った俺の笑顔はさぞ怖ろしかろうて。
様子がおかしいって気づいて隠れてんだよな。知ってる。ずっと窓から様子を窺ってたのが見えてたからな。必死になって頭を働かせてんだろう。
だが、無駄だ。今更どうしようもない。
手練手管でどうこうできる時期は過ぎてんだ。
「居留守を使っても無駄ですよー! もしかして本当に肉を持って帰ってくるとは思ってなかったんですかねー? 身ぐるみ剥がれて殺されてるとでもー?」
ロジンや俺のことを賊に始末させる気でいたってこともわかってんだ。じゃなきゃ集落の道なんか教えねぇもんな。気づいた奴はわざと向かわせて殺してきたんだろ。
生憎と隣の農村まで噂は広がってたよ。
手前ぇはやりすぎたんだ。
怨嗟が晴れるまで村民を慰めるんだな。それが村のまとめ役である手間ぇの仕事だ。簡単には恨みが晴れないだろうが、その辺りはしっかり協力してやるよ。
簡単には死なないように薬を置いてくからな。
こっからは手前ぇらが地獄を見る番だ。ざまぁみやがれ。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる