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20‐1 金策開始(前編)
しおりを挟むダンジョン到着後、門前にギエンの姿がなかったので兵士に声をかけて訊いたところ詰め所にいるとの返答があった。「呼んできましょうか?」と言ってくれたが、丁重にお断りして会いに向かうことにした。仕事の邪魔はしたくないからな。
ダンジョンは相変わらず大盛況の様子。出入り口前は冒険者が長蛇の列を成している。あそこに並ぶのかと見ただけで辟易する。入場料でも取ればいいのに。
そんなことを思いつつ歩いていると、詰所の扉が開いてギエンが姿を現した。こちらに気づくと目を見開いて「おお!」という声を上げて歩み寄ってきた。
「セイジ殿ではないか。久し振りだな」
「ええ、そうですねギエン殿」
俺はギエンと挨拶がてら握手を交わし、少しばかり時間をもらってリュウエンを保護した経緯から現在にいたるまでをざっくりと説明した。
「とまぁ、そういう訳で軍に参加してもらいたいんだわ」
「勿論です。宿場町に駐屯しておる兵士五百人、全て旗下に入りますぞ」
ギエンがそう言って、手の平と拳を合わせた礼をする。
話の合間に質疑応答しているうちに敬語の逆転現象が起きたが、考えてみれば皇帝と宰相も俺に敬語を使っているので気にしないことにした。
なんにせよ、ギエンが軍への参加を表明してくれてよかった。
だが、気になることが一つ。
「流石に全ての兵士を出すってのはまずいんじゃないか?」
優先順位としては確かにリュウエン軍に入るのが正しいのだろうが、治安の維持やダンジョンの見張りなどをする兵士は残しておくべきだと思う。
そういう意図で言ったことだったが、ギエンが「わかっております」と微笑んで頷いたので、どうやら杞憂に過ぎなかったらしい。
「語弊がありましたな。駐屯している兵の中ですぐに動けるのが五百人ということです。総数は六百五十人ほどおりますのでな、問題はないのです」
休暇中の者や怪我で休養中の者、引退して緊急時の臨時兵士として町で暮らしている者にも連絡を入れ日常業務の引き継ぎをするという。
そのままであれば人員が足りずスケジュールがタイトになるらしいが、非常時措置として日常訓練の時間を省けば問題なく回せるらしい。
しかも既に兵を呼んで連絡を行い始めている。ギエン優秀だわ。
兵士が真面目なのもこの兵長あってのことなんだろう。ギエンは統率力の高さが実績として示されているし、リュウエンとロジンに大将軍として推薦しておこう。
年齢的にも相応しい。見た目も貫禄があって将軍って感じがするからな。
屁で爆発しなけりゃカイエンでも良かったんだが、イメージとしてはリャンキと共に副将的な立ち位置にいてもらった方がしっくりくる。
大将軍ギエン、左将軍カイエン、右将軍リャンキ。軍師参謀がロジンと。
うん、やっぱりこれでいいな。
俺が勝手な妄想を膨らませて納得している間に、ギエンが兵士との遣り取りを済ませ俺に向き直り「とりあえず連絡は済ませましたが、日程などは?」と訊いてきた。
「今のところ皇都への出陣は一週間後になる予定だ。俺の方で準備があるんでな。もしかすると前後するかもしれない。また事前に連絡するよ」
「わかりました。要件はそれだけですかな?」
「いや、それがなぁ……」
俺は頭を掻きながら冒険者の列を見る。やはり長い。記録係の青年は一所懸命やってるが、あれが捌けるまで待つと小一時間は無駄にするだろう。
「軍を維持する為には金が必要だろう? 魔物の素材を換金してくれる伝手があるもんで狩りに来たんだが、あの列に並ぶと思うとげんなりしちまってな」
そう肩を竦めて言うと、ギエンが列に視線を移した。それから顎に手を遣って「ふむ」と呟き、少し考えたそぶりを見せた後で頷いた。
「そういうことでしたか。ではわしの方から記録係に伝えておきましょう」
「え? いいのか?」
「構いません。これもまた打倒ラオの為の非常時措置というものです」
「ありがたい。助かるよ」
苦笑しつつ礼を言うと、ギエンも苦笑した。
「いや申し訳ない。恩着せがましい言い方になってしまいましたが、実はこちらもお願いしたいことがありまして。セイジ殿なら叶うのではと」
「なんだ? 俺にできることならやるぞ?」
ただ横入りさせてもらうってより、取引を持ち掛けられた方が気が楽だ。
釣り合いが取れてりゃ喜んで引き受ける気でいたが、「このダンジョンを攻略していただきたいのですよ」と言われたのでちょっと考えた。
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