セイジ第二部~異世界召喚されたおじさんが役立たずと蔑まれている少年の秘められた力を解放する為の旅をする~

月城 亜希人

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20‐2 金策開始(中編)

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「何階まであるんだここ?」

「それが、まだ判明しておらんのですよ。レイジェン皇国にあるダンジョンは二つ。一つは攻略済みで安定しておるのですが、こちらはまだなので」

「安定ってのは?」

「最下層におるダンジョンの主ともいうべき魔物を討伐すると、魔物の数が極端に減り数年は氾濫が起きなくなるのです。我らはそれを安定と呼んでいます」

 ギエンいわく、こちらのダンジョンは現状十階層までは攻略されているらしい。五階層ごとに階層主とやらがいて、高く売れる素材を落とすのだとか。

 確か犯罪者三人と一緒に潜ったときは四階層まで三十分くらいでいけたな。あいつらがついてこれるペースでそれだから全力を出せばもっと早くいけるか。

「わかった。攻略できるかどうかはわからんが、いけるところまで行ってみるよ」

「おお! 引き受けてもらえますか! ありがたい!」

「いやいや、利害が一致したってだけだから礼は言わなくていいよ。下に向かうほど希少な素材が取れるってんなら、それを目的に行くしかないんでな」

 ギエンとそんな話をしながら、冒険者の列の横を歩いてダンジョンの出入口へと向かう。その最中、列がざわつき始めた。どうやら俺の事を話しているらしい。

「見ろ、イルマの店を潰した奴だ」
「そうなのか? 一人で三人の人殺しを返り討ちにして捕縛したんじゃねぇの?」
「私は二三十人の荒くれ者の足を吹っ飛ばしたって聞いたよ?」
「それ全部だよ。あの人すげぇ魔法使いなんだぜ。姿が消えちまうんだよ」

 いや、消したのは『存在感』だ。尾鰭がついてるな。

「魔法なんて使わなくてもすげぇよ。魔物を一発で仕留めていきやがったからな」
「ああ、あれは速かったな。しかもドロップアイテムも消えるしな」
「ね、ねぇ、誰かパーティーに誘ってきてよ」
「無理無理。五階止まりの俺らじゃ相手にもされねぇよ」

 なんだか知らんうちに有名人になっていたようだ。
 気恥ずかしいので出入口に着いたらすぐに檻の扉を開けてもらった。

 列の先頭にいた若手パーティーと揉める覚悟もしていたが、そういった荒事に見舞われることはなく、むしろにこやかに「お先にどうぞ」と勧められてしまった。

「いや、すみませんね本当に。横入りしちゃって」

 苦笑して何度も軽く頭を下げながら檻の中に入る。若手パーティーの少年少女は「いえもう全然!」と言いながら手とかぶりを振って物凄く恐縮していた。

 何この反応。君たちになんかしたか俺?
 ギエンと一緒だからかな?

 まぁいいか。噂が一人歩きして怯えられてるのかもしれないしな。
 下手にパーティー勧誘されることもないし、そっちの方が都合が良いか。

「ご武運を」
「おう、ありがとよー。順番を譲ってくれた皆さんもありがとねー」

 俺は片手を上げて言い、ギエンたちに見送られてダンジョンへと入った。


 ***


 光源型に設定変更したエレスに〈ライト〉で周囲を照らしてもらいつつどんどん進む。おじちゃんSTはたっぷり持ってるからね。頑張って走るよー。

 地下四階層までは〈踏破マップ〉で階下に向かう道が丸わかりなのでただのランニングと化した。一階で『存在感』をオフにしたのが効いている。

 魔物は一切狩っていない。
 ドロップする素材が二束三文にしかならない気がするので時間効率を優先した。

 道中いくつかの冒険者パーティーとすれ違ったが、悪さをしているような輩は見かけなかったのでこちらも素通り。誰一人として俺に気づかないのが楽でいい。

 ダンジョンは犯罪者の巣窟。顔見知りでもない限り警戒心を抱き合うのが普通だろう。ソロだし有名にもなっている俺には変なのが絡んでくることも十分考えられるので、そういったトラブルから逃れられるってのは心底ありがたい。

 こんなところで有名税を発揮する必要なんてこれっぽっちもないからな。

 唯一の難点は能力値の反映がされないこと。これはポチに入ったエレスに攻撃意思を向けてもらうことで解消されたが、生憎とそのポチは今回もストレージで待機中。

 という訳で今はイヤホンを装着した状態だ。

 ダンジョン到着前にそうしておいて良かった。ポチなんて背負ってたら余計に注目されてただろうしな。勘違いして奪いに来る輩なんて出たらまた面倒事になってたわ。

 とはいえ、イヤホンでも危険なことには変わりない。カザマ君が命を落とした原因はイヤホンだったってリュウエンが言ってたし、注意はしておかないとだよな。

 おそらく下に向かうにつれて俺に気づく冒険者も出てくるようになると思う。
 それが今から憂鬱だったりする。ある程度進んだら『存在感』を調整して能力値が反映されるように切り替えた方が良いかもしれない。

 俺は人と関わるとトラブルに巻き込まれる率が高いから。
 用があるのは魔物だけなんでって無視できりゃいいんだが、生憎とそれが易々とできるほど他人に無関心でもないんだよな。困ったもんだよ全く。

 なんて考えているうちに地下五階のボス部屋の前に到着。扉が違うのでわかりやすい。ここだけでかくて観音開きだし、色が赤で蔦の装飾入りときている。

 他は全て〈踏破マップ〉に記録済み。
 討伐後に帰り道がわからないってのが最もストレスで胃にくるからな。

 転移装置があればこんなことしなくていいのに。面倒臭ぇなあもう、と心でぼやきつつホログラムカードで時刻を確認。思った以上に時計が進んでいなくて驚いた。
 
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