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SIDE 風間柊一(3)
しおりを挟むやがてロジンがギギギと潤滑油の切れたブリキの玩具のように俺に顔を向けた。そんな状態でも抱えた壺を落としたりしないのは大したものだと思う。
「し、始祖様、と、お呼びしても?」
始祖様か。言い得て妙だなと思い眉が下がる。
「構わんよ。どうした?」
「は、はい。魔物がおりますが、き、危険ではないのですかな?」
「俺が〈作成〉または〈複製〉した魔物はダンジョンにいる間であれば俺の命令に従う。農園の魔物は二人に危害を加えないよう設定したから心配は不要だ」
「そ、そうなのですか。なんとも、これは凄まじい。セイジ殿の行うことといい、最近は私の中にある常識というものが覆されてばかりおります」
「俺と正木さんは特殊だからな。常識外の存在と認識しているだけで十分だ。わかっていると思うが、リュウエンもその仲間入りをするんだぞ?」
話を振ると、リュウエンが「え?」と呟いて俺に引きつった顔を向けた。
「わ、私が、始祖様や、セイジ殿のようになれるのですか?」
「そういう意味じゃない。水の精霊を制御できるようになるってことだ」
「わ、私にできるのでしょうか? 宿すことも難しそうなのに」
「何を言ってる? 宿すだけなら誰にでもできるだろう?」
「なっ⁉ そ、そうなのですか⁉」
「誰にでも……ですか?」
驚愕して言うリュウエンと、怪訝な表情を浮かべるロジンを見て覚った。フウケンが遺した知識は、世代が変わるうちに都合の良い形に歪められてしまったのだろう。
どうやらまずは認識を改めてもらう必要があるようだ。
「そもそも『精霊を宿す』という表現自体が誤りだ。おそらく外聞が悪いから宮中の誰かが歪めたんだろうが、正しくは『魔物を取り憑かせる』だ」
「それは察しておりましたが、誰にでもというのはどういうことなのでしょうか? 取り憑かれた際には、器がなければ破裂するのでは?」
「そこも認識の齟齬があるな。器があるのは取り憑かれた状態で生まれてきた者だけだ。リュウエンがそれに当たる。その他の者には器なんてものはない」
「で、では、破裂する者としない者の差は如何にして生じるのでしょう?」
「単純に能力差だな。魔族化するに足る能力があれば破裂せず、そうでなければ破裂する。どうも一から説明した方が早そうだ。まずは精霊についてだ」
精霊とはエレメントという火、水、風、土の四属性自体が魔物化したもので、各属性につき一体ずつしか存在せず、不死性があるので討伐してもやがて復活する。
「といっても、復活するのは最初の一体のみだ。俺はオリジンと呼んでいる」
「オリジンとは?」
「起源って意味だ。魔族はその一体から起こるからな。言わずもがな、オリジンの目的は魔族になり魔族を増やすことにある。人に取って代わりたいんだとよ」
「ま、まるで誰かから聞いたようなおっしゃりようですが……」
「ああ、俺の中にいるアースオリジンから聞いたから間違いないぞ。こいつらは魔族が世界を統べて当然だと思ってる。人のことは道具や餌としか思ってないな」
エレメントは人に取り憑いて魔族化すると、人及び魔族との性交で子を成して増えていく。産まれてくる子は人だが、やがてエレメントの子に精神を食われ魔族化する。
押し止められて魔族化できなかった場合は、性交時に受精卵に移り次の世代での魔族化を狙う。この習性を利用してレイジェン皇国では水の精霊の継承が行われている。
「オリジンを放置すれば、どこかで魔族が現れ増えていく。かつてベイロン帝国が危機に陥ったようにな。だから俺とフウケンは管理を行うことを決めたんだ」
「ま、まさか、それが水の精霊を継承している理由、なのですか?」
「そうだ。レイジェン皇国の皇帝は水属性の魔族を出現させない為の人柱という訳だ。大袈裟でもなんでもなく、この世界の全ての人を守ってるんだよ」
もっとも、制御できれば力を得られるっておまけはつくんだがな。どうもフウケンから代替わりした約三百年の間におまけの方がメインになっているようだ。
しかしまさか皇帝や宰相までが知らないとはな。
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