105 / 423
連載
反省しきりなのです
しおりを挟む
「……というわけなのよ。お父様ったら、ひどいと思わない?」
お父様のお説教から解放された私は、すぐさま調理場へ向かった。
ほぼほぼ下ごしらえを終わらせた様子のシンを捕まえ、遮音魔法をかけて周囲に聞こえないようにしてから、ティリエさんのことやお説教を受けたことについて延々と愚痴った。
「……うーん。ティリエさんは気の毒だと思うけど、お嬢の場合はそのぐらいしないとすーぐ暴走するからなぁ……」
「えぇ? でも今回は私も知らなかったんだし、しかたなくない?」
シンったら、ティリエさんだけに同情して私にはそんな反応だなんて、ひどいよ!
「お館様は、いつもお嬢が何かする時には相談するように言ってるだろ? 今回ちゃんとしてなかったんなら叱られてもしょうがないじゃないか」
シンは呆れたように私を見て言った。
「言ったわよ? 新作を作るって……」
「……新作を作るのとオーク狩に行くのは別の話だろ」
「え、だって……あれ?」
「王都なら大抵のもんは揃うんだ。オークだって一体丸ごと納品ってことで冒険者ギルドに依頼すればいい。もしかしたら数日で手に入るかもしれないだろ?」
「……確かに、そうだけど……」
「お嬢は黒銀様と契約してるから気軽にオークを狩ってくるように言うけどな、普通は依頼して待つもんだからな?」
「……そうね」
うぐぐ、そう言われてしまうと何も言えない。
「まあ……お嬢の性格を考えたら、欲しいものはすぐ手に入れようとするのはわかりそうなもんだし、お館様もそのあたりまだ読みが甘いのかもしれないな。俺だって、まさか昨日の今日でオークを狩ってくるとは思ってもみなかったし……」
そうよね! 思い立ったらすぐ行動に移したくなるのが人情ってもんじゃない?
……ん? シンさん? ちょい待ち。
その発言は暗に私がせっかちで思慮が足りない子だって言ってないかな⁉︎
私をかばってるの? 貶してるの? かなーり微妙なんですけどぉ⁉︎
ぐぬぬ……と私がむくれていると、シンは真剣な顔をして私に向き直った。
「だけどな、お嬢。お館様はお嬢のことを心配してるから叱るんだ。お嬢が暴走して何か取り返しのつかないことをしでかした時、お館様が何も事情を知らないのでは助けようがないだろ?」
「……え」
「親ってのは、どれだけ子がしっかりしてようが心配するもんさ。そこんとこわかってやれ。親に心配のかけ通しってのはダメだ。……後悔するのは自分だぞ」
「あ……」
寂しそうに笑うシンを見て、私は何も言えなかった。
冒険者をしていたシンのご両親はすでに他界している。
シンはもう、ご両親に心配をかけることも、安心させることもできないのだ。
私だって前世では両親より早く死んでしまったから、最後は両親を悲しませることしかできなかった。
そう思えば、今の両親に安心どころか心配ばかりかけている私は親不孝者でしかない。
「……ごめんなさい」
「俺に謝ってもしかたないだろ。次からは忘れずお館様に相談しろ。な?」
「うん……」
シンに頭をポンとなでられ、泣きそうになるのをぐっと堪えた。
「よし。そんじゃこの話は終わりな。それで、オークの解体場所は決まったんだろ? いつ解体する?」
シンは湿っぽい空気を変えようと明るい声で話題を変えてくれた。
「……お父様から修練場の裏手ならいいって許可を得たの。ちゃんと結界魔法をかけて、後始末をきちんとするようにって。今日はもう遅いし、下処理に時間もかかることだから解体は明日にしましょう。料理長にはそう言っておいてね」
「了解。料理長には明日の昼の仕込みは免除してもらうように頼んどく。おっしゃ、久々の解体かぁ。腕がなるぜ!」
シンは戯けるようにそう言うと、料理長の下へ向かった。
……ああ、もう。私ったら最悪だ。
私はとぼとぼと自室へと向かったのだった。
「……はあ。自己嫌悪だぁ……」
だらしなくソフアにもたれかかり、近づいてきた真白を抱き上げ、ぎゅっと抱きしめた。
いつもなら真白のもふもふに癒されるのだけれど、気持ちはなかなか浮上しない。
『くりすてあ、げんきない……だいじょうぶ?』
真白がきゅ、と抱きついてくる。
「ごめんね、真白。心配かけて……大丈夫だから」
『……主、我が黙って殲滅してきた故に迷惑をかけたようだが……』
黒銀も心配なのか、きゅーんと言わんばかりにしょんぼりしていた。
「ううん、黒銀は正しいことをしたのよ。黒銀は集落を見つけてきちんとすべきことをしたのだもの。えらいわ」
『しかし、それで主が叱られたではないか』
「叱られたのは、私がきちんとお父様にオーク狩のことを報告していなかったからよ。それでお父様やティリエさんに迷惑をかけてしまった私が悪いの」
『しかし……』
「そうね、もし黒銀が気をつけるなら、集落を見つけた段階で私やお父様に連絡することかしら。そうすれば、すぐに殲滅するのか、冒険者ギルドで討伐隊を編成して動くか相談できるわ」
『うむ……承知した』
今回一番まずかったのは他領だったから、報告が面倒になったこと。
ティリエさんがどうにかごまかしてくれるといいんだけど……他領の冒険者ギルドで、黒銀単独でオークの群れを殲滅したなんて知れたら、変に注目を集めてしまいそうだもの。
……お父様が心配して怒ったのはそこなのかな。黒銀は今のところ私の護衛として専属契約してることになっているし。聖獣契約がバレることはなくても、悪目立ちするのは避けたいよね。
「はあ……」
色々と考えが至らなかった自分に、ますます落ち込む。
「あの……クリステア様、今よろしいでしょうか? クリステア様に来客とのことなのですが……」
そこへ、ミリアが来客があることを知らせにきた。
「……私に?」
誰だろう。マリエルちゃんかな? でも来るときは手紙のひとつもくれると思うんだけど……
「とにかく、急ぐようにとお館様がお呼びです」
「えっ? お父様が?」
なんだろう、すごく嫌な予感しかしないんだけど……⁉︎
お父様のお説教から解放された私は、すぐさま調理場へ向かった。
ほぼほぼ下ごしらえを終わらせた様子のシンを捕まえ、遮音魔法をかけて周囲に聞こえないようにしてから、ティリエさんのことやお説教を受けたことについて延々と愚痴った。
「……うーん。ティリエさんは気の毒だと思うけど、お嬢の場合はそのぐらいしないとすーぐ暴走するからなぁ……」
「えぇ? でも今回は私も知らなかったんだし、しかたなくない?」
シンったら、ティリエさんだけに同情して私にはそんな反応だなんて、ひどいよ!
「お館様は、いつもお嬢が何かする時には相談するように言ってるだろ? 今回ちゃんとしてなかったんなら叱られてもしょうがないじゃないか」
シンは呆れたように私を見て言った。
「言ったわよ? 新作を作るって……」
「……新作を作るのとオーク狩に行くのは別の話だろ」
「え、だって……あれ?」
「王都なら大抵のもんは揃うんだ。オークだって一体丸ごと納品ってことで冒険者ギルドに依頼すればいい。もしかしたら数日で手に入るかもしれないだろ?」
「……確かに、そうだけど……」
「お嬢は黒銀様と契約してるから気軽にオークを狩ってくるように言うけどな、普通は依頼して待つもんだからな?」
「……そうね」
うぐぐ、そう言われてしまうと何も言えない。
「まあ……お嬢の性格を考えたら、欲しいものはすぐ手に入れようとするのはわかりそうなもんだし、お館様もそのあたりまだ読みが甘いのかもしれないな。俺だって、まさか昨日の今日でオークを狩ってくるとは思ってもみなかったし……」
そうよね! 思い立ったらすぐ行動に移したくなるのが人情ってもんじゃない?
……ん? シンさん? ちょい待ち。
その発言は暗に私がせっかちで思慮が足りない子だって言ってないかな⁉︎
私をかばってるの? 貶してるの? かなーり微妙なんですけどぉ⁉︎
ぐぬぬ……と私がむくれていると、シンは真剣な顔をして私に向き直った。
「だけどな、お嬢。お館様はお嬢のことを心配してるから叱るんだ。お嬢が暴走して何か取り返しのつかないことをしでかした時、お館様が何も事情を知らないのでは助けようがないだろ?」
「……え」
「親ってのは、どれだけ子がしっかりしてようが心配するもんさ。そこんとこわかってやれ。親に心配のかけ通しってのはダメだ。……後悔するのは自分だぞ」
「あ……」
寂しそうに笑うシンを見て、私は何も言えなかった。
冒険者をしていたシンのご両親はすでに他界している。
シンはもう、ご両親に心配をかけることも、安心させることもできないのだ。
私だって前世では両親より早く死んでしまったから、最後は両親を悲しませることしかできなかった。
そう思えば、今の両親に安心どころか心配ばかりかけている私は親不孝者でしかない。
「……ごめんなさい」
「俺に謝ってもしかたないだろ。次からは忘れずお館様に相談しろ。な?」
「うん……」
シンに頭をポンとなでられ、泣きそうになるのをぐっと堪えた。
「よし。そんじゃこの話は終わりな。それで、オークの解体場所は決まったんだろ? いつ解体する?」
シンは湿っぽい空気を変えようと明るい声で話題を変えてくれた。
「……お父様から修練場の裏手ならいいって許可を得たの。ちゃんと結界魔法をかけて、後始末をきちんとするようにって。今日はもう遅いし、下処理に時間もかかることだから解体は明日にしましょう。料理長にはそう言っておいてね」
「了解。料理長には明日の昼の仕込みは免除してもらうように頼んどく。おっしゃ、久々の解体かぁ。腕がなるぜ!」
シンは戯けるようにそう言うと、料理長の下へ向かった。
……ああ、もう。私ったら最悪だ。
私はとぼとぼと自室へと向かったのだった。
「……はあ。自己嫌悪だぁ……」
だらしなくソフアにもたれかかり、近づいてきた真白を抱き上げ、ぎゅっと抱きしめた。
いつもなら真白のもふもふに癒されるのだけれど、気持ちはなかなか浮上しない。
『くりすてあ、げんきない……だいじょうぶ?』
真白がきゅ、と抱きついてくる。
「ごめんね、真白。心配かけて……大丈夫だから」
『……主、我が黙って殲滅してきた故に迷惑をかけたようだが……』
黒銀も心配なのか、きゅーんと言わんばかりにしょんぼりしていた。
「ううん、黒銀は正しいことをしたのよ。黒銀は集落を見つけてきちんとすべきことをしたのだもの。えらいわ」
『しかし、それで主が叱られたではないか』
「叱られたのは、私がきちんとお父様にオーク狩のことを報告していなかったからよ。それでお父様やティリエさんに迷惑をかけてしまった私が悪いの」
『しかし……』
「そうね、もし黒銀が気をつけるなら、集落を見つけた段階で私やお父様に連絡することかしら。そうすれば、すぐに殲滅するのか、冒険者ギルドで討伐隊を編成して動くか相談できるわ」
『うむ……承知した』
今回一番まずかったのは他領だったから、報告が面倒になったこと。
ティリエさんがどうにかごまかしてくれるといいんだけど……他領の冒険者ギルドで、黒銀単独でオークの群れを殲滅したなんて知れたら、変に注目を集めてしまいそうだもの。
……お父様が心配して怒ったのはそこなのかな。黒銀は今のところ私の護衛として専属契約してることになっているし。聖獣契約がバレることはなくても、悪目立ちするのは避けたいよね。
「はあ……」
色々と考えが至らなかった自分に、ますます落ち込む。
「あの……クリステア様、今よろしいでしょうか? クリステア様に来客とのことなのですが……」
そこへ、ミリアが来客があることを知らせにきた。
「……私に?」
誰だろう。マリエルちゃんかな? でも来るときは手紙のひとつもくれると思うんだけど……
「とにかく、急ぐようにとお館様がお呼びです」
「えっ? お父様が?」
なんだろう、すごく嫌な予感しかしないんだけど……⁉︎
198
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!
酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」
年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。
確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。
だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。
当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。
結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。
当然呪いは本来の標的に向かいますからね?
日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。
恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。