転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

文字の大きさ
174 / 423
連載

寮に戻りましょう

しおりを挟む
陛下とリリー様が王宮へお帰りになり、残った私たちはというと、昼食を摂りに戻るよう
学園長に促されて学園長室を出た。
「ええと……僕たちは寮の食堂があるサロン棟に向かうんだけど、クリステアたちは特別寮に戻るんだよね?」
お兄様が私をエスコートしながら質問してきた。
「ええ、私たちは他の生徒と接触しないようにと言われて、寮内の食堂で食事をしていましたから。そういえば、入学式後はどうするのかしら……」
ニール先生からは特に今後は他の生徒と一緒に食事をするようには言われてないので多分このままなんだろうなぁ。
まあ、その方が食べたいものも食べられるから気楽でいいけど。
でも、他の生徒との交流がないというデメリットもある。
友達をたくさん作る計画が早くも暗礁に乗り上げてしまったよね……うぐぐ。
……あれ? ニール先生といえば、式の間先生の姿が見えなかったけど……どこにいたのかしら。
「そういえば、ニール先生をお見かけしませんでしたが、先生はどちらに……?」
そうだよ、ニール先生憧れの聖獣レオン様が学園内にいたっていうのに、姿が全く見えなかったのってどういうこと?
そんな私の疑問にレイ殿下が答えてくださった。
「ああ……ニール先生なら、クリステア嬢が来るよりも前に講堂を出ていたな。連れていた使役獣が騒ぎ出して式どころじゃなくなったから、大人しくなるまで学園内を見回りするようにと他の先生に追い出されていたぞ」
「そ、そうなのですか……」
多分、あのお猿さんが一緒だったんだろうなぁ。レオン様がいらっしゃって、その気配に怯えて騒いだところを追い出されたってわけか……ニール先生、ついてないね。
この調子じゃあ、レオン様に会える日は来ないかもしれない……はは。

それから私とセイはお兄様たちに特別寮まで送っていただいた。
お兄様たちは食堂で昼食を摂り、午後からは授業に向かうそうだ。
私たち新入学生は明日の適正検査に向けて予習するなどしてゆっくり休むようにと言われている。
適正検査は、魔力量や属性を調べたり、学力を診断するための筆記試験などがあるそうだ。
学園に入る前にそういうのってするもんじゃないの? と思うのだけれど、入学資格は推薦状があればいいのだそう。
貴族はもともと高い魔力持ちが多いから、親の申請があれば大丈夫だし、平民は教会や領主の推薦があれば入学資格が得られ、入学後に適正を調べてその人に合う進路を勧めるそうな。
基本的に初めに貴族も平民も一緒に基礎的な学力を身につけてから専門的なことを学ぶために科目を選択することになる。
貴族は社交を学ぶために貴族科や、騎士になるための騎士科などを選ぶし、平民は手に職をつけるために薬師科や魔導具科、執事やメイドになるための家政科などに進むことが多いみたい。
平民でも、剣術に長けていれば騎士科に進む子がいるそうだけど、貴族と違って色々と大変なんですって。
そんな進路を決めるための試験が明日行われるのだ。
私は入学前から家庭教師がいたし、どんな試験でも問題なく解けるだろうとのお墨付きもいただいているので、多分大丈夫だろう。
前世の受験戦争を乗り越えた身としては、児童が受けるような試験なんて恐るるに足りず。わっはっは。
それよりも、明日は他の生徒と一緒に試験を受けるってことにドキドキするよ……
寮の玄関の前でお兄様たちを見送っていると、お兄様が思い出したように振り返った。
「そういえば、テアたちは今まで寮から出ていないから、校内の説明を受けていないだろう? 明日の試験後に僕が校内を案内するから、それまで出歩かないようにね」
「えっ? ……は、はい。ありがとうございます」
そっか、他の生徒はもう校内を案内されているんだ。いいなぁ。
まあ、今日の入学式で私やセイが聖獣契約者であることが知られちゃったし、絡まれても困るから下手に出歩くつもりはないけど……
「おっ、俺も一緒に案内するぞ! 任せておけ!」
えっ、レイ殿下も⁉︎ 悪目立ちしそうだから辞退してもいいでしょうか⁉︎
「……殿下は生徒会の仕事でお忙しいのですから、僕だけで大丈夫です」
お兄様がにっこり笑って言った。
……笑顔なのにちょっと怖い。レイ殿下もちょっとだけ怯んだ様子を見せた。
「い、忙しいのはお前だって同じだろう⁉︎」
「僕が忙しいのは殿下のサポートもしているからですよ? 殿下は僕が抜ける分、そちらを頑張ってください」
わーお……お兄様強い。
「くっ……いや! 俺も同行するぞ! 絶対だ!」
えええ……レイ殿下、そんなに仕事サボりたいの? お兄様大変だなぁ……
「……はあ、仕方ないですね。その代わり、今日の放課後は頑張っていただきますよ?」
お兄様が渋々といった様子で答えた。
お兄様、甘い! 甘々だよ!
レイ殿下は未来の国王になる身なんだから、ビシバシいかないと!
そうじゃないと、お兄様が将来苦労しちゃうじゃないの!
「お、おう……わかった! じゃあ明日楽しみにしてるからな! ……じゃない、楽しみにしてろよ!」
レイ殿下は嬉しそうに手を振って寮に戻っていった。
まったく、お仕事サボれるのがそんなに嬉しいのか……お兄様、苦労してるなぁ。
お兄様には、今度労いの気持ちを込めてお菓子を差し入れしようっと。
「クリステア嬢、寮に入ろう」
お兄様たちを一緒に見送っていたセイに声をかけられ、私は寮に戻ったのだった。

その後は、昼食を摂るために皆と食堂に移動した。
ニール先生は結局戻ってこなかったので、今回はインベントリからオーク汁にだし巻き卵、炊き込みご飯を出して皆に振る舞った。
「おお! やっぱオーク汁うめぇな!」
「本当ですわね……この卵もふんわりと柔らかくて、お味も上品でたまりませんわぁ」
「うむ、やはり主の料理は絶品だな」
「うん、このたきこみごはんもいろんなあじがしておいしいよ!」
くいしんぼ聖獣の皆さんが次々とおかわりをする中、セイは箸が進まない様子なのが気になった。
「セイ、どうしたの? 食欲がない?」
「ああ、いや……明日の適正検査が気になって。魔力量とか属性とか言われてもピンとこなくてな」
セイは元々魔法が使えるわけではなく、ドリスタン王国で言うところの魔力にあたる神力は持っていたらしいけれど、実際に魔法らしきものをちゃんと使えるようになったのは、四神獣でいらっしゃる皆様の加護を得てからなのだそう。
「それまでは武家の子として武道だけを仕込まれていたし、市井に神力を使える者がいないからどう使えばいいのかわからなかったんだ。神力があるとわかれば皆神職に就くために神官見習いになっていたから……」
幼い頃は神力が膨れ上がって熱を出していたため、病弱と思われていたそうだ。
その頃も女の子の格好をしていたんだって。
前世でもそういう風習ってあったものね。
「神力が魔力と同じものかはわからないから、明日の適正検査でどのような結果になるのか……」
セイが不安そうにしていると、白虎様がお代わりしたオーク汁の最後の一杯を平らげて言った。
「んな心配しなくたって大丈夫だって。お前は留学生の立場なんだしさ。それに、過去にも帝候補が留学してたことだってあるから学園側もそのへんわかってっだろ」
「えっ? 過去にも⁉︎」
それは初耳だ。
「ああ、俺たちもそいつに護衛としてついてきてたからな。そんで、その外遊してる間に黒銀くろがね真白ましろの親に出会ってたってわけだ」
なるほど、それが縁で黒銀くろがねたちを紹介してくれたのね。
「お主と出会ったのは相当前の話だろう」
「そうだなぁ、何代前の帝の頃だったかな?」
そんな昔に出会ってたの?
そういえば、どうやってドリスタン王国とヤハトゥールの聖獣が出会ったのか、その経緯を聞いたことなかったわ。
黒銀くろがねにその頃の話を聞いてみたいけど、話してくれるかしら?
白虎様に聞くほうが早いかもしれないわね。
「まあ、過去にも事例があったから留学も受け入れられたんだし、大丈夫だって」
ニカッと笑う白虎様を見て、セイは気が抜けたのか「ああ、そうだな」と言って笑った。

それから私たちは皆で夕食の準備をして、ニール先生がヘトヘトになって戻ってきてから一緒に食事をしたのだった。
しおりを挟む
感想 3,547

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!

酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」 年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。 確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。 だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。 当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。 結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。 当然呪いは本来の標的に向かいますからね? 日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。 恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。