転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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なんだかデジャヴ……?

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翌日は、朝から学園内がざわついていた。
マリエルちゃんがカーバンクルと契約したのが授業中の出来事だったこともあり、その情報はまたたくまに学園内に広まった。
それを確かめようと物見高い先生や生徒たちが特別クラスや女子寮に押しかけたそうなのだけど、マリエルちゃんは早退して特別寮に転寮していたため空振りに終わったみたい。
……私たちの時に余計な接触は禁止って言われてるのに懲りてないわよね。
寮や食堂で事実確認ができなかった他のクラスや学年の生徒たちが契約者やカーバンクルはどこにいるんだと朝から特別クラスの前の廊下でマリエルちゃんが登校してくるのを待ち構えていた。
そうなるのではと予想していた私とセイがマリエルちゃんを間に挟むようにして周囲からガードしつつ、どうにか特別クラスの教室内に滑り込んだんだけど……いやー、大変だった。
私やセイに関してはアンタッチャブルだってことは周知されているから、はじめは皆遠巻きに見ていたものの、教室に入ろうとしたところで生徒たちがわーっと取り囲み、マリエルちゃんに封筒を押しつけて去ってしまったのだ。
「え? あの、これ……ええ⁇」
マリエルちゃんの手元には何十通もの封筒。
これは……
「……やられたわね」
「え? なんですか、これ? 果たし状とかですか⁉︎」
マリエルちゃんはまるで爆発物を持っているかのように怯えながらも捨てられずにオロオロしていた。
「果たし状って……マリエルさんが決闘を申し込まれる理由なんてないじゃないの。それ多分、招待状よ。マリエルさんとルビィをお茶会に招待したいとかそういった内容の」
私の時も届いたものね。
貴族の場合、お茶会に招待して自分の派閥に取り込んだり、相手の取り巻きになるのが一番手っ取り早いから。
「ええっ⁉︎ お、お茶会なんて、私、どうしよう……⁉︎」
「そうね……」
マリエルちゃんのお父様であるメイヤー男爵は叙爵して間もない、いわゆる新興貴族ってやつだからなあ。
しかも、商会の顧客となっている貴族からの誘いは断わりづらいに決まってる。
しまったなあ、昨日のうちにそのことに気づいてお父様や学園長に相談すべきだった。
ニール先生は遅くまで帰ってこなかったし、今朝も挨拶もそこそこに出てしまったし。
寮内にカーバンクルがいるのに魔獣狂いのニール先生がいないだなんて、どうしちゃったのかしら。
「マリエル嬢、クリステア嬢。そろそろ授業も始まることだし、ひとまず中に入らないか?」
セイの言葉に始業時間ギリギリになっていたことに気づいた私たちや、まだ廊下に残っていた生徒たちが慌てて自分の教室に向かったのだった。

席について間もなくしてニール先生とマーレン師が教室に入ってきた。
「はいはい、静かに! 昨日のマリエル嬢の契約の件で学園内が騒がしいみたいだけど、学園長からのお達しで彼女もクリステア嬢やセイ君と同様の扱いになったから。無闇に接触しないように。この件に関しては学園内の全学年全クラス、職員全てに通達しているのでちゃんと守ること!」
ニール先生はそう言うと、ツカツカとマリエルちゃんの席までやってきて、机の上にある封筒の束を一瞥した。
「……マリエル嬢、これは今朝受け取ったのかな? 中身は確認したかい?」
「え、は、はい! ええと、あの、中身はまだ……」
「そっか。じゃあ一旦こちらで預かるけど、いいかな? いいよね?」
「は、はい!」
マリエルちゃんが明らかにホッとした様子で答えると、ニール先生は封筒の束をガッと掴んで腰に下げていたポーチに突っ込んだ。
あ、あれマジックバッグだ。
明らかに分厚い手紙の束が収まったのに、ポーチはぺちゃんこのままだった。
その様子を見て、一部の生徒たちが「あーあ……」という反応をしていた。
中には貴族だけではなく商人の子もいたようだ。
まあ、カーバンクルってだけでお宝の気配がするものね。でも、マリエルちゃんが契約獣のルビィを売るわけないのはわかるでしょうに。
せっかくクラスメイトなんだから、普通に友達になればマリエルちゃんや私も一緒にお茶だってするのに。
誰かを出し抜こうとして欲を出して急いで動くから没収なんてされるのよ。愚か者め。
「君たちは召喚の実習で、身をもって召喚から契約に至るまでの難しさを体験し、契約後のこの騒動を実際に見ているわけだけど……これが自分の身に起きたら……わかるよね?」
ツカツカと教壇に戻り、くるりと生徒たちのほうを振り向いたその表情は笑顔だったけれど、いつものような気の抜けたような笑顔ではなかった。目が笑ってなくて怖い。
ひえ……
「これ、生徒を脅すのはやめんか」
「いたっ⁉︎」
マーレン師がゴン! と大きな音を立て、手にしていた杖をニール先生に叩きつけた。痛そう。
「……ったた……だってマーレン先生、この騒動のせいで僕はまだカーバンクルとまともに交流できてないんですよ⁉︎ 由々しき事態だと思いませんか⁉︎」
……まったく思いませんが?
「この馬鹿もんが! それがお主の仕事じゃろうが。はぁ……こういう時にまともに働こうとせんのなら、お前を特別寮から追い出してワシが寮監を代わってやろうかのお」
「誠心誠意働かせていただきますッ!」
マーレン師がため息混じりに顎ひげを扱きながら言うと、ニール先生がビシッと直立不動で答えた。
……先生の威厳、皆無だよ。ニール先生。
「それでええんじゃ。そういうわけで、特別寮の住人に関しての窓口はニールが担当するでな。クラスメイトだからといって、生徒間で引き合わせたりなどといったとりなしも勝手にせんように。なぁに、普通に友人になる分には構わんのじゃから、今まで通り接したらええじゃろ」
マーレン師は呵呵と笑うけれど、私たちの間には気まずい空気が流れた。
だって、私たち三人が仲良くしてるのって今のところ、エイディー様くらいだもんね。
他の子が私たちに対して今まで通りの対応ってなると、遠巻きにしとくしかないし。
今さら接触してきたら、契約獣目的ですって言ってるようなものよ。
「よーし、じゃあ授業を始めるよ!」
空気を読まない(読めない)ニール先生が張り切って授業開始を宣言したので、皆はのそのそとノートを開いたのだった。
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