13 / 39
12、家族団欒
しおりを挟む
「アリシア! ここよ!」
カフェの扉を入ると元気な声に迎えられた。
声のした方を見ると、奥のテーブルにいるお母様が椅子から立ち上がり、満面の笑顔で私に手招きをしている。
隣に座っているお父様は少し困ったような笑顔だけど、いかにも微笑ましいといった表情だ。
久しぶりに会えた嬉しさに、思わず小走りで駆け寄る。
久しぶりの休暇を取った私は、このラバドゥーン公爵家の領地までやって来た両親とティータイムを過ごすことになっていた。
「久しぶりね、アリシア。元気だった?」
お母様はそう言って慈しむように私をギュッと抱きしめてくれる。
「はい。お母様も元気そうで何よりです」
「うふふ、私はいつでも元気よ」
「それにしても、急にどうしたんですか?」
いくらなんでも急に来るなんて、両親にしては珍しい行動のような気がする。
仕事熱心で、余程のことがない限り領地から離れることはあまりしないのに。
「それはもちろん、あれだけのことをして貰ったんだからお礼に来ないと」
お母様は力を込めて言い放った。
「へ? お礼?」
「ああ、本当に助かったよ。アリシア、ありがとう」
お父様も同じように感情のこもった声で言う。
「えっ? あの、お父様、ちょっと何の話か全くわからないです」
「ラバドゥーン公爵家の公子様から頂いた支援のことだよ」
「支援???」
「ああ、領地の民たちも大喜びさ!」
一体何の話なの?!
驚きつつよくよく聞いてみると、なんとミハイル様はお父様に連絡を取って、ルリジオンの領地に沢山の支援を送ってくれたとのことだった。
お陰で街のあちこちを整備したり専門家や人員の手配、領地民への配布物、ルリジオン家へのお心遣いまでもがしこたま届けられたという。
ミハイル様がそんなことを……?!?!
「公子様にお礼のご挨拶をと思ったんだが、それは丁重に断られてしまってな。その代わり休暇のアリシアに久しぶりに会うようにとおっしゃってくださったんだ」
あ……。もしかしてこの前、ふいにミハイル様の前でこぼした『両親に久しぶりに会いたい』って呟きを覚えてくださってたんだ。
恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ちが複雑に入り混じる。
そんな私の表情を見て何かを思ったのか、お母様が口を開いた。
「あんなに素敵なお方のお側にいられるならきっと幸せよねえ」
そう言いながらうっとりした表情をしている。
思わず先日ミハイル様から受けた大きな温かい手の感触と優しい瞳を思い出し、一瞬ドキッと胸が高鳴るが、すぐに現実に引き戻された。
ま、まさかお母様ったら、また変なことを考えているんじゃ……。
そうだわ、ここへ来てすっかり忘れていたけど、お母様はとてもちゃっかりした性格だった。
ふと以前あった出来事を思い出す。
珍しく子爵家の領地に訪れていたとある高位貴族の令息が、私に社交辞令を言ったことが発端だった。
お母様はここぞとばかりにその令息と私のご縁を繋げようとあれこれ画策し始めたのだ。
いくら私のためとはいえ、お父様もトーマスも呆れ返っていたっけ。
放っておくと暴走しかねない。
「え、ええ、もちろん、素敵な公子様にお仕えできて光栄ですわ。それよりも、ここはこの街1番のカフェなんですよ。美味しいスイーツを頂きましょうよ!」
「アリシアの言う通りさ。さあケーキでも食べよう」
すかさずフォローに入ってくれたお父様と一緒に、お母様の気を逸らすべくメニューを広げる。
ああ、なんだかこの感じ懐かしい。
天然な上に無鉄砲すぎるお母様に翻弄されながら、お父様と二人でどれだけフォローしてきたことか。
それでも、その明るさに家族や領民たちまでもが癒やされ元気をもらっている。
こんなに素敵な家族を持てたのは、過去3度の人生を含めて初めてだ。
そんなことを思い返し、改めて幸せな気持ちになる。
その大切な家族や領地に、ミハイル様はたくさんの優しい贈り物をしてくださるなんて……!
明日仕事に戻ったらお礼を言わなくちゃ。
そうして、ミハイル様に心から感謝しつつ、家族水入らずの時間を楽しんだのだった。
カフェの扉を入ると元気な声に迎えられた。
声のした方を見ると、奥のテーブルにいるお母様が椅子から立ち上がり、満面の笑顔で私に手招きをしている。
隣に座っているお父様は少し困ったような笑顔だけど、いかにも微笑ましいといった表情だ。
久しぶりに会えた嬉しさに、思わず小走りで駆け寄る。
久しぶりの休暇を取った私は、このラバドゥーン公爵家の領地までやって来た両親とティータイムを過ごすことになっていた。
「久しぶりね、アリシア。元気だった?」
お母様はそう言って慈しむように私をギュッと抱きしめてくれる。
「はい。お母様も元気そうで何よりです」
「うふふ、私はいつでも元気よ」
「それにしても、急にどうしたんですか?」
いくらなんでも急に来るなんて、両親にしては珍しい行動のような気がする。
仕事熱心で、余程のことがない限り領地から離れることはあまりしないのに。
「それはもちろん、あれだけのことをして貰ったんだからお礼に来ないと」
お母様は力を込めて言い放った。
「へ? お礼?」
「ああ、本当に助かったよ。アリシア、ありがとう」
お父様も同じように感情のこもった声で言う。
「えっ? あの、お父様、ちょっと何の話か全くわからないです」
「ラバドゥーン公爵家の公子様から頂いた支援のことだよ」
「支援???」
「ああ、領地の民たちも大喜びさ!」
一体何の話なの?!
驚きつつよくよく聞いてみると、なんとミハイル様はお父様に連絡を取って、ルリジオンの領地に沢山の支援を送ってくれたとのことだった。
お陰で街のあちこちを整備したり専門家や人員の手配、領地民への配布物、ルリジオン家へのお心遣いまでもがしこたま届けられたという。
ミハイル様がそんなことを……?!?!
「公子様にお礼のご挨拶をと思ったんだが、それは丁重に断られてしまってな。その代わり休暇のアリシアに久しぶりに会うようにとおっしゃってくださったんだ」
あ……。もしかしてこの前、ふいにミハイル様の前でこぼした『両親に久しぶりに会いたい』って呟きを覚えてくださってたんだ。
恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ちが複雑に入り混じる。
そんな私の表情を見て何かを思ったのか、お母様が口を開いた。
「あんなに素敵なお方のお側にいられるならきっと幸せよねえ」
そう言いながらうっとりした表情をしている。
思わず先日ミハイル様から受けた大きな温かい手の感触と優しい瞳を思い出し、一瞬ドキッと胸が高鳴るが、すぐに現実に引き戻された。
ま、まさかお母様ったら、また変なことを考えているんじゃ……。
そうだわ、ここへ来てすっかり忘れていたけど、お母様はとてもちゃっかりした性格だった。
ふと以前あった出来事を思い出す。
珍しく子爵家の領地に訪れていたとある高位貴族の令息が、私に社交辞令を言ったことが発端だった。
お母様はここぞとばかりにその令息と私のご縁を繋げようとあれこれ画策し始めたのだ。
いくら私のためとはいえ、お父様もトーマスも呆れ返っていたっけ。
放っておくと暴走しかねない。
「え、ええ、もちろん、素敵な公子様にお仕えできて光栄ですわ。それよりも、ここはこの街1番のカフェなんですよ。美味しいスイーツを頂きましょうよ!」
「アリシアの言う通りさ。さあケーキでも食べよう」
すかさずフォローに入ってくれたお父様と一緒に、お母様の気を逸らすべくメニューを広げる。
ああ、なんだかこの感じ懐かしい。
天然な上に無鉄砲すぎるお母様に翻弄されながら、お父様と二人でどれだけフォローしてきたことか。
それでも、その明るさに家族や領民たちまでもが癒やされ元気をもらっている。
こんなに素敵な家族を持てたのは、過去3度の人生を含めて初めてだ。
そんなことを思い返し、改めて幸せな気持ちになる。
その大切な家族や領地に、ミハイル様はたくさんの優しい贈り物をしてくださるなんて……!
明日仕事に戻ったらお礼を言わなくちゃ。
そうして、ミハイル様に心から感謝しつつ、家族水入らずの時間を楽しんだのだった。
41
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる