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22、草むしりの成果
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雲ひとつない清々しい青空のもと、一向に減らないシーツを眺めてため息をつき、私は手を止め天を仰いだ。
もう~!!
なんでこんなに洗濯物ばっかり!
今日も相変わらず、朝から大量のシーツを洗っている。
もちろん一人で。
あれから毎日のように統括執事がやって来ては尋常ではない量の仕事を言いつけられる。
大量にあるリネン類の洗濯から、一通りのホール清掃、それが終わればひたすら庭園の草むしりだ。
これが大体のお決まりパターン。
毎日へとへとになるまで仕事をこなしている。
お茶や軽食を初めとしてミハイル様周りの仕事はマリーがほとんど担当しているそうだ。
私を目の敵にしているメイドたちがご丁寧に逐一報告してくる。
だからあなたはもう公子様に近づくんじゃないわよ。
そう私を牽制しているのだろう。
そんなこともあって、今は厨房にすら近づけない。
いや、近づく時間が与えられないのだ。
屋敷の中を自由に歩く時間さえない。
ふん、そんなことしたって私は平気だもんね。
伊達に3回の人生を過ごしてきたわけじゃないんだから。
数々の修羅場を乗り越えてきた筋金入りのこの根性は、こんな嫌がらせくらいじゃ折れることなんてないわ!
…………しかし、ミハイル様に会えないとなるとやはり寂しい。
遠くから見ることすら叶わないのだもの。
まあ、ちゃんとお食事を摂っていることが確認できたから安心ではあるけれど。
わーん、でも一目も会えないのはやっぱり寂しいよ~!
そんな泣き言を言っている間にも時間は刻々と過ぎていく。
はあ、とにかくこの大量のシーツをなんとかしよう。
そう思い直し、ひたすら洗濯しては干してを繰り返して草むしりに没頭していると夕食の時間になった。
食堂に入ると相変わらず冷たい視線が突き刺さる。
なんだかこの雰囲気にもすっかり慣れてきてしまった。
いつものように夕食の配膳を受け取るために並んでいると、私の順番が巡ってきた途端、配膳担当のメイドが私に冷たく言い放つ。
「あら、もうなくなっちゃったわ」
そう言って、周囲の人も配膳作業を止めて散り散りに去って行った。
?!?!
そう来る?!
ついに、硬いピットパンすら貰えなくなった。
唖然として固まっている私を、ある者はニヤリとした表情で、ある者はクスクスと笑って隣人と囁き合いながら見ている。
ほんっとに……!
陰険すぎるわ!!
いいわよ!貰えないなら自分で調達するまでよ。
と言っても、この様子では公爵邸の中に私が口にできる食材はもうありそうにない。
うーん、どうしよう……。
あれこれ考えを巡らせていると、ふと草むしりをしていたときのある風景が頭に蘇った。
あっ、そうだ。
こうなったら街に行って屋台の串焼きでも食べよう!
ついでに気分転換もできるし、これは一石二鳥なのでは。
そう思い、マリーが勝ち誇ったような顔でこちらを見ているその場をそそくさと後にした。
◇◇◇
「えーっと、確かこの辺りだったと思うのよね……」
一人でぶつぶつと呟きながら懸命に庭園の壁沿いの草をかき分ける。
先ほど部屋で着替えてきたお出かけ用のワンピースが汚れるのもお構いなしに身を屈めて辺りを窺う。
実はここのところ毎日のように草むしりをさせられていたおかげで、庭園の壁に一部大きな穴が空いている場所を発見していたのだ。
女性一人くらいなら頑張って身を屈めれば、なんとか潜り抜けられるはず。
公爵邸は使用人たちの外出制限が厳しく、手続きがとにかく面倒である。
特に今の私が置かれた状況を考えれば、ちょっとしたことでも文句を言われかねないだろう。
無駄な衝突は避けたいところだ。
でも、あの壁穴から抜け出して早めに帰ってくればきっと大丈夫よ!
ああ、草むしりしていてよかった。
そうしてゴソゴソと夢中で草をかき分けていると、突如後ろから声を掛けられた。
「アリシア?」
「□※△☆#!!!」
思わず言葉にならない声を上げてしまいそうになり衝動的に振り返ると、そこには驚いた顔をしているミハイル様が立っていた。
び、びっくりした……。
「アリシア、こんなところで何を?」
夕方の稽古を終えたばかりなのか、ミハイル様の手には剣が握られていた。
ああ、まさかこんなところでミハイル様と遭遇してしまうとは。
「あ、え、えーと」
どうしよう、なんて誤魔化そう。
「すごく久しぶりだな」
焦る私には全く気づいておらず、ミハイル様は嬉しそうにこちらを見つめて言う。
本当だ……。
ずっと会いたくても会えなかったミハイル様の笑顔に私も思わず気持ちが上向きになる。
すると、すぐにミハイル様は悲しそうな表情をして言った。
「最近全然顔を見せてくれないじゃないか。いつも君のハーブティーを待ってるのに」
「あ……。ちょっと、色々と忙しくて」
「そうなのか――」
ミハイル様はそう言ってまた悲しそうに、子犬フェイスをしている。
うう、気まずいよ。
どうしよう。
それ以上何と言っていいか分からず黙ると、辺りは一瞬静寂に包まれる。
ぐううううううううううぅ。
水を打ったような静けさの中に、私の盛大に鳴ったお腹の音がけたたましく響いた。
わあああ、お腹、お腹が鳴っちゃったよ。
恥ずかしい!
けど、私お腹空きすぎてる。
「あははは、ちょっと夕食を食べそびれてしまって! 買い物ついでに街へ出ようかと」
恥ずかしさを誤魔化すように明るく大声で言い放つ。
私の様子を見て取ったミハイル様は気を取り直したように大きく頷いた。
「ふむ。それなら一緒に食べよう。ちょうど俺もこれから夕食にするところだったんだ」
えっ???
もう~!!
なんでこんなに洗濯物ばっかり!
今日も相変わらず、朝から大量のシーツを洗っている。
もちろん一人で。
あれから毎日のように統括執事がやって来ては尋常ではない量の仕事を言いつけられる。
大量にあるリネン類の洗濯から、一通りのホール清掃、それが終わればひたすら庭園の草むしりだ。
これが大体のお決まりパターン。
毎日へとへとになるまで仕事をこなしている。
お茶や軽食を初めとしてミハイル様周りの仕事はマリーがほとんど担当しているそうだ。
私を目の敵にしているメイドたちがご丁寧に逐一報告してくる。
だからあなたはもう公子様に近づくんじゃないわよ。
そう私を牽制しているのだろう。
そんなこともあって、今は厨房にすら近づけない。
いや、近づく時間が与えられないのだ。
屋敷の中を自由に歩く時間さえない。
ふん、そんなことしたって私は平気だもんね。
伊達に3回の人生を過ごしてきたわけじゃないんだから。
数々の修羅場を乗り越えてきた筋金入りのこの根性は、こんな嫌がらせくらいじゃ折れることなんてないわ!
…………しかし、ミハイル様に会えないとなるとやはり寂しい。
遠くから見ることすら叶わないのだもの。
まあ、ちゃんとお食事を摂っていることが確認できたから安心ではあるけれど。
わーん、でも一目も会えないのはやっぱり寂しいよ~!
そんな泣き言を言っている間にも時間は刻々と過ぎていく。
はあ、とにかくこの大量のシーツをなんとかしよう。
そう思い直し、ひたすら洗濯しては干してを繰り返して草むしりに没頭していると夕食の時間になった。
食堂に入ると相変わらず冷たい視線が突き刺さる。
なんだかこの雰囲気にもすっかり慣れてきてしまった。
いつものように夕食の配膳を受け取るために並んでいると、私の順番が巡ってきた途端、配膳担当のメイドが私に冷たく言い放つ。
「あら、もうなくなっちゃったわ」
そう言って、周囲の人も配膳作業を止めて散り散りに去って行った。
?!?!
そう来る?!
ついに、硬いピットパンすら貰えなくなった。
唖然として固まっている私を、ある者はニヤリとした表情で、ある者はクスクスと笑って隣人と囁き合いながら見ている。
ほんっとに……!
陰険すぎるわ!!
いいわよ!貰えないなら自分で調達するまでよ。
と言っても、この様子では公爵邸の中に私が口にできる食材はもうありそうにない。
うーん、どうしよう……。
あれこれ考えを巡らせていると、ふと草むしりをしていたときのある風景が頭に蘇った。
あっ、そうだ。
こうなったら街に行って屋台の串焼きでも食べよう!
ついでに気分転換もできるし、これは一石二鳥なのでは。
そう思い、マリーが勝ち誇ったような顔でこちらを見ているその場をそそくさと後にした。
◇◇◇
「えーっと、確かこの辺りだったと思うのよね……」
一人でぶつぶつと呟きながら懸命に庭園の壁沿いの草をかき分ける。
先ほど部屋で着替えてきたお出かけ用のワンピースが汚れるのもお構いなしに身を屈めて辺りを窺う。
実はここのところ毎日のように草むしりをさせられていたおかげで、庭園の壁に一部大きな穴が空いている場所を発見していたのだ。
女性一人くらいなら頑張って身を屈めれば、なんとか潜り抜けられるはず。
公爵邸は使用人たちの外出制限が厳しく、手続きがとにかく面倒である。
特に今の私が置かれた状況を考えれば、ちょっとしたことでも文句を言われかねないだろう。
無駄な衝突は避けたいところだ。
でも、あの壁穴から抜け出して早めに帰ってくればきっと大丈夫よ!
ああ、草むしりしていてよかった。
そうしてゴソゴソと夢中で草をかき分けていると、突如後ろから声を掛けられた。
「アリシア?」
「□※△☆#!!!」
思わず言葉にならない声を上げてしまいそうになり衝動的に振り返ると、そこには驚いた顔をしているミハイル様が立っていた。
び、びっくりした……。
「アリシア、こんなところで何を?」
夕方の稽古を終えたばかりなのか、ミハイル様の手には剣が握られていた。
ああ、まさかこんなところでミハイル様と遭遇してしまうとは。
「あ、え、えーと」
どうしよう、なんて誤魔化そう。
「すごく久しぶりだな」
焦る私には全く気づいておらず、ミハイル様は嬉しそうにこちらを見つめて言う。
本当だ……。
ずっと会いたくても会えなかったミハイル様の笑顔に私も思わず気持ちが上向きになる。
すると、すぐにミハイル様は悲しそうな表情をして言った。
「最近全然顔を見せてくれないじゃないか。いつも君のハーブティーを待ってるのに」
「あ……。ちょっと、色々と忙しくて」
「そうなのか――」
ミハイル様はそう言ってまた悲しそうに、子犬フェイスをしている。
うう、気まずいよ。
どうしよう。
それ以上何と言っていいか分からず黙ると、辺りは一瞬静寂に包まれる。
ぐううううううううううぅ。
水を打ったような静けさの中に、私の盛大に鳴ったお腹の音がけたたましく響いた。
わあああ、お腹、お腹が鳴っちゃったよ。
恥ずかしい!
けど、私お腹空きすぎてる。
「あははは、ちょっと夕食を食べそびれてしまって! 買い物ついでに街へ出ようかと」
恥ずかしさを誤魔化すように明るく大声で言い放つ。
私の様子を見て取ったミハイル様は気を取り直したように大きく頷いた。
「ふむ。それなら一緒に食べよう。ちょうど俺もこれから夕食にするところだったんだ」
えっ???
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