4度目の転生、メイドになった貧乏子爵令嬢は『今度こそ恋をする!』と決意したのに次期公爵様の溺愛に気づけない?!

水錵 咲

文字の大きさ
24 / 39

23、夕暮れのデート

しおりを挟む
 あっという間に馬車の手配が整い、ミハイル様は私をスマートにエスコートして乗り込んだ。
 先日の夜会に乗った馬車とはまた違って、今日は二人乗り用のこじんまりとした馬車だった。

 公爵家はたくさん馬車があるのね。
 我が家とは大違いだわ……。

 隣に座ったミハイル様との距離が思いの外近くて緊張してしまう。

 カタカタと揺れている車内では、少しでも油断すると彼の方へ傾いて身体が触れてしまいそうになる。

 さっきの急な曲がり角は特に危なかった。
 冷や汗をぬぐいながら焦りを悟られまいと、外を眺める。 

 窓から見える夕暮れの街がとても綺麗だ。

 程なくして馬車が止まり、外へ出た。
 ミハイル様は迎えの時間を従者に伝えている。

 私は好奇心を抑えきれずキョロキョロと辺りを見回した。
 ここがラバドゥーン公爵領の中心街なんだ。

 この前、お父様たちと行ったスイーツショップや夜会の支度をしたパッシュ・エンスリーとはまた別の地区になるようだ。

 本当にこの公爵領はどこも綺麗に整備されて活気に溢れてる。
 街の人々の表情も明るい人が多くてなんだか嬉しくなるなあ。

 そんなウキウキした気持ちでいると、体にどんっ!という衝撃が走った。
 ふと目をやると、後ろから歩いてきた子供がぶつかってしまったようだった。

「あ、大丈夫?」
 歩き去ろうとする子供に反射的に声を掛けると、彼はびくっと体を揺らしてこちらを振り返った。

 まだ10歳に満たないくらいの小さな男の子だ。
 その瞳は恐怖に満ちている。

 あら、痛かったのかな。

「ごめんね、ぼーっとしてたから」
 笑って近づこうとすると、彼はさらに萎縮して胸元で握りしめている手に力を入れた。

 その手元を見ると、見覚えのあるポーチが。
 え?!串焼きを買おうと思ってポケットに入れていた硬貨入れだわ。

 …………!
 この子、わざとぶつかって私のポケットから……?

 そっと近づいて彼の前にしゃがみ込み、目線を合わせた。
 彼は体中を震わせながら、目に涙を溜めている。

「ご、ごめん、なさい……」
 彼は今にも倒れそうなほどか細い声で言ってから、震える手でポーチを私に差し出した。

 身なりをよく見てみると、衣服は所々が切れて薄汚れ彼の辛い生活事情が垣間見えた。
 涙をポロポロと零している彼の姿を見て、思わず息が詰まる。

「どうしたんだ?」
 すぐ後ろからミハイル様の声が聞こえて私は思わず身体がびくっと反応してしまう。

 いけない。
 ここでミハイル様にこんな表情を見せたら、この状況を悟られてしまう。

 この男の子がスリをしようとしたなんてことがバレたらきっと連れていかれるだろう。
 貴族の持ち物を奪おうとした平民のその先がどうなるかなんて明白だ。

 きっと生活が苦しいんだよね。
 こんなことしたくてしたんじゃないんだよね。

 でも、彼は人の物を奪おうとした。
 罪は、罪だ。

 それなのに、私は目の前で小さな肩を震わせている男の子をどうしても罪に問うことができない気がしていた。

 その気持ちを自覚すると同時に私の体は勝手に動き、ポーチをさっとポケットに戻してミハイル様から男の子を隠すように立ち上がる。

 ミハイル様に見えない背中の後ろで、早くここから去れと言わんばかりに彼の肩をそっと押した。

 走り去る小さな足音と嗚咽が微かに聞こえてすぐに静かになる。


 これが間違っているのか、正しいのかは分からない。
 でも、あの子が見せた反省の気持ちを私は信じたい。

「いえ、なんでもありません。人違いだったようです」
「…………そうか。それではアリシア行こう」

 優しく笑ってミハイル様は私の手を取り歩き始めた。

 どうかあの子の心が少しでも癒されますように。
 そんなことを美しい夕暮れに願った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

処理中です...