4度目の転生、メイドになった貧乏子爵令嬢は『今度こそ恋をする!』と決意したのに次期公爵様の溺愛に気づけない?!

水錵 咲

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26、メイドたちの結託

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 翌朝、仕事へ出向くと早速それはやってきた。
 持ち場をたらい回されるわ、掃除道具は隠されるわ、挙げ句の果てにお昼も食べさせてもらえない始末。

 ありとあらゆる嫌がらせが怒涛のようにやってきたのだ。

 はあ、疲れる……。

 それでもなんとか仕事を終えて、夕食を迎える頃にはすでにぐったりしていた。
 今日もあの硬いパンかな。

 疲れた頭でぼんやりとそう思いながら食堂の列に並ぶと、意外にもちゃんとした食事が配膳された。

 あ、今日は大丈夫なんだ。
 お腹空いてたからよかった。

 空いてる席に座り、ご飯を食べようとしたそのとき。


 ばしゃーん!!


 派手な音がした途端、急に寒気を感じる。
 一瞬遅れて、びしょ濡れになった衣服の重みを感じた。

 何?これ……。

 ふと気づくと、メイド達が私を取り囲み、そのうちの一人がバケツを抱えてこちらをキッと見据えていた。

「あなたったらどこまで図々しいの?!」

 周囲のメイドたちも一様に私を睨んでいる。

「ほんとよ!」
「マリーにはひどいことするし、公子様には取り入ってベタベタするし、なんて破廉恥なのかしら」
「落ちぶれた家門出身の上にメイドのあなたなんかが公子様の隣に並ぶなんて……! もっと身の程を知りなさい!」

 バケツを持ったメイドは吐き捨てるようにそう言った。
 そして、つかつかと目の前にやって来て、バケツの残り水を私のトレーに乗った食事へザバっと掛ける。

 その様子を見ていた周囲の使用人達からくすくすと笑い声が漏れてきた。


 食べ物を粗末にするなんて、ひどい……。

 そういえば、街で会ったあの小さな男の子は食べ物を口にできているのかな。
 ミハイル様、アカデミアの件は順調かしら?

 こんな状況で支離滅裂な思考に、自分でも戸惑う。

 なんだか本当にぐったりしちゃう。
 私は水でぐちゃぐちゃになった目の前の食事を見ながら、随分と疲れ切った自分を感じた。



◇◇◇



 その後は、メイドたちとの距離が一層遠くなり、私は以前にも増して、日に日に孤立していった。

 なんとかして誤解を解きたかったけれど、みんなはマリーの言い分だけを完全に信じ込んでいて、耳を貸すはずもない。

 誰にも弁明することができず、味方は一人もいないこの状況が何日も経って段々と慣れてきてしまっている自分がいる。

 しかし雑用ばかりを言いつけられるので、思うように動きが取れないのは痛い。
 私を徹底的にミハイル様の傍に寄り付けないようにしたいみたいだ。

 ああ、なんでこんなことになっちゃったんだろう。 

 お天気で気持ちのいい昼下がり、そんなことを考えながらいつものように洗濯籠を抱えて歩いていた。

 あまりにぼーっとしすぎていたのか、いつの間にか庭園の方まで来てしまっていた。


 あれ?
 やだ私ったら。

 慌てて戻ろうと回れ右をしたその瞬間。

「アリシア?」

 温かくて優しい音色で私を呼ぶ声がする。
 この声は――――

「ミハイル様……」

 振り返ると、正装をしたミハイル様が立っていた。
 なんだか、すごく懐かしく感じてしまう。

 ミハイル様はいそいそと私の傍に寄って来ていつもの綺麗な笑顔を向ける。

「アリシア、どうしたこんなところで」

 いつもの美しくて凛としたミハイル様だ。
 久しぶりに敵意を向けてこない人に会って心が緩む。

「久しぶりだな。ここのところまた昼食を持って来てくれないのだな」
「あ、ちょっと忙しくて。すみません」
「いや、謝ることはない。アリシアの顔が見れなくて寂しかっただけだ」

 まるで少年のような可愛い笑顔でそう言うミハイル様を見て、私は心がぎゅっとなる。


 そんな気持ちが顔に出てしまっていたのか、ミハイル様は私の様子をうかがうようにして言う。

「どうした? 何かあったのか?」

 心配そうな表情のミハイル様を見て思わず縋りつきそうになる。

 そう思い、ミハイル様に一歩近づいた瞬間、後ろにいたポサメさんが目に入った。
 ちらちらと時計を見ながら珍しく焦ったような顔をしている。

 気づけば門の方には馬車がすでに止まっているのが見えた。

 あ……外出なさるんだ。
 ポサメさんの様子だときっとお約束の時間が迫っているのね。

 そう思い、私は冷静になった。

「いえ、落とし物を探していただけです」
 不自然にならない程度に明るく答えた。

「そうなのか?」
「はい。ミハイル様はお出かけですか?」
「ああ、爵位継承の件でやっておかねばならないことが山程あってな」
「そうでしたか。ではお気をつけていってらっしゃいませ」

 笑顔で見送ると、ミハイル様は安心したように出掛けて行った。

 いつも優しく気遣ってくれるからって、私なんかが甘えたらダメよね。
 お忙しいお方なんだから。
 そう自分に言い聞かせたとき、後ろから鋭い声が響いた。

「ちょっと、アリシア!」

 大きな声に思わずビクッとして振り返ると、先日の食堂で水を掛けてきたバケツのメイドが仁王立ちしている。

 はあ、また雑用でもいいつけられるのかな。
 半ば諦めたように聞き返した。

「あ、はい。なんでしょうか」


 すると、耳に飛び込んできたのは驚くべき言葉だった。


「公爵様がお呼びよ」
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