公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧

文字の大きさ
15 / 36
本編

14、束の間の休息

しおりを挟む
 なんとか落ち着き、呼吸を取り戻した私は、ひとまず王宮に戻ることにした。

 エリック様はしばらく公爵邸で安静にしてはどうかと勧めてくれたが、そこまでお世話になるのは心苦しくて丁重にお断りをしたのだ。

 きっとミラが心配しているだろうから早く帰らなくては、という思いもあったが、それ以上に、このまま公爵邸にいたら小説の展開がさらに変わってしまうのではないかと不安だった。


 何より、これ以上エリック様と一緒にいると、欲が出てきてしまいそうで怖くなる。
 もっと彼を知りたい、彼の温もりを感じていたい、傍に居たい。

 どこからか湧いてくる気持ちを私は見ないふりをした。

 そんなこと、思ってはいけない。

 だって私はエリック様のバッドエンドを阻止して、メアリー様と幸せになってもらうためのお手伝いをすると決めたのだから。

 そんなことを願ったら、それこそ小説の展開が大幅に変わってしまう。
 バッドエンドを覆すにあたって、想定外の道を辿るのは得策とは言えない。

 これにはエリック様の命が掛かってるんだから、しっかりしなくちゃ。


 ――――


 私が王宮に戻ると、ミラが安堵した様子で私を迎え入れた。

「レイラお嬢様!! 突然倒れられたと王宮の人から知らせを受けて心配してました……!」
 ミラはそう言いながら、私をガバッと抱きしめた。

 あっ、エリック様が毒のことは誰にも言うなって言ってたから、黙っておかなくては。

 昨夜の夜会でのことも、あらぬ憶測や噂が立たぬようエドワード殿下と綿密に手回しをしてくれたらしい。

 私もミラには余計な心配をかけたくなかったのでちょうどよかった。

「うん、ちょっと飲み過ぎて体調を崩した私をエリック様が介抱してくれたの」

 そして、公爵邸でお世話になったことを話した。

「ってことは、お嬢様……!」
 ミラはほっぺたを真っ赤にして、期待に満ちた瞳を潤ませながら今にも爆発してしまいそうに震えている。

 えっ?!この反応って何?

 きゃあ!やだ!
 まさか、あらぬ想像をしてない?!

「ちょ、ちょっとミラ?! 私とエリック様は何もないわよ?!」
「へ?! 一晩一緒にいて何もなかったんですか?!」

 それどころじゃなかったのよお……。

「何も? 全く? 触れてもないんですか?」

 いや、そ、それは、全く触れてないわけじゃないけど。

 私は今朝のエリック様に抱きしめられたときの厚い胸板と逞しい身体の感触が蘇り、顔が真っ赤に染まっていく。

「きゃあ! やっぱり何かあったんですね!」
「ち、違うの! あの、昨日色々あって、それで話してたら悲しくなっちゃって……それを慰めるために抱きしめてくれただけよ」

 私が恥ずかしそうにそう言うと、ミラは優しい笑顔になって言う。

「そうなんですか。やっぱり公爵様はお嬢様を大切に思ってくださっているんですね」
「い、いやそうじゃなくて……」
「だって、」

 そう言いかけたミラに私は慌てて言葉を被せる。

「エ、エリック様は誰に対してもお優しいから! 本当にお世話になっちゃったわね。今度何かお礼をしないと!」

 愛想笑いをしながら言う私に、ミラは納得がいかないといった風な表情を向ける。

「ああ、まだちょっと疲れが残っているみたい。少し横になろうかな」

 私は何かを言いたげなミラから逃げるように言った。


 これ以上言われると、自分の中でエリック様に対する何らかの感情が育ってしまいそうで怖かったのかもしれない。

 でも、まだ体が回復していないというのも本当だ。声を張ろうとすると少し息が上がってしまう。

 ここに来てからというもの立て続けに色々あったし、ヘレナには脅されるしエリザに毒は盛られるし……。

 のほほんと生きてきた私には非日常が重なり過ぎた。

 そんな状態だから、心まで弱くなって思わず誰かに甘えてしまいたくなるような心境なのかもしれない。

 普段、揶揄うようなことばかり言っているエリック様があんな優しい一面を見せてくれたので、勘違いしてしまいそうになる。

 うん、ただそれだけのこと。
 そもそも彼には特別な感情なんて何もない、私はただ彼の周りにいる令嬢のうちの一人なんだから。


 ミラはまだまだ話し足りない様子だったが、私の身体を心配して休めるように着替えとベッドを整えてくれた。

 とりあえず、今は少し休んでからまた考えよう。
 ミラの温かい笑顔に見守られながら、私はゆっくりと目を閉じ眠りについた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。

櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。 兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。 ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。 私も脳筋ってこと!? それはイヤ!! 前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。 ゆるく軽いラブコメ目指しています。 最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。 小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

【完結】断りに行ったら、お見合い相手がドストライクだったので、やっぱり結婚します!

櫻野くるみ
恋愛
ソフィーは結婚しないと決めていた。 女だからって、家を守るとか冗談じゃないわ。 私は自立して、商会を立ち上げるんだから!! しかし断りきれずに、仕方なく行ったお見合いで、好みど真ん中の男性が現れ・・・? 勢いで、「私と結婚して下さい!」と、逆プロポーズをしてしまったが、どうやらお相手も結婚しない主義らしい。 ソフィーも、この人と結婚はしたいけど、外で仕事をする夢も捨てきれない。 果たして悩める乙女は、いいとこ取りの人生を送ることは出来るのか。 完結しました。

処理中です...