公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧

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本編

27、古代呪術“ベリルの異変”

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 それからこっそりと応接間を後にした私たちは、いつも通りの日課をこなして一日を終えた。

 今日はシエラに会ってお願いもできたから、あとはエリック様がなんとか私のお願いを聞いてくれたらいいんだけど……。


 最後に会ったとき、逃げるように走って帰ってしまったあの瞬間を思い出す。

 で、でも、あれは女心を揶揄うようなことをするエリック様が悪いもん。

 
 ……いや、いくら好きになっちゃいけないと言い聞かせてただけとはいえ、さすがにダッシュで逃げるのは失礼だったよね――――。

 そんなことしても、エリック様への気持ちは振り解けるわけないのに。


 ああ、エリック様に呆れられてませんように……!
 どうかシエラが上手に説得してくれますように……!

 そのために頑張って薬草を入手したんだし――――。

 ああ、神様、神殿様、ごめんなさい。
 ここから出たら必ずお返しするので、ちょっとだけ貸してください。


 でも、あの部屋にあったのが毒草だったなんて驚いたなあ。
 神殿なのに毒草を使うことなんてあるのかな?

 神官長様とジェニエス侯爵は一緒にあの部屋に入っていったわけだし、二人共この事実を知ってるんだよね?

 なんで、あんな夜中の誰もいない時間に、まるで人目を避けるようにあの部屋に入ったんだろう。

 用事があるなら今日みたいに昼間訪ねてきた時にいっぺんに済ませばいいのに。


 そうして考えていると、何かが腑に落ちない。
 ヘレナがここによく来てるってことも何か引っ掛かる。

 私を脅してきたあの時の様子を思い出すと、やっぱり神を信心するようなタイプには決して思えないし――。

 就寝の支度を整えてベッドに入ったけれど、色々と考えているうちにどんどん頭が冴えてきてしまって寝れそうにない。


 シエラのことだ、すぐにあれがどんな薬草なのか調べ上げるだろう。

 あっ、あそこにあった他の薬草もシエラに渡して調べてもらうのはどうかな。
 そうしたら、何かわかるかも。

 そう思いついて、私はもう一度あの部屋に行ってみることにした。
 どうせ今夜もまだ眠れそうにないし。

 灯りを持ってひたひたと暗い神殿の廊下を歩く。
 もうだいぶ慣れたな。

 素早く薬草の部屋について扉を開けて中に入った。

 確か変わった匂いの薬草を渡したら毒草だったのよね。
 他にもそんなものがあれば一通り持っていこう。

 そうしてくんくんと薬草の山を嗅ぎ回っていると、がちゃりとドアノブを回す音が聞こえた。

 え?!?!誰か入ってくる?!
 まずい!薬草に夢中になってて足音に気づかなかった!

 私は大慌てで灯りを消して奥にある薬草の山の影に隠れた。
 と、同時に二つの影が部屋へ入ってくる。

 コツコツと足音を立てる二人は低い声で話している。


「本日の昼の手続きで届いた荷物はこちらに」
「うむ」

 二人の男たちがかさかさと音を立てて、薬草を引き出しているようだった。

「おお、これか……」
「ええ、やっと見つかりましたね」
「これでやっと古代呪術“ベリルの異変”が完成するな」

 ここに出入りする二人の男って……。
 私はそーっと体をずらして男たちの顔を窺い見た。

 やっぱり。

 彼らが手に持った灯りに浮かび上がっていたのは、神官長様とジェニエス侯爵の顔だった。

 古代呪術ってなんの話だろう。
 私がそんな疑問を頭に浮かべた次の瞬間、恐ろしい言葉が耳に入ってきた。

「まさか、かつてあった伝説が現代に甦るとは……。これでこの王国も侯爵のものですな」
「ああ、これを飲ませれば完璧に国王陛下の息の根も止まることだろう」

 ――――……?!一体どういうこと?!

「ベリルの薬草を手にいれる過程でこれだけ沢山の毒草が集まるとは神官長も大したものだ」
「ええ、こちらの惑わし草を王太子に飲ませ続ければ侯爵の意のままに」
「なるほど」
「この毒草は妃に決まったメアリー王女に。摂取し続ければ後継が生まれることはないでしょう」

 なんですって?! 

「おっと、その惑わし草はロラン公爵の分までしっかりと回してくれよ」
「ロラン公爵ですか?」

 エリック様?!

「ああ、あの小生意気な若造は娘がどうしても欲しいと言うのでな。まあ私の意のままになるなら婿にとってやらんこともない」
「はっはっは。さすが侯爵様はお心が広い」

 な、何言ってんのよ!!このおじさんたちは!!
 人のことを何だと思ってるの……!

 私の大事な人たちにそんな危害を加えようとしてるなんて!
 それに反逆まで企てて……!!
 とんだ悪役神官長と悪役宰相じゃない!

 私は怒りに震える心を懸命に抑えつけた。


「決行はいつにしましょう」
「次の新月の日の午前だ。正式にメアリー王女が婚約者として国王陛下に面会する茶会を予定している。立会人として私と娘の他にロラン公爵も参加予定だ」
「なんとも都合の良い機会ですな」
「ああ、そこでロラン公爵と娘の婚約もまとめれば一石二鳥だからな」
「父親の鑑ですねえ」
「まったく我が儘娘に育ってしまって困ったよ。はっはっは」


 ……どうしよう!
 国王陛下も殿下もメアリー様もみんな危ない……!
 エリック様も、変な薬草で操られてヘレナと結婚させられちゃう!

 止めなくちゃ!絶対に止めなくちゃ。


 ん?次の新月って。
 明後日じゃない!!!

 そう思った瞬間、思わず体に力が入って床に置いていた灯りに足をぶつけてしまった。
 カタン、と微かな音が鳴り私が青ざめた瞬間。

「「誰だ?!?!」
 神官長とジェニエス侯爵が叫んだ。

 やばい!!!!
 どどどどどうしよう。隠れなきゃ!いや、外に逃げる?!

 そう慌てふためくうちに、あっという間に二人に見つかり囲まれてしまった。

「お前は……神官じゃないな?」
 ジェニエス侯爵はヘレナと同じ赤髪を揺らし私を睨む。

「これは、これは、聖女様ではないですか」
 神官長は不気味な笑顔を作り私の腕を掴んだ。

「聖女?」
「ええ、先日からおいでなさった大切な聖女様なのですよ」
「……ああ。これが娘が言っていた例の」

 ジェニエス侯爵は何かを思い出したように私を見てニヤリと笑った。
 後退りしようにも、強く掴まれた腕は振り解くことができず固まるしかなかった。

 ぶ、不気味だ。

 不穏な笑顔で私を取り囲む二人は、真夜中の神殿に飾られた肖像画よりも100倍怖い。

 ど、どうしたらいいの~~~!!
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