月の歌

ハルハル

文字の大きさ
上 下
11 / 20

淡い想い

しおりを挟む
『ああああああっ!』
夜、私は心の中で叫びながら頭を寝具でくるんだ。
顔が赤くなるのが自分でも分かる。
私はあの時月夜様に抱えられて逃げてから、月夜様の顔がまともに見られなくなっていた。目があうだけで内心パニックになるのだ。心拍数が急上昇し、顔が熱くなる。
『ああ、恥ずかしい!』

洞窟に戻ってから月夜様は私を降ろしてくれた。その後はいつも通りである。
私1人が勝手にドキドキしているのだ。
『ズルいです!...そりゃ私が勝手にときめいてるだけなんでしょうけど!あんな事しといていつもと変わらないってなんか腹立ちますぅ!』
萌葱わたしよ、何故に敬語なのか。やはりまだちょっと...いやだいぶ混乱しているらしい。
はあ、とため息をつく。少し落ち着くことができた。
私は寝具にくるまり目を閉じた。
例え頭が少々イカれてしまっても時間は経つ。明日も普通に過ごさなくてはならない。

次の日。早く起きて朝ごはんの仕度をしていると隣に楓さんが立ち私の顔をのぞきこんできた。
「おはよー、昨日月夜様と何かあった?」
朝ごはんはなあに?と言うかのように軽く聞かれたため、私は反応するのがかなり遅れた。
「...えっ?」
「あー、やっぱりその顔は何かあったわね?昨日から萌葱ちゃんの様子がおかしいんだもの。変だなって思ったのよ」
...ついでに、取り繕うのも忘れたらしい。
「えーと、そんなに分かりやすい、ですか?」
何故か得意げに頷いている楓さんにおそるおそる聞いてみると、楓さんはコロコロと笑い声をあげた。
「ええ、とっても。前もいったけど顔にモロに出るのよ」
撃沈。
私はコントよろしく床にへたりこんだ。
そんな私に楓さんはさらに楽しそうに笑う。
「んー、月夜様ったら性格はまあ置いとくとしても顔はすごく良いものねー。萌葱ちゃんの場合助けてもらったこともあるし余計、てとこかしら?」
ウフフ、と笑う楓さんは何度もいうが長く生きている精霊とは思えない。完全に恋バナ好きの女の子である。
「まあでも、相手が誰であれ好きになっちゃうときってあるものよね」
楓さんは一瞬遠くに視線をやった。その顔がなんだか悲しげで、私がそれについて聞こうとすると、それを遮るように楓さんは大きめの声で言った。
「私は萌葱ちゃんの味方だから!何かあったら何でも言いなさいな!月夜様はハッキリと告白しないと多分気づいてくれないと思うわよ」
「そ、そうですが...」
簡単に言えたら苦労はしないのである。
というか、この気持ちが何なのかもまだよくわかっていないのに告白とか冗談ではない。
「ううぅ...」
「何をうめいている。体調でも崩したか?」
いきなり声をかけられ、私はビクッと大袈裟なほど肩を震わせた。
いつのまにか月夜様が近くに立っていた。
楓さんは驚いた様子もなくクスクス笑っているのでおそらくわざと私に伝えてくれなかったのだろう。
...ひどいです楓さん。新手のいじめですか。
「な、何でもないです。本当ですよ!」
私は顔の前でパタパタと両手をふってついでに首も横にブンブンふった。
月夜様が首をかしげる。
「むぅ?そうか。なら良いが...」
あああ、私は今日も布団に入ってからしばらく寝付けないかもしれない。

自分の気持ちが分からないままではあるが、私はこの生活を気に入っている。
こうやっていつまでもこんな毎日が続けば良い。
そう心の隅で願った。


しおりを挟む

処理中です...