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第十一章 憂いの先の幸福
Ⅰ
しおりを挟む夕日が沈み、白宮に薄暗い影が落ちる。
神殿の護衛兵と王宮の騎士隊の合同演習に参加した帰り、タランは珍しく白宮の廊下でサディアスを見かけた。聖女もこちらに気づき、目が合う。礼をしてから顔を上げると険しい顔の聖女がこちらに向って歩いて来ていた。
「その怪我、どうしたの?」
タランに手を伸ばし、目の上に出来た腫れ物や首の痣を撫でる。それだけで、その箇所の熱が引いたように感じた。
「合同演習に参加してまして……」
それらは、訓練の手合わせで出来た傷だった。
「怪我をしたら、すぐに私の所に来るのよ?」
そう言って少し背伸びすると、痣に口づけする。たちどころに痣の痛みが引いた。
「貴方、見えないところにも怪我があるでしょう?」
聖女は眉を潜める。彼女は神聖力を与える時に対象がどれくらいの怪我や病を抱えているのか分かるらしかった。
「これくらい、白宮に来るまでは日常茶飯事でしたので大丈夫です」
タダンは逃げ腰になる。そんなタダンの様子を見て聖女は少し哀しげになる。
「嫌ならいいの。また、神聖力を必要とする時にまとめて治すわ」
サディアスは振り返ると、後ろに控えていたカガリとその場を去っていった。
*
タランがサディアスの部屋を訪れると彼女はいつものように長椅子に座り、カガリが入れたのであろうお茶を楽しんでいた。
「いらっしゃい。怪我の様子はどう?」
にこやかに迎えてくれた聖女に、連日の合同演習でさらに傷が増えたとは言えなかった。
「前から思っていたのだけど、タランは私から神聖力を与えられるのが、まだ嫌なの?」
隣に座りタランもお茶を啜っていると、聖女がおずおずと伺ってくる。
「想い人がいるなら白宮に住まなくてもいいのよ?どうしても神聖力を受け取るために、定期的に私に会わなくてはいけないけれど……」
彼女が申し訳無さそうな顔をするので、タランは恐縮する。王族にも匹敵する高貴な方がこんなにも自分を気遣うとは恐れ多い。
「そのような者はいないのですが。やはり、聖女様の施しを受けるのは身に余るような気がしています。命を助けていただいたのに、ここでは恩返しの機会もありませんし……」
タランも申し訳ない顔をする。それを見てサディアスは微笑んだ。
「嫌じゃないなら遠慮することは無いのよ。私がタランを生かしたかったのだから。貴方の命の責任は私にあるのよ」
聖女がタランの頬に手を伸ばしたが、触れる前に躊躇した。
「私と肌を合わせることが嫌?私をふしだらな女だと思ってる?」
「そんな事はありません。貴方は魅力的ですし、他の者と同じようにお慕いしてます。……私も男ですから欲情もしてしまいます」
急いで否定すると、聖女がタランのたくましい体に寄りかかり、肩に頭を預けた。
「よかった。貴方は騎士だから遠慮してしまうのね。……私はね、貴方達に神聖力を与えてる時が1番幸せな気持ちになるの」
うつむく彼女は自分の髪を指で弄んでいる。その仕草がなんだか子どもっぽく見えて微笑ましい。
「小さい時に家族と離れてからは長い事、広い白宮でカガリと2人だけでいたの。15歳で大聖人になってから、儀式以外で使い所がなくてロウエルを助けるまでは神聖力を持て余していたわ」
誰にも聞いたことがない聖女の過去は興味深かった。
「儀式も聖人の義務も大事な事だけど、やっぱり目の前の人を救いたかった。その為に与えられた力が使えないなら、私が普通の人生を捧げてまで白宮にいる意味は何なのか分からなくなって……」
聖女は淡々と話していたが、いつも朗らかな表情の彼女が真顔でいるだけで、そのことがとても苦痛だったのだろうと分かる。
「みんなを助けて、家族みたいになれて嬉しかった。みんなに必要とされてやっと自分になれたの。こうしてると安心する」
顔を上げ、タランに碧色の瞳を向けたサディアスには人々を慈しむような表情が戻っていた。
「だから、心配しなくてもいいのよ。貴方達と触れ合えると幸せ。だから、貴方も幸せにしたい。これからも私に生きる意味を与えてくれる?」
タランはその言葉を聞くと、なんだか胸がいっぱいになった。言葉で表すことが出来ず、サディアスを抱き寝室に向かう。
寝台に下ろした聖女の小さな躰に覆いかぶさり、その頰を手で撫でる。見つめ合うと聖女が目を閉じた。彼女の唇に口づける。触れるだけのキスを何度も重ねた。
*
タランは農村の生まれだった。村の中でも特別体格に恵まれたタランは家族に楽をさせたいと兵に志願した。そして、その愚直な正確と弛まぬ努力の末、城の騎士にまで成り上がった。
騎士の生活にも慣れた頃。かねてから計画していた通り、家族を王都に迎えることにした。そして引っ越しの期日、タランは久しぶりに故郷へ足を踏み入れた。そこで目にしたのは、焼け跡になった生家の姿だった。つい最近まで手紙でやり取りしていた家族の姿もそこにはなかった。
理由がわからず、村を彷徨ったが村人はほとんど見つからない。やっと見つけた住人に聞いた話はこうだ。
家族はタランからの仕送りのほとんどを村全体が豊かになるように使用していたらしい。より良い品種の種を買って分けあったり、新しい農具を揃えたりもしていた。初めはそれをありがたがっていた村人たちも、いつしか当たり前だと思うようになっていく。
そこに都へ移住するという話になったので、一家を頼りにしていた村人は困った。どうにか村に留まって貰おうと話しに行っても、息子が待っているからと、断られる。
移住の日が近づくにつれ、焦りが募る村人数人が話し合いの内に誤ってタランの母に傷を負わせてしまった。それに激高した父を勢い余って殺害してしまい、それを隠すために続けて母や妹も殺害し、家に火を放ったのだ。
すぐにその犯行は村に知られることになったが、犯人達は捕らえる前にそれぞれの家族共々逃げていった。
そして、それがタランに伝わると村全体が責任を背負わされると考えた人々も村を去っていった。これがタランが訪れる5日前の話だ。
話を聞いてタランは目の前が真っ暗になった。教えてくれた村人はうずくまるタランに謝罪や慰めの言葉をかけたが、その声は届いていなかった。
家族を楽にさせたかっただけなのに。自分が村を出なければ、家族にお金を送らなければ、裕福でなくても家族はこれからも、この村で生きていけたはずだ。
人の倍以上の修練を積んで騎士になった。それは家族の為にお金を稼ぐ事の他に、人々を護ることが出来たら、という思いからだったのに。自分の家族さえ護れず、何の為に強くなったんだ。これからは、何の為に生きていけば……。
そう絶望してこれまで生きてきた。自暴自棄になり自分の身を危険に晒すことも少なくなかった。
そして、サディアスに出会ったあの日。実際に死を目の前にしたタランは、聖女の問いに生きたいと答えた。何も護れなかった自分のままで死にたくはなかったから。
なんの為に生きているのか。同じような憂いを過去のサディアスも抱えていたのだ。そして今は辛さの先の幸せを見つけ、それを護るために生きている。その中にはタランも含まれているのだと思うと、醜く生にすがった自分を赦された気持ちになる。
*
「服、脱いで?」
言われるままに服を脱ぐ。見ていた聖女の眉が動き、タランの躰に浮かぶ筋肉の筋を撫でる。
「怪我、増えてる」
サディアスは咎めるように呟くと傷の1つに口を寄せる。タランの鬱血した肌に口づけながら、身体の線を指でなぞる。
聖女が綺麗に治った皮膚に吸い付いた。口が離れると赤い印が残る。上目でタランを見上げた彼女と目が合う。
「嫌?」
「……もっとしてほしいくらいです」
素直に答えると彼女は嬉しそうな顔をする。
「ロウエルには内緒よ?」
そう言って、浅黒い肌にいくつも痕を残してくれた。その度に甘く痺れるような感覚が走る。
「他の子達のように敬語やめてくれる?」
「そんなわけには……」
聖女が突然、胸の先を甘噛して、言葉を続けさせてくれなかった。胸や首筋に何度も噛みついてくる聖女の肩を押える。
「わかりま……、わかった」
彼女は満足そうな顔をする。
「いい子ね」
そう言って微笑みながら騎士の頭を抱きしめる。そして、小さく笑う。
「タランは可愛くて、なんだか虐めたくなってしまうわね」
騎士はその言葉には困惑した。
「こんなに図体の大きい男が可愛い?」
「おかしいかしら?自分よりか弱い女にそんな事を言われたら嫌?」
サディアスがあやすように撫でてくる。もし、強い事を誇りとしていた騎士の時代ならこれも不快に思っていたのだろうか。考えてもわからない。分かるのは今サディアスに子どものように扱われても、心地よいと感じるということだけだ。
「サディアスに何をされても嫌だと思うはずがない」
そう言いながら抱きしめ返すと自分の顔が赤くなったのが分かる。聖女の名を呼び捨てにしたのは初めてだった。
サディアスもそれに気付くと、タランの顔を上げさせて微笑みながら額に口づけた。
それから、タランの耳に口を寄せる。舌先で舐められると背筋が震えた。執拗に耳を責められ、水音と吐息で頭がいっぱいになっていく。息を荒げるタランの耳に聖女が歯をたてた。不意に噛まれ、甘い声を漏らしてしまう。
「……噛まれるの、好き?」
聖女の悪戯な表情に騎士はさらに紅潮して顔をそらす。サディアスは微笑んで耳まで赤くなったタランの頬に口づけた。
そして昂る陰茎に手を伸ばし、優しく手のひらで包み込んで擦る。騎士は快感を耐えるように唇を噛みしめた。肉棒の先から次々と溢れる蜜が聖女の手を滑らせる。
なんとかタランもサディアスの股に手を伸ばし割れ目を指で撫で付ける。すでに十分に濡れた秘部は簡単に指を受け入れた。優しく出し入れすると聖女は吐息を漏らす。そして求めるように口唇をひらいた。タランが舌を絡ませると吐息の熱を感じる。
十分に準備ができた事を確認してから、聖女の秘所に自分をあてがい腰を下ろす。2人は苦しげに熱く息を吐く。ようやく収まると抱き合ったまま、お互いの秘部の脈動を感じる。
「きつい……」
「タランが、大きすぎるの」
軽口の様な会話をして、目を合わせて笑った。
そして、両手の指を絡ませて腰を揺らし始める。タランの頭の中はすぐに真っ白になり、動きに合わせて声をもらす自分に羞恥心を感じる。うつむいて顔を隠そうとするが、聖女はそれを許さなかった。
「隠さないで。私の神聖力を感じて乱れている顔、見るの大好きなの」
そう言ってタランに顔を上げさせると笑みを浮かべて覗き込む。腰の動きはタランの意思とは関係なく早まる。小さな乙女に感じている姿を見つめられていることに、恥じらう気持ちがありながらも興奮する自分がいた。
サディアスの体内が肉棒に絡まり、締め付ける。聖女は快感で熱に浮かされ、眉をしかめていた。
快感に何も考えられなくなり呻く。何度も絶頂感が押し寄せたが、神聖力が足りず果てることができない。
たまらなくなり、何度か思いっきり下から突き上げると急な刺激に聖女は背中を仰け反らせる。それを見てタランは動きを止めた。
涙目で躰を震わせる彼女の膣内がせわしなく収縮を繰り返している。
「……悪かった。大丈夫か?」
タランが繋がったまま上体を起こすと、サディアスは太い首に抱きついて、膝にまたがるような姿勢になった。
そして、騎士の顎の辺りに頰を擦り寄せた。精一杯平気なふりをしている。
「私も貴方に何をされても嫌じゃないのよ?」
そう言われると、衝動が抑えられなくなる。細い腰を掴むと激しく突き立てる。思うがままにサディアスの頭を自分の口に押し付けて深く口付ける。
深く刺さっている肉棒を奥に向って何度でも押し付けると聖女の躰全体が痙攣する。サディアスは声にならない喘ぎ声をあげる。
タランは視界に光が点滅するような強い快感に夢中になり反動が逃げないように聖女の躰を押えつけて腰を動かし続ける。
満たされる躰に込み上げる多幸感。体全体が脈打ち、電撃を受けたような快感の中で盛大に果てた。
*
上がった息を整えながら力が抜けた聖女から自分を抜きとり、彼女を横たえる。また、気絶させてしまった。
あんなに忍耐を鍛えてきたはずなのに、サディアスに触れると自分の衝動が止まらなくなる。しかし、聖女はそんなタランをまるごと受け入れてくれているのだと今日知ることができた。
汗ばむ彼女の額に張り付く髪を避けていると足音が近づいてきた。いつものようにカガリは聖女を一瞥してからタランに濡れた布を渡す。
カガリはサディアスが気絶するほど無理をさせる自分をどう思っているのだろうか。他の供奉人は度が過ぎるとカガリから罰せられることもあるようだが……。従者を窺い見るがいつもの調子で聖女の体を清めている。
退出しようと立ち上がるとカガリに呼び止められる。その時、従者の目線がラウルの体の上で一瞬止まった気がした。
自分の体を見ると聖女が残した赤い痕は治癒のせいでほとんど消えていた。が、かろうじて1つだけ脇腹に残っている。
「嫌じゃなきゃ、一緒に寝て差し上げろ。聖女はお前の腕の中で寝るのをお気に召してる」
従者はそう言って部屋から出ていった。サディアスはそんな話までカガリにしているのだろうか?
残されたタランはサディアスの隣に戻り、彼女を腕の中に引き寄せる。すっぽりと収まってしまう小さな躰を抱きしめていると彼女が身動ぎしてタランの胸に頰を寄せた。
生きる意味を失っていたタランがサディアスに出会えたのは幸運だった。これからは、この小さな聖女の為に生きていく。彼女が幸せになれというのだから、そうなれるように。
そして、聖女から与えられるだけではなく、自分も彼女を幸せにしたいと願う。そんなことが出来るのかは分からないが。
とりあえず、サディアスが気に入っているというなら、いくらでも枕代わりになろう。
騎士は聖女の体温を感じながら、満ち足りた気持ちで瞼を閉じた。
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