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推しの幸せを推しが妬んでる①
しおりを挟む物語『有名魔法学校へ入学したら王子様に溺愛されちゃいました』のシルヴァ退場シーンが終わった今は、小説にしてしまえば残り10ページにも満たない辺りだろう。
それに伴って、学生らしいイベントも粗方終わっている為、ただただ平穏な、前世の頃とも変わらない普通の学生生活を過ごしている。
「シルヴァさんはー、あ、そうだ。ねぇ、俺達同い年だしこれからはシルヴァって呼んで良い?」
「……」
「それでシルヴァってさ、今日の食堂では何ランチにするの? 俺はねー」
シルヴァを見守ると決めて早数日、俺とシルヴァは同じ三年生であった事から彼の動向を見守りながら側に居る生活は、想像よりもずっと簡単だった。
シルヴァとヒロインは同じ教室に通うクラスメート。俺はクラスメートではないが、彼らのすぐ隣のクラスの生徒であり、距離的にシルヴァの居る教室に通う事はとても容易い。それにシルヴァは友達がいないから、大体教室の隅っこの自席についたまま、難しそうな魔導書を一人読んでいるのだ。わざわざ探しに行く必要が無い事はありがたい事この上ない。……なんて思いつつ、周りに誰も居ない推しの不憫さにオタクとして泣きそうにもなる。
そんな複雑な感情を今日も持ちながら、彼の元に現れて、一方的に話しかける。これが、最近の俺の日常。
「あのさ、お前って迷惑って言葉知らないの?」
「わ、今日は返事してくれる日なの? 嬉しい、もしかして何かいいことあった?」
「……」
そして、俺はそんな推しに勿論うざがられている。鬱陶しそうにジトリと睨むシルヴァの視線が痛い。
そりゃあ、俺だって分かっているさ。一人で過ごしている中で毎回毎回一方的に話しかけにこられる事が鬱陶しいという事は十分理解している。でも君の頭の中は何もしなかったら直ぐにヒロインで頭がいっぱいになるじゃあないか。少しでもその脳内に俺というノイズを入れておかないと、また何かぶっ飛んだ行動をしかねない。許してくれシルヴァ、俺だって君が憎くてやっているわけじゃないのだ。むしろ大好きだからの行動なんだ。
「また来てるよ、アルスだっけ?」
「俺去年同じクラスだったけどシルヴァに負けない根暗だったぜ? どうなってるんだ?」
ああ、遠くから俺達を奇怪なものでも見ているような視線を感じる。ヒソヒソと話しているのは、中流階級の貴族達だ。この学園は有る一定の身分と魔力さえあれば入学出来るので、上はこの国の殿下から下はそこそこの商家までと様々だ。そして俺の家は成り上がり商家であり、俺はそこの六男坊。伝統のある家とは言えない為、古くある家の子息達には悪くいわれがちだ。そんな事もあって前世の記憶を思い出す前の俺は、変に目立って家を悪く言われたくないと思い常に隅っこでいて出来るだけ気配を消すことを努めていたものだ。
だが、今は違う。俺は大好きな物語の世界に転生した今、俺が努めるべきは推しが幸せを掴むまで見守ることだ。それ以外はどうだっていい。
「あら、アルスくん! またシルヴァくんに会いにやって来たのね」
そこへ現れたのは先日無事殿下と結ばれたばかりのヒロイン、アーリアだ。鈴を転がすような声で俺とシルヴァの名を呼ぶ彼女に、シルヴァはまだ気まずさがあるようでそっと彼女から視線を外した。そんなにすぐには失恋の傷は癒えることはないだろう。だがアーリアはというとそんなシルヴァの想いに気づく様子はなく、「そうだ」と明るい調子で手を叩いた。
「アルスくん達も今度のお休みは城下町にでかけるの?」
「城下町? なにかあったっけ?」
「各国の商人が集まる大きな市場があるのよ! 他の国の名産品や、珍しいお品が並ぶんですって。私も楽しみなの」
も……?
「アーリア嬢もご友人と出かける予定で?」
「えっ、あ、わ、私は……ルベルト殿下と。お、お忍びだから内緒にしてほしいの!」
俺達だけに聞こえるようそう声を潜めると、彼女は可愛らしく照れた様子で「えへへ」と笑った。なんて可愛いのだろう。小説で読んでいたルベアリ(ルベルト×アーリア)が今目の前に展開されているなんて、オタクとしてこれ以上の幸せがあるのだろうか。アーリアが現れる場所はいつも周りにはまるで花が咲いたかのような明るい雰囲気になって、心が癒やされる。こんなところに、ルベルトもシルヴァも惹かれたのだろうな。そっとシルヴァの様子を見てみると、シルヴァは顎に指を置き、あからさまな悪巧みポーズを取っている。
「ふーん。市場に、お忍びね……」
暗い表情でそう意味ありげに呟くシルヴァ。流石、元悪役。含みのある台詞と悪そうな表情が様になっている。
「……」
嫌な予感が、しなくもない。
いやいや、まさか。流石に先日の騒動で彼も懲りているはずだろう。あの愛に生きる愛の戦士暴走モードから今は数日経ってるし、冷静になっているはずだ。馬鹿な考えを持たないだろう、そうに決まっている。
***
「ようは僕が殺ったとバレなければいいんだろう」
「より姑息になってる」
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