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勇者一行のその後
01
「今だ! レイア!!」
仲間の声を合図に地面を蹴りあげ、握り締めた聖剣を力の限り振りあげた。
いかなる悪も断ち切ると伝えられる聖なる剣。その刃を眼前にそびえ立つ悪しき巨躯へと叩き込んだ。
人間の数十倍もの巨躯を誇る、禍々しい角を生やした異形の怪物。でっぷりと膨れ上がった腹は、これまで喰らってきた人間の数を物語るかのようだった。
ここで負けるわけにはいかない。
俺たちが十年かけて辿り着いた、この場所で。これまで出会った人たちのためにも。
そして――この先の世界のために。
「うおおおお!!」
聖剣をさらに深く押し込む。
やがて刃は怪物の肉を裂き、そのまま骨までもを断ち切った。
「や、った……」
大量の血飛沫が舞い巨大な身体はその場に崩れ落ちた。
――魔王が、勇者によって討ち果たされた。
その報せが急ぎ王城へ届くと、ジュエル王国の王はすぐさま国民へ、そして世界へと公表した。
長きにわたって人々を苦しめてきた魔王の討伐。その偉業を知った多くの民が歓喜に沸き、世界中が瞬く間に祝福に包まれた。
勇者が魔王討伐の旅に費やした歳月は、十年。
決して短い年月ではない。けれど、魔王が人々を百年以上にわたって恐怖に陥れ、その眷属たる魔物が撒き散らす瘴気によって、数え切れないほどの土地が死に絶えてきた。これまでにも魔王を討つべく多くの戦士たちが立ち上がり、その命を散らしている。
そんな絶望の時代に終止符を打った今回の魔王討伐は、まさしく奇跡と呼ぶにふさわしい偉業だろう。
王都へ帰還すると街の入り口から城へ辿り着くまで、勇者一行を乗せた馬車の後を追うように多くの国民が沿道に集まった。
あちこちから花が撒かれ、歓声が上がり、祝福の声が飛び交う。人々は列を成して勇者らを迎え、その偉業を称えたのであった。
……さて、魔王を討伐し、世界が平和になったあと、勇者はその後どうなるか。
俺はその答えを知っている。
――正解は、旅の仲間に拉致されます。
「なんで!?」
「耳元で叫ばないで下さい。二度とその声を上げられないようにしますよ」
「理不尽すぎる抹消宣言?!?!」
手厚い出迎えを受けながら国王の待つ玉座の間へ通された俺たちは、赤い絨毯に膝をつき、魔王を討ち果たしたこと、そしてこの世界に再び平和が訪れたことを、改めて王へ報告した。
黄金の玉座に腰掛けた、長い髭を蓄えるふくよかで穏やかな風貌の王からは、長きにわたる旅への労いの言葉とともに、一生かかっても使い切れないほどの褒賞金をたんまりと賜った。
さらに、勇者である俺は、この国の姫と結婚することまで王様から許された。それはつまり、次期国王の座を約束されたも同然である。
ただの平民だった俺が、大金だけでなく、国まで手に入れることになった。
他の旅の仲間にも領地や爵位を与えると約束された――……ばかりだった。
ばかり、というのは本当にわずかな時間である。
王様なんて、仲間たちの「ありがとうございます」に対し、ワハハと笑い「よいよい」と手を上げたポーズのまま固まっていたくらいだ。
王命と褒賞金の額を聞き終えるや否や、仲間の一人である魔術師ランドルフは、俺をひょいと抱き上げた。その瞬間、仲間の僧侶が「お姫様抱っこ……」と呟く声が、かろうじて耳に届いた気がする。
そして、あろうことかその魔術師ランドルフは、そのままくるりと王様たちに背を向けた。
漆黒の長いローブの裾をひらひらとはためかせながら、まるで逃げることが最初から決まっていたかのように、玉座の間を駆け出したのだった。
「――、――」
(オイオイ、いまのって)
ランドルフが唱えたのは、彼の一族のみが使える術式が難解である高度な呪文。
彼の一族は古来より呪いや魔術を研究してきた。そのなかでも、一族の血に呼応して発動する転移魔法は、特に強力な術の一つである。魔力消費は激しいが、術者が一度でも行った場所であれば、どこへでも移動できる優れた術である。
旅の途中まだ幼かった彼が拗ねたりすると、よく転移魔法を使って逃げ回っていたものだ。
そんなわけで、こいつのこの魔法に、十年間頭を悩ませていたのだから、音の響きだけですぐにわかった。
こいつ、転移魔法を使いやがった。
「レイア、ランドルフ!? 待て――」
仲間の武闘家の制止する声が聞こえたが、それも遮断されたかのように、ぷつりと途切れた。
そして、つぎに聞こえてきたのは小鳥の囀り。そして木々が風に揺れて、葉が擦れ合うざわめきあっている。
「……」
俺達の目の前から大きく立派な王城は消え失せ、代わりに小さな丸太小屋があった。
管理されている様子はなく、扉は壊れ、蜘蛛があちこちに巣を作っている。
しかし、この小屋には見覚えがある。昔、四人で旅をしていた途中、数日間利用したことのある、家主のいない無人小屋だ。
記憶しているものよりも老朽化の進んだ小屋を見て、少し懐かしい気持ちになっていると、これまで無言を貫いていた男が声を漏らした。
「さて」
「さ、さて……?」
「ここからどうしたものか」
「こんな大胆な拉致を無計画でやったの、お前!?」
途方に暮れた表情でその小屋を見つめるランドルフに、俺の心からのツッコミは届いていないようだった。
仲間の声を合図に地面を蹴りあげ、握り締めた聖剣を力の限り振りあげた。
いかなる悪も断ち切ると伝えられる聖なる剣。その刃を眼前にそびえ立つ悪しき巨躯へと叩き込んだ。
人間の数十倍もの巨躯を誇る、禍々しい角を生やした異形の怪物。でっぷりと膨れ上がった腹は、これまで喰らってきた人間の数を物語るかのようだった。
ここで負けるわけにはいかない。
俺たちが十年かけて辿り着いた、この場所で。これまで出会った人たちのためにも。
そして――この先の世界のために。
「うおおおお!!」
聖剣をさらに深く押し込む。
やがて刃は怪物の肉を裂き、そのまま骨までもを断ち切った。
「や、った……」
大量の血飛沫が舞い巨大な身体はその場に崩れ落ちた。
――魔王が、勇者によって討ち果たされた。
その報せが急ぎ王城へ届くと、ジュエル王国の王はすぐさま国民へ、そして世界へと公表した。
長きにわたって人々を苦しめてきた魔王の討伐。その偉業を知った多くの民が歓喜に沸き、世界中が瞬く間に祝福に包まれた。
勇者が魔王討伐の旅に費やした歳月は、十年。
決して短い年月ではない。けれど、魔王が人々を百年以上にわたって恐怖に陥れ、その眷属たる魔物が撒き散らす瘴気によって、数え切れないほどの土地が死に絶えてきた。これまでにも魔王を討つべく多くの戦士たちが立ち上がり、その命を散らしている。
そんな絶望の時代に終止符を打った今回の魔王討伐は、まさしく奇跡と呼ぶにふさわしい偉業だろう。
王都へ帰還すると街の入り口から城へ辿り着くまで、勇者一行を乗せた馬車の後を追うように多くの国民が沿道に集まった。
あちこちから花が撒かれ、歓声が上がり、祝福の声が飛び交う。人々は列を成して勇者らを迎え、その偉業を称えたのであった。
……さて、魔王を討伐し、世界が平和になったあと、勇者はその後どうなるか。
俺はその答えを知っている。
――正解は、旅の仲間に拉致されます。
「なんで!?」
「耳元で叫ばないで下さい。二度とその声を上げられないようにしますよ」
「理不尽すぎる抹消宣言?!?!」
手厚い出迎えを受けながら国王の待つ玉座の間へ通された俺たちは、赤い絨毯に膝をつき、魔王を討ち果たしたこと、そしてこの世界に再び平和が訪れたことを、改めて王へ報告した。
黄金の玉座に腰掛けた、長い髭を蓄えるふくよかで穏やかな風貌の王からは、長きにわたる旅への労いの言葉とともに、一生かかっても使い切れないほどの褒賞金をたんまりと賜った。
さらに、勇者である俺は、この国の姫と結婚することまで王様から許された。それはつまり、次期国王の座を約束されたも同然である。
ただの平民だった俺が、大金だけでなく、国まで手に入れることになった。
他の旅の仲間にも領地や爵位を与えると約束された――……ばかりだった。
ばかり、というのは本当にわずかな時間である。
王様なんて、仲間たちの「ありがとうございます」に対し、ワハハと笑い「よいよい」と手を上げたポーズのまま固まっていたくらいだ。
王命と褒賞金の額を聞き終えるや否や、仲間の一人である魔術師ランドルフは、俺をひょいと抱き上げた。その瞬間、仲間の僧侶が「お姫様抱っこ……」と呟く声が、かろうじて耳に届いた気がする。
そして、あろうことかその魔術師ランドルフは、そのままくるりと王様たちに背を向けた。
漆黒の長いローブの裾をひらひらとはためかせながら、まるで逃げることが最初から決まっていたかのように、玉座の間を駆け出したのだった。
「――、――」
(オイオイ、いまのって)
ランドルフが唱えたのは、彼の一族のみが使える術式が難解である高度な呪文。
彼の一族は古来より呪いや魔術を研究してきた。そのなかでも、一族の血に呼応して発動する転移魔法は、特に強力な術の一つである。魔力消費は激しいが、術者が一度でも行った場所であれば、どこへでも移動できる優れた術である。
旅の途中まだ幼かった彼が拗ねたりすると、よく転移魔法を使って逃げ回っていたものだ。
そんなわけで、こいつのこの魔法に、十年間頭を悩ませていたのだから、音の響きだけですぐにわかった。
こいつ、転移魔法を使いやがった。
「レイア、ランドルフ!? 待て――」
仲間の武闘家の制止する声が聞こえたが、それも遮断されたかのように、ぷつりと途切れた。
そして、つぎに聞こえてきたのは小鳥の囀り。そして木々が風に揺れて、葉が擦れ合うざわめきあっている。
「……」
俺達の目の前から大きく立派な王城は消え失せ、代わりに小さな丸太小屋があった。
管理されている様子はなく、扉は壊れ、蜘蛛があちこちに巣を作っている。
しかし、この小屋には見覚えがある。昔、四人で旅をしていた途中、数日間利用したことのある、家主のいない無人小屋だ。
記憶しているものよりも老朽化の進んだ小屋を見て、少し懐かしい気持ちになっていると、これまで無言を貫いていた男が声を漏らした。
「さて」
「さ、さて……?」
「ここからどうしたものか」
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