25 / 60
設立編
—第13章:天使化
しおりを挟む
案内に従い、街を駆け抜けていく。
住民たちが逃げてくる方向に向かって走ればいいだけなので、場所の特定は容易だった。案内してくれた住民に避難するよう伝えると、リオを担ぎ、さらにスピードを上げて進んでいく。
走りながら周囲を見渡すと、どこか見覚えのある風景が目に入った。この道はテクノバーグ家へと続く道だ。嫌な予感がしてきた矢先、とうとう悪魔たちと出くわす。
テクノバーグ家が襲われているわけではなかったが、かなり近い場所にある噴水の広場で、悪魔たちと対峙している者たちが見えた。
「レオン!」
「ヴェルヴェットか!」
そこにはテクノバーグ家の親衛騎士長レオンと、彼の部下たち、そして傭兵たちがいた。本来、彼らはテクノバーグ家を守護する親衛騎士たちだが、騎士というのは主君のみならず民を守ることもその務めだ。テクノバーグもまた民から信頼の厚い大貴族であり、レオンたちには街の住民を守るよう命令が下されていた。
少し前、レオンは街の住民が襲われているとの知らせを受けた。ヴェルヴェット(マリア)に諭され、騎士としての義務を果たそうとするが、どうしてもアナスタシアのことが脳裏をよぎり、一歩踏み出せずにいた。そんな彼の前にアナスタシアが現れ、強い口調で命令した。
「レオン!街の住民を守るのです。それが騎士としての務め!本懐です!」
その言葉を聞いたレオンは意を決し、アナスタシアに跪いて必ず成し遂げると誓い、悪魔がいる噴水広場へと向かった。
出発前には、アナスタシアたちをなるべく窓のない安全な部屋に避難させ、厳重に警護することも確認する。悪魔の位置はすぐそこだ。防御さえ固めていれば簡単には突破されないはずだと自分に言い聞かせ、馬に乗って広場に急行したのだ。
「一匹残らず殲滅するぞ!」
レオンがそう叫び、目の前の悪魔に切りかかっていく。いったん刃を交えたことがあるため、レオンの実力はわかっている。これなら周りも安心だ。
しかし、
「敵が多い…住人もまだ取り残されている」
近くの悪魔を次々と斬り伏せるが、この数では時間の問題で取り残された住民たちにも被害が出るだろう。広場の中央には女子供を含む住民が多数取り残されており、騎士たちが囲むように守っているが、それでも守り切るには多すぎる。
「おい、マリア!一気に殲滅する魔法はないのか?」
—あります、ただし…私の攻撃魔法は悪魔たちには無類の威力を発揮しますが、人間にも影響を与える可能性があります。
—カルマ値が低い人間には痺れや痛みが発生し、場合によっては死に至ることもあります。
森の入り口で騎士たちが死んだのはこの影響か。アナスタシアたちを殺そうとした悪意が彼らのカルマを下げ、即死したのだろう。傭兵ギルドで魔法を使おうとしたときはその場で殺意を持っている人がいるとは思えない、こらしめだけで済ませようとしただけだろうか?だが、今はそんなことを考えている暇はない。
「じゃあどうする?剣で一匹ずつ倒していくか?」
—住民たちの集団に入ってください。結界を張ります。
なるほど、結界なら攻撃ではないため、ダメージの心配はなさそうだ。騎士たちは必死に住民たちを守っているが、それも限界に近い。リオを担いで住民の元へと突撃する。
「おおおおお!」
—唱えてください、ホーリーシールドと
「ホーリーシールド!」
ヴェルヴェットは片手を天に掲げる。光のバリアが瞬く間に広がり、周囲の仲間たちを包み込む。その中にいた悪魔たちは一瞬で灰となり、さらに侵入してくる悪魔もまたバリアに触れるや否や灰と化す。
「すごい、これが結界の力か…」
結界の力を見て感嘆すると、囲んでいた悪魔のほとんどが瞬く間に消え去った。結界の内外にいる騎士や住民たち、傭兵たちもその光景をただ見つめている。
「天使…」
レオンが呟く。彼は以前、ヴェルヴェットに慰められたときの光景が思い出された。訓練中も度々ヴェルヴェットの姿が脳裏に浮かんでいたが、まるで女神のように思っていたあの女性の正体は…そう、女神ではなく天使だったのだ。
バリアに向かってきた悪魔たちも全て灰となって消え、あたりには静寂が戻る。ヴェルヴェットから生えた羽根がふよふよと風に揺れているだけだ。
「ヴェルヴェット…!」
振り返ると、リオが震える声で尋ねる。
「その羽根は一体…?」
「えっ?」
ヴェルヴェットは近くの池の反射に映る自分の姿を見つめる。そこには、背中から大きな羽根が生えた自分が映っていた。
「なんだこれ?え、一体なんなのこれ!」
焦る。あたしはただの人間のはずなのに、なぜ天使のような羽根が生えているのか全く理解できない。いつから生えているのか?傭兵ギルドにいたときは生えていなかったはずだ。だとしたら、ここに来てからか?一番可能性があるとすれば、結界を張った瞬間かもしれない。
考え込む間に結界が自然に消え、天使の羽も消えたようで、周囲からの反応が薄れたことからもそのことが察せられた。
これは一体どういうことかとマリアに聞こうとしたとき、目の端に屋根の上にいる悪魔が映る。
「くそ、まだいるぞ!」
ヴェルヴェットは叫ぶと、自らも屋根に登り、生き残った悪魔を追いかけていった。
住民たちが逃げてくる方向に向かって走ればいいだけなので、場所の特定は容易だった。案内してくれた住民に避難するよう伝えると、リオを担ぎ、さらにスピードを上げて進んでいく。
走りながら周囲を見渡すと、どこか見覚えのある風景が目に入った。この道はテクノバーグ家へと続く道だ。嫌な予感がしてきた矢先、とうとう悪魔たちと出くわす。
テクノバーグ家が襲われているわけではなかったが、かなり近い場所にある噴水の広場で、悪魔たちと対峙している者たちが見えた。
「レオン!」
「ヴェルヴェットか!」
そこにはテクノバーグ家の親衛騎士長レオンと、彼の部下たち、そして傭兵たちがいた。本来、彼らはテクノバーグ家を守護する親衛騎士たちだが、騎士というのは主君のみならず民を守ることもその務めだ。テクノバーグもまた民から信頼の厚い大貴族であり、レオンたちには街の住民を守るよう命令が下されていた。
少し前、レオンは街の住民が襲われているとの知らせを受けた。ヴェルヴェット(マリア)に諭され、騎士としての義務を果たそうとするが、どうしてもアナスタシアのことが脳裏をよぎり、一歩踏み出せずにいた。そんな彼の前にアナスタシアが現れ、強い口調で命令した。
「レオン!街の住民を守るのです。それが騎士としての務め!本懐です!」
その言葉を聞いたレオンは意を決し、アナスタシアに跪いて必ず成し遂げると誓い、悪魔がいる噴水広場へと向かった。
出発前には、アナスタシアたちをなるべく窓のない安全な部屋に避難させ、厳重に警護することも確認する。悪魔の位置はすぐそこだ。防御さえ固めていれば簡単には突破されないはずだと自分に言い聞かせ、馬に乗って広場に急行したのだ。
「一匹残らず殲滅するぞ!」
レオンがそう叫び、目の前の悪魔に切りかかっていく。いったん刃を交えたことがあるため、レオンの実力はわかっている。これなら周りも安心だ。
しかし、
「敵が多い…住人もまだ取り残されている」
近くの悪魔を次々と斬り伏せるが、この数では時間の問題で取り残された住民たちにも被害が出るだろう。広場の中央には女子供を含む住民が多数取り残されており、騎士たちが囲むように守っているが、それでも守り切るには多すぎる。
「おい、マリア!一気に殲滅する魔法はないのか?」
—あります、ただし…私の攻撃魔法は悪魔たちには無類の威力を発揮しますが、人間にも影響を与える可能性があります。
—カルマ値が低い人間には痺れや痛みが発生し、場合によっては死に至ることもあります。
森の入り口で騎士たちが死んだのはこの影響か。アナスタシアたちを殺そうとした悪意が彼らのカルマを下げ、即死したのだろう。傭兵ギルドで魔法を使おうとしたときはその場で殺意を持っている人がいるとは思えない、こらしめだけで済ませようとしただけだろうか?だが、今はそんなことを考えている暇はない。
「じゃあどうする?剣で一匹ずつ倒していくか?」
—住民たちの集団に入ってください。結界を張ります。
なるほど、結界なら攻撃ではないため、ダメージの心配はなさそうだ。騎士たちは必死に住民たちを守っているが、それも限界に近い。リオを担いで住民の元へと突撃する。
「おおおおお!」
—唱えてください、ホーリーシールドと
「ホーリーシールド!」
ヴェルヴェットは片手を天に掲げる。光のバリアが瞬く間に広がり、周囲の仲間たちを包み込む。その中にいた悪魔たちは一瞬で灰となり、さらに侵入してくる悪魔もまたバリアに触れるや否や灰と化す。
「すごい、これが結界の力か…」
結界の力を見て感嘆すると、囲んでいた悪魔のほとんどが瞬く間に消え去った。結界の内外にいる騎士や住民たち、傭兵たちもその光景をただ見つめている。
「天使…」
レオンが呟く。彼は以前、ヴェルヴェットに慰められたときの光景が思い出された。訓練中も度々ヴェルヴェットの姿が脳裏に浮かんでいたが、まるで女神のように思っていたあの女性の正体は…そう、女神ではなく天使だったのだ。
バリアに向かってきた悪魔たちも全て灰となって消え、あたりには静寂が戻る。ヴェルヴェットから生えた羽根がふよふよと風に揺れているだけだ。
「ヴェルヴェット…!」
振り返ると、リオが震える声で尋ねる。
「その羽根は一体…?」
「えっ?」
ヴェルヴェットは近くの池の反射に映る自分の姿を見つめる。そこには、背中から大きな羽根が生えた自分が映っていた。
「なんだこれ?え、一体なんなのこれ!」
焦る。あたしはただの人間のはずなのに、なぜ天使のような羽根が生えているのか全く理解できない。いつから生えているのか?傭兵ギルドにいたときは生えていなかったはずだ。だとしたら、ここに来てからか?一番可能性があるとすれば、結界を張った瞬間かもしれない。
考え込む間に結界が自然に消え、天使の羽も消えたようで、周囲からの反応が薄れたことからもそのことが察せられた。
これは一体どういうことかとマリアに聞こうとしたとき、目の端に屋根の上にいる悪魔が映る。
「くそ、まだいるぞ!」
ヴェルヴェットは叫ぶと、自らも屋根に登り、生き残った悪魔を追いかけていった。
0
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
「人の心がない」と追放された公爵令嬢は、感情を情報として分析する元魔王でした。辺境で静かに暮らしたいだけなのに、氷の聖女と崇められています
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は人の心を持たない失敗作の聖女だ」――公爵令嬢リディアは、人の感情を《情報データ》としてしか認識できない特異な体質ゆえに、偽りの聖女の讒言によって北の果てへと追放された。
しかし、彼女の正体は、かつて世界を支配した《感情を喰らう魔族の女王》。
永い眠りの果てに転生した彼女にとって、人間の複雑な感情は最高の研究サンプルでしかない。
追放先の貧しい辺境で、リディアは静かな観察の日々を始める。
「領地の問題点は、各パラメータの最適化不足に起因するエラーです」
その類稀なる分析能力で、原因不明の奇病から経済問題まで次々と最適解を導き出すリディアは、いつしか領民から「氷の聖女様」と畏敬の念を込めて呼ばれるようになっていた。
実直な辺境伯カイウス、そして彼女の正体を見抜く神狼フェンリルとの出会いは、感情を知らない彼女の内に、解析不能な温かい《ノイズ》を生み出していく。
一方、リディアを追放した王都は「虚無の呪い」に沈み、崩壊の危機に瀕していた。
これは、感情なき元魔王女が、人間社会をクールに観測し、やがて自らの存在意義を見出していく、静かで少しだけ温かい異世界ファンタジー。
彼女が最後に選択する《最適解》とは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる