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設立編
—第14章:絶望
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ヴェルヴェットは家の屋根を伝って全力で追いかける。
悪魔は逃げ足が速く、羽根を使ってすばしっこい。
「チッ」
舌打ちしながら追いかけるが、剣も届かないし、こううろちょろ動かれると魔法を使うことも難しい。まったく面倒な相手だ。
やがて悪魔は街を抜けて森に逃げ込んだ。
森は傭兵が戦うには得意な場所だ。慣れていない者が森に入ると方向感覚を失ったり、木が邪魔で速く走ることができない。
悪魔が右往左往しながら必死に逃げているところを、藪の中から一気に奇襲して思い切り横蹴りを叩き込む。悪魔は大きな石に背中を叩きつけられ、痛みでうめき声を上げたところを、剣の切っ先を悪魔の喉元に置いた。
「手間かけさせてくれたわね、死ね」
そう言って剣を振りかぶる。
「ま、待ってください!話を聞いてください!」
ピタリと剣の動きが止まる。
「驚いた、お前、人の言葉がしゃべれるのか」
素直に驚いたが、すぐにでも殺せるようにその悪魔の姿を凝視して剣に力を込め続けた。
その悪魔の漆黒の翼は蝙蝠のように鋭く、長くしなやかな腕と鋭い爪は、戦いの刃と使うのだろう。その証拠に武器になる道具はもっていないようだ。
「お、俺様は下級悪魔を束ねる中級の悪魔だ。悪魔っていってもいろんな種類がいるからな。人間の言葉をしゃべれないと取引もできないし、悪魔を管理する能力がないと中級悪魔にはなれない」
「取引?どうせ詐欺まがいの取引のことでしょ?悪魔の言葉なんて信じられるか」
「お前、傭兵なんだろ?無限に金が手に入るとしたらどうだ!」
その言葉に体がピクリと反応する。
「続けろ」
「悪魔には連帯感や仲間意識なんてものはない。”あくま”でも上から命令されるだけなんだ。”悪魔”だけに、な」
悪魔はケケケと冗談まじりに笑う。次の瞬間、悪魔の足を剣で貫いた。悪魔の絶叫が森中に響き渡る。
「次にくだらないことを言ったら殺す」
—そもそも悪魔は殺しましょう、今ここで
暗い声でマリアが言う。安心させるように、「話だけ聞いて、信じられなかったら殺す」と心の中でマリアに応える。
悪魔は足を抑えながら答えた。
「わ、悪かった!金が入るっていうのはだな……さっき言ったように俺は中級悪魔で下級悪魔たちを管理してる。だから、攻め込む場所やタイミング、人数もすべて俺が決められるんだ」
「それで?」
冷たく返し、悪魔は慎重に言葉を選んで答える。
「お、お前にその情報を全部流す。そうすりゃ、お前の魔法で不意打ちを食らわせるなり何なりして悪魔を一網打尽にできるだろ?それを小出しにすれば、お前は毎回報酬がもらえるってわけだ」
「ほ~お」
にやりと笑う。だが、まだ問題がある。
「嘘じゃなく、この先も裏切らない根拠は?」
鋭い質問に、悪魔はこの女がずる賢いことを確信する。だが、担保できるものもなく、やむを得ず言った。
「俺と主従契約を結べ。それで俺は絶対に裏切れない。裏切ったら死んでしまう」
—いいぃやぁぁぁぁぁ!!
頭の中でマリアが絶叫する。あまりにもうるさく、ドアがあれば全力で閉めたいくらいだ。
契約はできるのか、とヴェルヴェットは心の中で問う。
—できますけど……でも汚らわしい悪魔なんて、この場でさっさと殺すべきです!
どうやら契約は可能らしい。そうでなければ、マリアは「そんな契約はない」と断言するだろう。
「他にメリットやデメリットはあるか?」
—はぁ?ヴェルヴェット、あなたって人は……まともな人だと思っていたのに!融合なんてしなければよかった!
悪魔は続ける。
「俺はお前に嘘をつけない。お互いのだいたいの位置がわかるようになるし、悪魔の力が使えるかもしれない、それとお前が死ねば俺も死ぬ」
「あたしが死んだらお前も死ぬのか……いいのか、それで」
「いいも悪いもねえだろ。そうしないと、今お前に殺されるだろうが!」
たしかにそうだ。にやりとし、剣を下ろした。
「わかった、その取引に乗った」
「俺の名はアモンだ。名は?」
「ヴェルヴェットだ」
—殺す!代わって!体を代わって、一瞬で細切れにしてやる!
心の中で呪詛を唱え続けるマリアを無視して、アモンと話を進める。
「それではヴェルヴェット、手袋を取って手の甲を出してくれ」
入れた通りに手袋を取り手の甲を差し出すと、アモンが膝をつき、手の甲に唇を近づける。
「私の命は貴方のもの。この瞬間が、私の全てを捧げる証です」
その瞬間、赤い魔法陣がヴェルヴェットの手に、青い魔法陣がアモンの手に現れ、やがて光とともに消えた。
手を見ると、暗紫色の模様が螺旋を描きながら甲を覆っている。それは生き物のように動いているように見えたが、軽く手を振っても特に変わりはない。
「まあ、いいか」
再び手袋をつけたその時、アモンが突然絶叫する。
「う、うわぁぁあああ!」
「なによ、今度は」
「お前の中に……異常に光輝く気持ち悪い女がいるだろ!」
—気持ち悪い?気持ち悪いだって?言うに事欠いて私を?次に表に出てきた時には必ず断罪してやる!!
マリアがどんどん口が悪くなっている気がするが、しかしだんだんどうでもよくなってきた。
「あーこいつはね、聖女だ。あたしの中にいる」
アモンの顔が青ざめる。
「ヴェルヴェット!聖女って……天使や神のような存在なんだぞ!契約しようとした瞬間、普通なら死んでるはずだ!」
「そんなことはどうでもいい。アモン、さっき言ってた悪魔の力を使う方法を教えて」
「やめとけ。聖女と共存してる状態で悪魔の力なんて使ったら、体が拒絶反応を起こしてお前が死ぬぞ」
「……は?」
マリアは悪魔との契約に絶望し、アモンは聖女に対する畏怖に青ざめ、ヴェルヴェットは死のリスクを知って呆然とした。
悪魔は逃げ足が速く、羽根を使ってすばしっこい。
「チッ」
舌打ちしながら追いかけるが、剣も届かないし、こううろちょろ動かれると魔法を使うことも難しい。まったく面倒な相手だ。
やがて悪魔は街を抜けて森に逃げ込んだ。
森は傭兵が戦うには得意な場所だ。慣れていない者が森に入ると方向感覚を失ったり、木が邪魔で速く走ることができない。
悪魔が右往左往しながら必死に逃げているところを、藪の中から一気に奇襲して思い切り横蹴りを叩き込む。悪魔は大きな石に背中を叩きつけられ、痛みでうめき声を上げたところを、剣の切っ先を悪魔の喉元に置いた。
「手間かけさせてくれたわね、死ね」
そう言って剣を振りかぶる。
「ま、待ってください!話を聞いてください!」
ピタリと剣の動きが止まる。
「驚いた、お前、人の言葉がしゃべれるのか」
素直に驚いたが、すぐにでも殺せるようにその悪魔の姿を凝視して剣に力を込め続けた。
その悪魔の漆黒の翼は蝙蝠のように鋭く、長くしなやかな腕と鋭い爪は、戦いの刃と使うのだろう。その証拠に武器になる道具はもっていないようだ。
「お、俺様は下級悪魔を束ねる中級の悪魔だ。悪魔っていってもいろんな種類がいるからな。人間の言葉をしゃべれないと取引もできないし、悪魔を管理する能力がないと中級悪魔にはなれない」
「取引?どうせ詐欺まがいの取引のことでしょ?悪魔の言葉なんて信じられるか」
「お前、傭兵なんだろ?無限に金が手に入るとしたらどうだ!」
その言葉に体がピクリと反応する。
「続けろ」
「悪魔には連帯感や仲間意識なんてものはない。”あくま”でも上から命令されるだけなんだ。”悪魔”だけに、な」
悪魔はケケケと冗談まじりに笑う。次の瞬間、悪魔の足を剣で貫いた。悪魔の絶叫が森中に響き渡る。
「次にくだらないことを言ったら殺す」
—そもそも悪魔は殺しましょう、今ここで
暗い声でマリアが言う。安心させるように、「話だけ聞いて、信じられなかったら殺す」と心の中でマリアに応える。
悪魔は足を抑えながら答えた。
「わ、悪かった!金が入るっていうのはだな……さっき言ったように俺は中級悪魔で下級悪魔たちを管理してる。だから、攻め込む場所やタイミング、人数もすべて俺が決められるんだ」
「それで?」
冷たく返し、悪魔は慎重に言葉を選んで答える。
「お、お前にその情報を全部流す。そうすりゃ、お前の魔法で不意打ちを食らわせるなり何なりして悪魔を一網打尽にできるだろ?それを小出しにすれば、お前は毎回報酬がもらえるってわけだ」
「ほ~お」
にやりと笑う。だが、まだ問題がある。
「嘘じゃなく、この先も裏切らない根拠は?」
鋭い質問に、悪魔はこの女がずる賢いことを確信する。だが、担保できるものもなく、やむを得ず言った。
「俺と主従契約を結べ。それで俺は絶対に裏切れない。裏切ったら死んでしまう」
—いいぃやぁぁぁぁぁ!!
頭の中でマリアが絶叫する。あまりにもうるさく、ドアがあれば全力で閉めたいくらいだ。
契約はできるのか、とヴェルヴェットは心の中で問う。
—できますけど……でも汚らわしい悪魔なんて、この場でさっさと殺すべきです!
どうやら契約は可能らしい。そうでなければ、マリアは「そんな契約はない」と断言するだろう。
「他にメリットやデメリットはあるか?」
—はぁ?ヴェルヴェット、あなたって人は……まともな人だと思っていたのに!融合なんてしなければよかった!
悪魔は続ける。
「俺はお前に嘘をつけない。お互いのだいたいの位置がわかるようになるし、悪魔の力が使えるかもしれない、それとお前が死ねば俺も死ぬ」
「あたしが死んだらお前も死ぬのか……いいのか、それで」
「いいも悪いもねえだろ。そうしないと、今お前に殺されるだろうが!」
たしかにそうだ。にやりとし、剣を下ろした。
「わかった、その取引に乗った」
「俺の名はアモンだ。名は?」
「ヴェルヴェットだ」
—殺す!代わって!体を代わって、一瞬で細切れにしてやる!
心の中で呪詛を唱え続けるマリアを無視して、アモンと話を進める。
「それではヴェルヴェット、手袋を取って手の甲を出してくれ」
入れた通りに手袋を取り手の甲を差し出すと、アモンが膝をつき、手の甲に唇を近づける。
「私の命は貴方のもの。この瞬間が、私の全てを捧げる証です」
その瞬間、赤い魔法陣がヴェルヴェットの手に、青い魔法陣がアモンの手に現れ、やがて光とともに消えた。
手を見ると、暗紫色の模様が螺旋を描きながら甲を覆っている。それは生き物のように動いているように見えたが、軽く手を振っても特に変わりはない。
「まあ、いいか」
再び手袋をつけたその時、アモンが突然絶叫する。
「う、うわぁぁあああ!」
「なによ、今度は」
「お前の中に……異常に光輝く気持ち悪い女がいるだろ!」
—気持ち悪い?気持ち悪いだって?言うに事欠いて私を?次に表に出てきた時には必ず断罪してやる!!
マリアがどんどん口が悪くなっている気がするが、しかしだんだんどうでもよくなってきた。
「あーこいつはね、聖女だ。あたしの中にいる」
アモンの顔が青ざめる。
「ヴェルヴェット!聖女って……天使や神のような存在なんだぞ!契約しようとした瞬間、普通なら死んでるはずだ!」
「そんなことはどうでもいい。アモン、さっき言ってた悪魔の力を使う方法を教えて」
「やめとけ。聖女と共存してる状態で悪魔の力なんて使ったら、体が拒絶反応を起こしてお前が死ぬぞ」
「……は?」
マリアは悪魔との契約に絶望し、アモンは聖女に対する畏怖に青ざめ、ヴェルヴェットは死のリスクを知って呆然とした。
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