聖女は傭兵と融合して最強唯一の魔法剣士になって好き勝手に生きる

ブレイブ31

文字の大きさ
36 / 60
設立編

—第24章:ギアの天使

しおりを挟む
外はすっかり日が落ちていた。

周りの家では、きっと家族が和気藹々と夕食を囲んだり、風呂に入ったりしている時間だろう。ここリオの家でも、今日はその例に漏れず、皆で食事を楽しんでいる。

食卓にはハーブの香りが漂うチキンの照り焼き、新鮮なサラダにかけられた自家製ドレッシング、そしてコーンスープが並んでいた。リオは美味しそうにパクパクと食べ、笑顔でがっつく様子に、自然とこちらも微笑んでしまう。

「なぁ、酒はないのか?」

アモンは器用にナイフとフォークを使いながら、ちらりと尋ねる。

「ここはそういう場所じゃないんだ。少し我慢しなさい」

吐き捨てるように言い、チキンにフォークを刺して口に運び、咀嚼する。うん、我ながらなかなかの味付けだ。リオがこんなに喜んで食べてくれているのを見ると、作った甲斐があったとしみじみ思う。

部屋の掃除をしてからご飯を作ったので、今日はかなり忙しかった。幸いアモンがいたので、トイレと風呂掃除を押し付けることができたが、最初は嫌がっていた。しかし、「なら今日のご飯はなしだ」と言うと、渋々掃除を始めてくれた。

食事が終わり、アモンに皿洗いを任せて一息つくと、ふと思い出すことがあった。

「ああ、そういえば、あたしが頼んでいた機械、どうなった?」

「とうとう完成したよ!これがそう!」

そう言ってリオは部屋の隅からある品を持ってきた。

「アルケイン・リボルバーって名前にしたんだ。魔法を結晶に込めて弾丸として打ち出せる。ただ、ヴェルヴェットが使う魔法の威力には及ばない。容量オーバーで、かなり威力が落ちると思う」

その銃は異世界から現れたような神秘的なオーラをまとっていた。この国では長身のマスケット銃が主流で、装填に時間がかかる単発式のものが常識だ。しかし、この短身リボルバー式の銃は、異質な存在感を放っている。

弾丸を装填するシリンダーには、通常の弾頭ではなく、光り輝く魔力の結晶が4つ収められている。銃身には複雑な模様が走り、古代の言語で刻まれた魔法のルーンが淡く輝いていた。まるで呪文を唱えるように、静かに脈動する光が銃全体を包み込んでいる。

握りの部分は、黒く染められた魔力を宿す木材で作られており、握る者の意志に反応するように温かみを感じさせる。

シリンダーから結晶を1つ取り出し魔法を込めてみる。結晶がさらに輝きを増し、まるで力を解放する準備が整ったかのように存在感を主張していた。

「上出来だ、さすがリオね!」

頭を撫でると、リオは顔を真っ赤にして嬉しそうに笑った。

威力が下がるのはむしろ好都合だ。マリアが使っている魔法は威力が高すぎて使い勝手が悪いし、もし誤って人に当たれば、カルマ値によっては重傷を負うこともある。この銃があれば、威力も範囲も小さくなるだろう。願ったり叶ったりだ。リオから渡されたホルスターを腰に巻き、銃を収める。

「へへ、魔法剣士ってところかしら?」

いままでにない職業の響きに高揚感を覚え、傭兵ギルドの職業欄も変えてしまおうか、などと考える。

「いや、ヴェルヴェットはもっと特別だよ!もっといい名前にしよう!」

これは、少年が調子に乗って痛々しい名前をつけ、後で後悔するというアレか? そんなことを思っていると、横からアモンが口を挟む。

「おーそうだな、もっといい名前にしようぜ。そうすりゃ俺様たちのパーティにも箔がつくってもんだ。そうだな…“殺戮天使ヴェルヴェット”なんてどうだ?」

こいつ、やっぱり今までのことを根に持っているな、と改めて感じる。

「却下よ」

即答で却下する。するとリオは真剣な顔で考え込み始めた。ああ、そんな純粋な顔で考えないでほしい。断りにくくなる。

「ギアの天使はどうかな?」

「どういう意味?」

「ギアは歯車のこと。メカストリアの機械文明には欠かせない存在で、その銃にもその仕組みが使われているんだ。そしてそれを操り、国を守護する天使って意味だよ」

なるほど、理解はできる。しかし最初に思い浮かんだギアは通貨の方だった。偶然にも皮肉が込められている気がして、少し笑ってしまう。

「まぁいいんじゃない」

肯定とも取れる返事をすると、マリアも「天使」を名乗るのは気恥ずかしそうにしつつ、まんざらでもなさそうだった。満場一致で決まったかと思った、その時。

「いや、ちょっと待て」

もしこれを採用するとしたら、傭兵ギルドで「ギアの天使」と記載するのか?職業を尋ねられた時に「天使です」と答えるのか?それはさすがに…恥ずかしすぎる。これでは、周りからちょっとアレな人と思われるだろう。いや、間違いなくそう思われる。

「ちょっと…1日だけ待ってほしい」

とりあえず1日待ってもらい、あとで適当な理由をつけてこの話はなかったことにしよう。今日はお開きにして、自宅に帰ることにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

「人の心がない」と追放された公爵令嬢は、感情を情報として分析する元魔王でした。辺境で静かに暮らしたいだけなのに、氷の聖女と崇められています

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は人の心を持たない失敗作の聖女だ」――公爵令嬢リディアは、人の感情を《情報データ》としてしか認識できない特異な体質ゆえに、偽りの聖女の讒言によって北の果てへと追放された。 しかし、彼女の正体は、かつて世界を支配した《感情を喰らう魔族の女王》。 永い眠りの果てに転生した彼女にとって、人間の複雑な感情は最高の研究サンプルでしかない。 追放先の貧しい辺境で、リディアは静かな観察の日々を始める。 「領地の問題点は、各パラメータの最適化不足に起因するエラーです」 その類稀なる分析能力で、原因不明の奇病から経済問題まで次々と最適解を導き出すリディアは、いつしか領民から「氷の聖女様」と畏敬の念を込めて呼ばれるようになっていた。 実直な辺境伯カイウス、そして彼女の正体を見抜く神狼フェンリルとの出会いは、感情を知らない彼女の内に、解析不能な温かい《ノイズ》を生み出していく。 一方、リディアを追放した王都は「虚無の呪い」に沈み、崩壊の危機に瀕していた。 これは、感情なき元魔王女が、人間社会をクールに観測し、やがて自らの存在意義を見出していく、静かで少しだけ温かい異世界ファンタジー。 彼女が最後に選択する《最適解》とは――。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

処理中です...