聖女は傭兵と融合して最強唯一の魔法剣士になって好き勝手に生きる

ブレイブ31

文字の大きさ
46 / 60
設立編

—第33章:ヴェルヴェットの限界

しおりを挟む
「もうだめだ、限界…」

ヴェルヴェットは自分の部屋に入るなり、ベッドに腰掛け、塞ぎ込むように頭を覆う。

マリアの暴走から数日が経った。それ以降、マリアとレオンの距離がものすごく縮まってきている。マリアがちょくちょく交代してくれないかと言ってくるので、なぜ?と質問すると、ごにょごにょとよくわからない言葉を並べる。

しかし、一応聞いただけで理由は完全に理解している。レオンに直接会いたいのだ。

まぁ、あんなシチュエーションであんなことを言われたら…そうなるのは確かにわかる。わかるが、この体はあたしの体でもあるということが非常に問題だ。

レオンはというと、もともとチラチラこちらを見られていたのが最近はより悪化してきている気がする。そして会うたびに過去の件でマリアにまだ感謝が足りないので伝えたいだとか、あれからのマリアがまた落ち込んでいるかもしれないので心配だとか、いろいろ理由を言ってくる。

風呂の時間には交代しているけど、「レオンの部屋に行くなよ」と注意をしている。

今のところ守ってはくれているが、時間の問題な気がしている…

だからといって風呂の時間の交代はもうしないなんて言ったら、この間のような事がまた起こるんじゃないかと想像しただけで冷や汗が出てくる。

そもそもレオンもそんなこと到底許さないだろう、つまり、詰んでいるのだ。

「はーーー…」

さらに頭を抱える。

—あの、ヴェルヴェット。

「ん?」

—今後についてちょっとみなさんで作戦会議しませんか?

いやもう、露骨な提案だ。どうせレオンに会いたいからだろうと邪推してしまう。

この状況を一刻も早くなんとかしなければ、あたしの精神が持たない。頭をかきむしる。すっかりマリアに返事をするのを忘れている。

—いえ、そういう事ではなくてですね…そろそろ真剣に私たちが元に戻る方法を考えませんか?

「ああ、そういう事」

結局レオンに会いたいという内容を遠回しにいっているだけな気がしなくもないが、マリアが現状の詰んでいる状況の解決策を提示してくる。しかし、前に考えたがかなりハードルが高い。聖王国という国自体に多大な貸しを作るというのが無理難題に思う。

「何か手立てがあるの?」

—前回お話しした通り、聖王国を悪魔に襲わせればいいのでは?

「あんた…この間のことを反省したんじゃないの?」

—なぜですか?別に聖王国は仲間じゃないですし。それにレオンさんは私の全てを肯定してくれると言ってくださいました。であるならば、もうやることは一つじゃないですか。

「あっそう…」

頭を下げて項垂れる。

神や正義といった依存先がレオンになっただけな気がする。なんかもうこの件はこれでもういいやという諦めの境地に達していた。

まぁ、確かに他の国の人々は助かるわけだし、傭兵をやっていれば生きるも死ぬも運みたいなところもある。完全に悪と断ずるものでもないし、そもそもあたしにはそんな事を言う権利もない。いや、そもそもあたしは傭兵だ。マリアを諭す人格者でもなんでもない。それにあたしだって今まで好きに生きてきた。これからだって好きに生きてやる。

「とりあえず、アモンになんかいい手があるか聞いてみるか」

ベッドから立ち上がるとアモンの元へ向かう。

「いや、ねーけど」

希望の光は即座に断たれた。アモンに一筋の光明を願って訪ねてきたが、当然のように返される。

「だって俺様は人間の世界でいう中間管理職だぜ?大悪魔は上司ってことになる。部下が上司たちに命令できるわけないだろ。それに説得する理由も何にも思い浮かばねーし、お前らだって何もないんだろ?」

その通りだ。これといって理由は思いつかなかった。そしてアモンは以前にも中間で管理をするポジションだと言っていた。だからこそインチキで金稼ぎができたわけだ。しかし即答で無理だと言われ、近い将来起こるであろうことが現実味を帯びてきて、ぐぬぬとなる。

「そんなこと言わないで、なんかいないの?話を聞いてくれそうな、旨みがあれば話を聞いてくれそうなそういう俗物的な悪魔でもいいからさ」

「うーん、そんなこと言われてもなぁ。基本的に大悪魔たちは人間を殺すことを命令するわけだからな。人間が来た瞬間、即殺すだけだぞ。あ、そういえば…」

何かを思い出したかのような反応をアモンが見せる。

「何か思い出したの?!」

「思い出したっていうか、ちょっと毛色の違う大悪魔はいるにはいる」

「だれ?どこにいるの?」

「そう捲し立てて聞いてくるなって!ベルフェゴールって大悪魔だ。基本的にこいつは何もしない。サボってるからな」

大悪魔というのは強大な力を持ち、手下の悪魔たちに命令を下す立場だと思っていたが、そのような悪魔もいることに驚く。マリアも「そんな悪魔いるんですか…」と明らかに驚いた声をあげている。

「まぁ、こいつはもともと怠惰の悪魔として生まれたらしいからな。だから誰かに咎められるってことはない。いっつもぐーたらしてるはずだ」

「やる気のない悪魔か、交渉ってできるの?」

「いや、できないだろ。怠惰の悪魔って言っただろ?自分で動くなんてするわけがない。だから最初に思い浮かばなかった」

「じゃあダメじゃない!」

また八方塞がりか。さっきから希望を見出しては絶望に突き落とされるのを繰り返して、だんだん疲れてきた。

「だから無理やり服従させればいいんじゃないか?俺みたいに」

「あー、そういうことか!」

そういえばアモンとも主従契約をしていた。普段は一緒に傭兵パーティを組んでご飯も一緒に食べていて、ただの傭兵仲間的な扱いになっていたので、完全に契約のことを忘れていた。

しかし、懸念点が一点だけある。そもそも本当に勝てるのだろうか? 大悪魔ヘルマルクは確かに倒せたが、同じ強さとは限らない。もしベルフェゴールという悪魔のほうが強く、圧倒的な力を持っていた場合、そこでゲームオーバーだ。そう考えていると。

—今の私たちに単体で勝てる大悪魔は恐らくいないと思います。大悪魔ヘルマルクも、魔法の発動の予兆の時点で消滅しました。体内に神聖魔法が流し込まれたというのももちろんありますが。

だとしても、今の私たちが使う神聖魔法は上位を超えた超位神聖魔法になっています。複数ならまだしも、一体の大悪魔に遅れをとるとは思えません。それに、いざとなったらヘルマルクの時と同じように剣技を混ぜて戦えばいいのです。

なるほど、確かに今の私たちの魔法はとてつもない力を秘めているのはなんとなく感じている。そして、マリアが言うのだから間違いないだろう。

というか、私は傭兵だ。正々堂々と正面から攻撃を仕掛ける必要はない。後ろから不意打ちで一気に勝負を決してしまえばいいのだ。

ヘルマルクのように灰になってしまうと困るので、ある程度の調整はしなければならないが、最悪、死んだところで私たちが危険になるわけでもないし、それならそれで仕方ない。

「ふっふっふ」と不敵な笑みを浮かべて、完璧な作戦を頭の中に描く。

「じゃあ戦って倒して主従の契約を結ぶ。そして他の大悪魔たちに聖王国に差し向けるような話をさせてけしかければ」

「うまくいけば聖王国に侵攻するんじゃねーの?」

よし、とガッツポーズをする。ようやくだ、ようやく希望の光が見えてきた。これがうまくいけばあの耐え難い状況を打破できる。絶対にこの作戦は成功させなければならない。そう胸に誓う。

「ああ、そうだ。場所はどこなの?」

「場所か…こう、地名がしっかりとあるわけじゃないからな。もちろん魔王軍の領地だから行くまで何日かかかるぞ」

アモンが場所の説明に悩む。確かに地名があったとしても人間が使う地名とは違うだろうし、地図があっても読み方も違うだろう。

「とりあえずリオのところに行って相談してくる。場所もそうだが、何かいい移動手段を教えてくれるかもしれねーしな」

なかなかナイスな提案をしてくる。こいつやっぱりあたしより頭いいなと感心と感謝を心の中に抱く。

「じゃあ、これ持っていきなさい」

ズシャッと大金が入ったギア袋をアモンに渡す。

「おいおい!いいのかよ、これ?」

「長旅になるんでしょ。あんた、どうせ今までの報酬は全部飲み食いにつかってるんでしょ?これで装備とポーションをしこたま買い込みなさい。あんただけは治癒魔法使えないんだから、しっかりと準備してよね。お酒とかにはあんまり使わないでよね」

どうせ飲食にも使うのはわかりきっていた。だからせめてあまり使うなと注意をする。

「へへ、大丈夫だよ。任せとけって。さすがに自分の命の危険があるのになにも準備しないわけにはいかないしな。ああ、あとその銃の水晶1個貸してくれ。今の話で思い出した事がある」

「別にいいけど?」

いまいち腑に落ちないが、スペアの魔弾の水晶を渡す。

「よしよし、ここではなんだし、あとで返すわ」

そう言うとアモンはリオの家に向かって行った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

「人の心がない」と追放された公爵令嬢は、感情を情報として分析する元魔王でした。辺境で静かに暮らしたいだけなのに、氷の聖女と崇められています

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は人の心を持たない失敗作の聖女だ」――公爵令嬢リディアは、人の感情を《情報データ》としてしか認識できない特異な体質ゆえに、偽りの聖女の讒言によって北の果てへと追放された。 しかし、彼女の正体は、かつて世界を支配した《感情を喰らう魔族の女王》。 永い眠りの果てに転生した彼女にとって、人間の複雑な感情は最高の研究サンプルでしかない。 追放先の貧しい辺境で、リディアは静かな観察の日々を始める。 「領地の問題点は、各パラメータの最適化不足に起因するエラーです」 その類稀なる分析能力で、原因不明の奇病から経済問題まで次々と最適解を導き出すリディアは、いつしか領民から「氷の聖女様」と畏敬の念を込めて呼ばれるようになっていた。 実直な辺境伯カイウス、そして彼女の正体を見抜く神狼フェンリルとの出会いは、感情を知らない彼女の内に、解析不能な温かい《ノイズ》を生み出していく。 一方、リディアを追放した王都は「虚無の呪い」に沈み、崩壊の危機に瀕していた。 これは、感情なき元魔王女が、人間社会をクールに観測し、やがて自らの存在意義を見出していく、静かで少しだけ温かい異世界ファンタジー。 彼女が最後に選択する《最適解》とは――。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

処理中です...