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小次郎という少年
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…本当にタイムスリップしちゃったんだな…。俺は街を歩きながら実感する。歩いている人物は皆時代劇に登場する人物のようだ。
舗装されていない道の両側にはお店が連なっている。といっても全部屋台のようなものだ。
草鞋や食器、塩や油など様々な生活用品が売りに出されている。
…俺が何故1人でこんなところをぷらぷらしているかって?
明け方なんとか眠りに就いたところを老人に叩き起こされ、門前の掃き掃除やらなんやらを手伝わされて、朝ご飯に出されたお粥を胃に流し込んだ頃、ひかるさんが現れた。ひかるさんは夜と同じ着物のままだった。やっと帰れる!と安心したのも束の間。「昼過ぎまで時間を潰してきてくれ」とひかるさんに言われてしまったのだ。
ひかるさんは「せっかくだから市でも見てきては?」と言い残して去っていってしまった。
本当なら1人ででも帰りたいくらいだが、あの洞窟まで辿り着く自信がない。とはいえここに居ては針の筵だ。俺は多少の好奇心も手伝って市というものに行ってみることにした。
老人に市の場所を聞くと意外と素直に教えてくれる。
ウキウキと出かけようとする俺を老人は呼び止めて言った。
「気をつけろよ…くれぐれもな…」
…意味深な…と思いつつも大して気にもとめず頷いた。
『ドンッ』
左右の店に気を取られて正面から来る人に気が付かなかった。
「ご、ごめんなさい!」
俺はぶつかってしまった人に慌てて謝罪する。
「おい!お前のせいで連れが怪我をしたぞ?」
地面に1人男が倒れている。その男の連れだろうか?男2人が俺に凄んでくる。お世辞にも柄が良いとは言えない3人組だった。
…そっちだって前を見ていないからぶつかったんだろ…とガクガク震える足をどうにもできないまま思う。
「おい!聞いてんのか?変なナリしやがって!こっちこい!」
俺は男の襟首を掴まれて路地の中に引きずり込まれる。通りの人たちは気付いていないのか、見て見ぬふりなのか誰もこちらに興味を示さない。
狭い路地で男3人に囲まれる。怪我をしたらしい男もしっかりと大地を踏みしめ俺包囲網の一角を担っている。今気付いたが3人とも長い刀を腰にぶら下げていた。
「おい。こういう時どうしたらいいか親に習わなかったか?」
最初に因縁をつけてきた男が凄む。
…残念ながら日本刀を所持した男3人への対処法は親からも学校からも習っていない。
「仕方ねえ。教えてやるよ。金か命だ。好きな方差し出せ!」
男は刀をスラリと抜いてニヤリと笑う。
…あ。ダメだ本当に死ぬやつだ。
俺の足をガクガクいわせていた何かは今や全身に広がり身体全体を震わせている。
「ひゃっひゃっひゃっ。このお坊ちゃんびびって声も出ねぇぜ?」
3人ともゲラゲラと笑い始める。俺もそれに合わせてへらへらと笑ってみる。
「てめぇは笑ってんじゃねぇ!」
…怒られた。
「さぁ、俺らも暇じゃねぇんだ。出すもん出しな!」
…あぁ…いよいよダメだな。俺は金なんか持ってないし、出せる物は命だけだ。美人に釣られてこんなところまで来たのが運の尽きか。
「仕方ねぇ…じゃあ死ね!」
男が刀を振りかぶる。
「ぎゃぼ…」
男が聞いたこともない変な声を上げる。俺は瞑っていた目を恐る恐る開ける。
…ん?男の首から何か生えてる?何だか赤い液体が…トマトジュース?…いや、え?血!?
『ドサ』
男の身体が俺に倒れ込んで来る。
「こんな狭いところで刀振り回すなんざ下手くそにも程があるぜ!」
初めて聞く男…少年?の声が聞こえたと思ったら、俺を囲んでいたあとの2人も続けざまに地面に倒れ込む。
倒れ込んできた男の身体を脇にどかして周囲を見る。そこは血の水溜りが3つ出来ている。俺を囲んでいた3人とも喉を一突きされ絶命していた。
「うわぁっ!」
気付いた途端に恐ろしくなり俺は腰を抜かす。
「ん?なんだ?どうした?あんちゃん。どこか怪我したのか?」
少年はパチリと刀を鞘に仕舞うと俺の方に手を差し出してくる。どうやら害意はないようだ。
手を伸ばす前に俺は少年を観察する。ひょろっとした17歳くらいの少年だ。ボサボサの髪を後ろで1つに束ねている。異質なのは背中に背負った日本刀だ。少年には似つかわしくないその殺人用の道具を彼は自由自在に使いこなし、あっという間に3人の男を殺してしまった。
俺は恐る恐る少年の手を握り返す。すると見た目よりずっと強い力で引っ張りあげられた。
「ありがとう。助かったよ。強いんだね」
礼を言うと少年は照れくさそうに「へへへ…」と笑う。
「何かお礼をしなきゃならないんだろうけど、生憎(あいにく)今何も持っていなくて…」
申し訳なさそうに言うと少年は慌てて「そんなんいらないよ!じゃあおいらは行くよ!あんまりボーっと歩いてんじゃないよ?じゃあな!」と捲し立てると走り出す。
「あ!待って、俺は佐野太助!君は?」
俺は慌てて呼び止める。
少年は足を止めずに振り返って叫ぶ。
「名乗る程のもんじゃないよ!小次郎っていうんだ!」
…名乗るんじゃん…。小次郎か…いい奴そうだな。本当に助かった。ありがとう。
走り去る小次郎の背中を見送りながら心の中でもう一度礼を言った。
舗装されていない道の両側にはお店が連なっている。といっても全部屋台のようなものだ。
草鞋や食器、塩や油など様々な生活用品が売りに出されている。
…俺が何故1人でこんなところをぷらぷらしているかって?
明け方なんとか眠りに就いたところを老人に叩き起こされ、門前の掃き掃除やらなんやらを手伝わされて、朝ご飯に出されたお粥を胃に流し込んだ頃、ひかるさんが現れた。ひかるさんは夜と同じ着物のままだった。やっと帰れる!と安心したのも束の間。「昼過ぎまで時間を潰してきてくれ」とひかるさんに言われてしまったのだ。
ひかるさんは「せっかくだから市でも見てきては?」と言い残して去っていってしまった。
本当なら1人ででも帰りたいくらいだが、あの洞窟まで辿り着く自信がない。とはいえここに居ては針の筵だ。俺は多少の好奇心も手伝って市というものに行ってみることにした。
老人に市の場所を聞くと意外と素直に教えてくれる。
ウキウキと出かけようとする俺を老人は呼び止めて言った。
「気をつけろよ…くれぐれもな…」
…意味深な…と思いつつも大して気にもとめず頷いた。
『ドンッ』
左右の店に気を取られて正面から来る人に気が付かなかった。
「ご、ごめんなさい!」
俺はぶつかってしまった人に慌てて謝罪する。
「おい!お前のせいで連れが怪我をしたぞ?」
地面に1人男が倒れている。その男の連れだろうか?男2人が俺に凄んでくる。お世辞にも柄が良いとは言えない3人組だった。
…そっちだって前を見ていないからぶつかったんだろ…とガクガク震える足をどうにもできないまま思う。
「おい!聞いてんのか?変なナリしやがって!こっちこい!」
俺は男の襟首を掴まれて路地の中に引きずり込まれる。通りの人たちは気付いていないのか、見て見ぬふりなのか誰もこちらに興味を示さない。
狭い路地で男3人に囲まれる。怪我をしたらしい男もしっかりと大地を踏みしめ俺包囲網の一角を担っている。今気付いたが3人とも長い刀を腰にぶら下げていた。
「おい。こういう時どうしたらいいか親に習わなかったか?」
最初に因縁をつけてきた男が凄む。
…残念ながら日本刀を所持した男3人への対処法は親からも学校からも習っていない。
「仕方ねえ。教えてやるよ。金か命だ。好きな方差し出せ!」
男は刀をスラリと抜いてニヤリと笑う。
…あ。ダメだ本当に死ぬやつだ。
俺の足をガクガクいわせていた何かは今や全身に広がり身体全体を震わせている。
「ひゃっひゃっひゃっ。このお坊ちゃんびびって声も出ねぇぜ?」
3人ともゲラゲラと笑い始める。俺もそれに合わせてへらへらと笑ってみる。
「てめぇは笑ってんじゃねぇ!」
…怒られた。
「さぁ、俺らも暇じゃねぇんだ。出すもん出しな!」
…あぁ…いよいよダメだな。俺は金なんか持ってないし、出せる物は命だけだ。美人に釣られてこんなところまで来たのが運の尽きか。
「仕方ねぇ…じゃあ死ね!」
男が刀を振りかぶる。
「ぎゃぼ…」
男が聞いたこともない変な声を上げる。俺は瞑っていた目を恐る恐る開ける。
…ん?男の首から何か生えてる?何だか赤い液体が…トマトジュース?…いや、え?血!?
『ドサ』
男の身体が俺に倒れ込んで来る。
「こんな狭いところで刀振り回すなんざ下手くそにも程があるぜ!」
初めて聞く男…少年?の声が聞こえたと思ったら、俺を囲んでいたあとの2人も続けざまに地面に倒れ込む。
倒れ込んできた男の身体を脇にどかして周囲を見る。そこは血の水溜りが3つ出来ている。俺を囲んでいた3人とも喉を一突きされ絶命していた。
「うわぁっ!」
気付いた途端に恐ろしくなり俺は腰を抜かす。
「ん?なんだ?どうした?あんちゃん。どこか怪我したのか?」
少年はパチリと刀を鞘に仕舞うと俺の方に手を差し出してくる。どうやら害意はないようだ。
手を伸ばす前に俺は少年を観察する。ひょろっとした17歳くらいの少年だ。ボサボサの髪を後ろで1つに束ねている。異質なのは背中に背負った日本刀だ。少年には似つかわしくないその殺人用の道具を彼は自由自在に使いこなし、あっという間に3人の男を殺してしまった。
俺は恐る恐る少年の手を握り返す。すると見た目よりずっと強い力で引っ張りあげられた。
「ありがとう。助かったよ。強いんだね」
礼を言うと少年は照れくさそうに「へへへ…」と笑う。
「何かお礼をしなきゃならないんだろうけど、生憎(あいにく)今何も持っていなくて…」
申し訳なさそうに言うと少年は慌てて「そんなんいらないよ!じゃあおいらは行くよ!あんまりボーっと歩いてんじゃないよ?じゃあな!」と捲し立てると走り出す。
「あ!待って、俺は佐野太助!君は?」
俺は慌てて呼び止める。
少年は足を止めずに振り返って叫ぶ。
「名乗る程のもんじゃないよ!小次郎っていうんだ!」
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