一般人の関ヶ原〜すぐに知ったかぶりする俺が西軍を勝たせようと決心した結果どうなるかというお話〜

とんぼ

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決意

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 島家で働き始めたすずはとても働き者だった。俺や琴子みたいに時間が余ったらサボるという事などせずに仕事を見つけてはひたすら働く。

 喜作爺さんはそんなすずが大(だい)のお気に入りでいろいろと仕事を教えていた。端(はた)から見ていると孫と祖父のように見えて微笑ましい。人懐こい笑顔が可愛らしい娘ですぐに島家のアイドルになった。

 すずは見かけによらず力が強い。重いものでも簡単に持ち上げる。足も速くいつも屋敷内を走り回っている。少し色黒なこともあって男の子のように見えることもある。

 そんなすずは最近俺のことを「お兄ちゃん」と呼び懐いてくる。家では自分がお姉さんだから外では甘えたい気持ちがあるのだろう。俺達が暮らす小屋によく遊びに来るのだが、俺がすずと仲良くしていると喜作爺さんが睨みつけてくるので正直やりにくい。

 島家の人たちは皆優しい人たちで、ひかるさんの弟の新吉君はよく俺と琴子とすずを川遊びに連れて行ってくれる。「家にいると喜作爺に仕事を仰せつかるだろう」と気遣ってのことだった。
 俺と琴子は大喜びで遊ぶのだがすずだけは仕事のことが気になって気が気じゃないようだった。

 ひかるさんの母親は名前を茶々(ちゃちゃ)というらしい。茶々と言えば豊臣秀吉の側室(そくしつ)で秀頼の母、絶世の美女の名高い淀(よど)の方を思い浮かべるが、ひかるさんの母親も負けず劣らず美しい方であった。庭の掃除をしていると気軽に挨拶をしてくれる。とても気さくな方だった。熊男にはもったいない奥さんだ。

 そういえば琴子が初めて熊男を見たのはつい最近のことだった。琴子が急に小屋に駆け込んで来た。
「盗賊が入ってきた!」と騒ぐ琴子に連れられて俺と喜作爺さんが見てみると、それが熊男だった。ゲラゲラ笑う俺の横で琴子は「バカモン!」と喜作爺さんに頭をゲンコツでぶたれ涙目になりながら「あんなん島左近と違う…」とぶつくさ言っていた。

 そんな喜作爺さんも仕事の時は厳しいが、普段はぶっきらぼうなだけで優しい老人だ。琴子が疲れ切って腹が減ってぐったりしていると干し柿をこっそり手渡しているのを何度かみたことがある。

 何が言いたいかと言うと、ここはとても居心地が良いということだ。そして、どうやら俺はこの人たちを守りたいと思い始めていた。
 その方法をおそらく俺達は持っている。あとは…やるのかやらないのかだけだった。
 

 ひかるさんと琴子を連れて屋敷を抜け出し河原に来た俺が「関ヶ原で石田三成を勝たせてこの家の人たちを守りたい!」と言ったのは夏が近くなった頃だった。

 水遊びをしていた琴子は手を止めて俺の顔をマジマジと見る。

 焚き火の準備をしていたひかるさんは驚いた顔をし、そして俯く。

 沈黙を破ったのはひかるさんだった。
 
「私としましては願ってもないことでございます。父と弟を救える物なら救いたいと、この2年間ずっと考えておりましたから…ただ、それが正しい行いなのかは…」

 口を開いたひかるさんはそう言うと俯いて首を左右に振る。
…確かに。正しい行いとは言えないだろう…。でも。

「琴子はどう思う?」

 俺は黙ったまま何も言わない琴子に水を向ける。

「うーん…まぁ…この際(さい)正しいか正しくないかは置いておいて、私達がこの世界で生きて行くためには三成様に勝利して頂く以外に道は無いんですよね。実際」

 琴子は肩をすくめて投げやりにそう言った。

…確かに。関ヶ原で石田三成が敗北して島左近が討死すれば俺達の身にも危険が及ぶ。

「えっと…じゃあ…?」

「どっちにしろトンネルは無くなっちゃいましたからね。もう帰れない…だったらこの世界で生き抜く方法を考えるしかないと思いますよ」

 俺の問いかけに琴子は途中から笑顔になってそう答えた。

「ひかるさんは…?」

 ひかるさんを見ると彼女も笑顔で頷く。

…恐らくやってはいけないことなんだとわかっている。けれど島家の人達のため、自分達が生き抜くため、俺達は日本の歴史を変える。

…いや、正直なことをいうとそれだけじゃない。俺は歴史を変えるという行為自体にすごくわくわくしていたのだ。

「ひかるさん、琴子、やろう!」

 俺達は3人で力強く頷きあった。
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