一般人の関ヶ原〜すぐに知ったかぶりする俺が西軍を勝たせようと決心した結果どうなるかというお話〜

とんぼ

文字の大きさ
26 / 53

家康VS琴子

しおりを挟む
「こっちだ」
左近さんが先導する。

俺と琴子はただ付いていくだけだ。

すずは先ほどの怪我人の付き添いで残してある。後程合流する手筈だ。

一旦大坂城の内部に入るとそこはまるで迷路のように入り組んでいる。

門を潜ってどれくらい歩いただろうか。まだ建物にさえ辿り着けずにいた。

「む?…こっち、だ?」
左近さんの歩みも覚束なくなっている。

それからまた少し歩くと行き止まりにあたる。

「うむ。間違えた」
左近さんが立ち止まり腕を組む。

「ええ!どうするんだよ!」
俺はここぞとばかりに強気に出る。

「戻ろう」
左近さんは慌てずに踵を返そうとする。


「左近殿ではありませんか!このような所でどうされました?」

突然背後から声をかけられ、4人そろって肩をビクッとさせる。

「東市正様…」
振り返った左近さんが安堵の吐息を吐く。
そこにはこの場にそぐわない本当にただのおじさんが立っていた。スーツを着せたら満員電車でもみくちゃにされたくたびれたサラリーマンのようだ。

「いちのかみ…片桐且元…」
隣で琴子がぼそりと呟く。

「この先は何もありませんぞ?」
おじさんは心配そうだ。

「いやぁ、実は大坂は久しぶりで…道に迷ってしまいました…しかし儂は運がいい。もともと東市正様に会いに来たのです」
左近さんは頭を掻きながら笑う。

「拙者に…?」
左近さんの言葉におじさんは顔を曇らせる。

「とにかくこんな所ではなんですから…こちらへ…」
おじさんは左右を窺うと先頭に立って歩き始めた。

通された部屋はそれなりの広さがある。

ここに着くまでの間に琴子がこっそりと教えてくれたが、このおじさんは片桐且元という有名な人で賤ヶ岳の七本槍の1人、秀吉から信頼され今は秀頼の家老をしているらしい。
…見かけによらず偉い人なんだな、片桐さん。

「それで、治部少輔の家老殿が私に一体何の御用ですか?」
片桐さんは不安そうに話を切り出す。


「はい。実は秀頼君にお目通り願えないかと、ご相談に参りました」
左近さんは畳に手をついて頭を下げる。

「…」
片桐さんは口をへの字に結んで腕を組む。

「いや…左近殿、その義は…」
片桐さんは少し考えてから口を開いた。

「何卒!」
左近さんは片桐さんの言葉を遮って再度頭を下げる。

「まず、どんなご用件なのですか?」
片桐さんは腕を組んだまま問いかける。

「はっ…それは…」
左近さんが言葉に詰まる。

「…私には言えない内容ですか。なれば尚更秀頼様に会わせるわけにはいきませんな」
片桐さんは残念そうにも安心したようにも見える息を吐く。

「それは、今西の丸に徳川家康が入っていることも関係していますか?」
突然琴子が口を開く。

全員が驚いて琴子を見る。

「な、何を!内府殿は秀頼様の家臣。何を気兼ねなどする必要が…」
片桐さんは慌てて琴子の言葉を否定する。

「なるほど。と、なれば片桐様、あなたは今独断で豊臣の命運を左右するかもしれない使者を追い返そうとしている…大丈夫ですか?」
琴子は最後は片桐さんに笑いかける。

「だ…大丈夫とは。何が…」
片桐さんは胃のあたりを押さえながら呻く。

「豊臣の家を滅亡に追い込んだ戦犯として後世に語り継がれる覚悟はおありか?と聞いています」
琴子は笑顔のまま恐ろしいことを言う。

「琴子!言い過ぎだ」
左近さんが見かねて口を開く。

…いや、本当に言い過ぎ…

「ありますよ…」
片桐さんが琴子を正面から見る。

「…豊臣の命運を左右する覚悟ならとっくに…太閤殿下が亡くなられた時からとっくに決めています」
片桐さんの表情が先ほどまでとは全く違う。
…少し怖い。

「その上で貴方がたを秀頼様に会わせるわけにはいかないと申し上げているのです。お引き取り願います」
先ほどまでの柔らかい物腰とはまったく違う、きっぱりとした物言いだ。

…あーあ。琴子、怒らせた。

「…失礼致しました。片桐様にそこまでの覚悟がお有りとは」
琴子は手と額を畳に付けて平伏する。

「謝罪は結構。即刻この城から出ていきなさい。左近殿!貴方も」

片桐さんが大きな声をあげると同時に部屋の障子がすーっと静かに開く。

「まぁ、東市正よ。良いではないか…」
1人の恰幅の良い老人が部屋に入ってくる。

…なんだ?この老人の威圧感は…

「は…?はっ…!これは内府殿!何故こんなところに…」
片桐さんが平伏する。

「…徳川家康…」
隣で琴子が呟く。

…え?この老人が?確かに只者ではないオーラだけど…ただのでっぷり太ったおじいちゃんに見える。

「左近。久しぶりだの。治部少輔は息災か?」
徳川家康は左近さんにニコニコと笑顔を向ける。

「はっ。佐和山でのんびりと過ごしてござる」
左近さんは徳川家康とは目を合わせず背を伸ばして問いかけに答える。

徳川家康は左近さんの言葉が終わるとニヤリと笑う。

「おい女!」
徳川家康は急に乱暴な口調になる。

「豊臣の命運だなんだと随分えらそうなことを言っていたな」
睨みつけてくる徳川家康を琴子は座ったまま見返す。

…すげぇな琴子。俺なら目を逸らしちゃうよ。

「その話。詳しく聞かせて貰おうではないか」
徳川家康は自然な動きで上座に腰を降ろす。

「お断りします」
徳川家康が座るか座らないかのうちに琴子は一礼して言った。

その場の全員が呆気に取られる。

「あぁ。そうか。すまんすまん。儂を知らなんだか。儂は…」

「徳川家康」
琴子は徳川家康の言葉が終わらないうちにその名を呼ぶ。

「これ!」
片桐さんが慌てて琴子を叱る。

徳川家康は顔こそ笑っているが額に青筋を立てている。

…何で徳川家康に徳川家康って言って怒られるんだろう?

「失礼。内府様ですね」
琴子は口では謝罪しているがその態度は不遜なものだ。

「そうだ。豊臣家の大老。徳川内府である。その儂に話せないということは無いだろう」
徳川家康は落ち着きを取り戻すとふんぞり返って琴子を見下ろす。

「いえ。内府様にはお話できません。秀頼君に…」
琴子は背を反らして言う。

「ふん。そうか。ならば貴様は死ね!おい!」
徳川家康が大きな声を出すと外から侍が5人ドタドタと乗り込んでくる。

俺と琴子と左近さんはあっという間に拘束された。

「とりあえず地下牢にぶち込んでおけ!」
徳川家康は偉そうに言うと鼻息荒く部屋から出て行った。

…なんだよあいつ。えらそうに。

…っていうか琴子のせいでマジピンチじゃねーか。え?死ぬ?これ死ぬの?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり

もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。 海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。 無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...