一般人の関ヶ原〜すぐに知ったかぶりする俺が西軍を勝たせようと決心した結果どうなるかというお話〜

とんぼ

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小早川さん家の隙

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毛利さんの家来に案内されて俺達は無事に大坂城から脱出した。

「いやぁ!太助のおかげでおいらも助かったよ!ありがとう」
小次郎が無邪気に笑う。

その背中には刀が背負われている。
毛利さんの家来が保管されていた俺達の私物と一緒に小次郎の刀も持ってきてくれたのだ。

「さて。佐和山に帰ろう!大坂は懲り懲りだ」
俺が歩き始めても琴子と左近さんは動かないでいる。

「よし。行くか琴子…」
「はい…」
2人は何やら頷き合っている。

「うん…行こう?ね。佐和山に行こう…徳川に捕まったら俺達本当に死んじゃうよ?」
俺の言葉が聞こえないのか左近さんと琴子は佐和山とは逆方向に歩き出す。


「こ…ここは?」
随分と立派な御屋敷の門の前で立ち止まる。

「小早川秀秋の大坂屋敷です」
琴子が門を見上げながら呟く。

…小早川秀秋ってあの小早川秀秋か!裏切り者の代名詞!

「さて…どうする?」
左近さんが琴子に問いかける。

「ここは正攻法で行きましょう。毛利様の名を借ります」
「毛利様の使者ということにするか…露見すれば…」
「わかっています。それでも小早川秀秋にはそれだけの価値がある…」
琴子と左近はヒソヒソとよくわからない話をしている。
「それならばこの男は…」
「はい。連れて行かない方が無難です」
「だな。小次郎と一緒にどこかで待たせておこう」
ヒソヒソ話を終えた琴子と左近さんがこちらを見る。
「おい太助!これをやろう」
そう言って左近さんが俺の手に何かを載せる。
…これは?お金?
「そうだ。これで何か美味いものでも食っていてくれ」
左近さんは気持ち悪いくらいの笑顔だ。
「いや…でも。悪いし…俺も小早川秀秋見てみたいし…」
俺ばかり美味いもの食べたらバチが当たる。

「太助はめっちゃ頑張ったじゃん!それに小次郎とも積もる話があるでしょ?」
琴子も笑顔だ。

「そういえばそこの通りを一本入ったところに団子を売ってる店があるらしいぞ。小次郎と行って来い。な?」
左近さんも笑顔だ。

「なんか…悪いなぁ…」
「太助。ここまで言ってくれてるんだ!行こうぜ!」
小次郎が俺の手を引く。

俺は小次郎に手を引かれながら琴子と左近さんを振り返る。
2人は笑顔で手を振っていた。

小次郎に手を引かれてしばらく歩いた。
しかしやはり俺ばかりサボるのは気が引ける。

「小次郎。戻ろう!」
俺は小次郎の手を逆に引っ張る。
「えぇ?団子はぁ?」
小次郎は情けない声をあげる。
「後でおごってやるから!」
「約束だぞ!」
俺の言葉に素直に付いてくる小次郎。

小早川の屋敷に戻ると琴子と左近さんが門前で何やら押し問答をしている。

「だから、ご当主に必ず直接お伝えしろと言われて来たのです」
左近さんが大きな声を出す。

「ですので、当主はお会いしません」
おじさんは冷静に返事をする。

「そもそも毛利様が今更当家に何の御用があるのだ?隆景様が身罷ってからこれといって付き合いもないのに」
おじさんの隣にいる比較的若いおじさんが訝しげな声をあげる。

「それはご当主にのみお伝えいたす」
左近さんが答える。

「堂々巡りだな。…お引き取りを。いずれにせよ当主はお会いになりません」
老けてる方のおじさんが話を打ち切ろうとしている。

「毛利家の使者を迎え入れもせず門前で追い払うとは…それなりの覚悟があってやっているのですね?」
黙っていた琴子が低い声で問い質す。

「はっ?」
若いおじさんが怪訝な顔で琴子を覗き込む。

「小早川家からすれば元々毛利は本家筋。その使者を蔑ろにしたと他家に知られれば私たち毛利は赤恥じです。そうなれば両家の関係は拗れるが…その覚悟はおありか?と聞いています」
琴子の言葉に2人とも顔色を変える。いや、左近さんも顔色を変えている。

…琴子またやってる…

「脅しですか?」
老けてるおじさんが低い声を出す。

…あ。このパターン…

「稲葉殿…」
老けてるおじさんが声をかけると稲葉と呼ばれた方は頷いて奥に入っていく。

「平岡殿…」
稲葉が戻ってきた。後ろには十数名の取り巻きがいる。

…またやってるよ。琴子のやつ。

「おい。太助…」
そこで小次郎が俺の肩を叩いてくる。

「小次郎どこに行ってた?」

「いや、そこの角曲がったとこにさ、この御屋敷の木戸があってな?ちょっと触ったら開いたんだよ…」
小次郎が指さす方を見ると確かに御屋敷を回り込むように路地がある。

「脅しをしてくるのならば当家も身を守らねばなりませぬ。押し通るというなら我々を斬って進まれよ」
平岡が強い口調で言う。

「くっ…」
琴子が唇を噛む。

…あいつには今度我慢というものを教えなければならないな…

「小次郎…その木戸、案内してくれる?」
「そうこなくっちゃ!」
俺の言葉に小次郎は嬉しそうに指を鳴らした。


小次郎の案内で御屋敷の裏手に回ると確かに木戸が開いている。

…不用心だな…
俺と小次郎は抜き足差し足で忍び込む。

「表で揉め事だ!お主らも来てくれ!」
声がすると同時に障子が開く。
俺と小次郎は慌てて縁の下に隠れる。

『ドタドタドタドタ』
数人が走り去る足音がしてその後静かになる。

俺と小次郎は胸を撫でおろす。

また少し進むと
『ドタドタドタドタドタドタ』
と足音が近付いてくる。
俺と小次郎はまた縁の下に隠れる。

足音が俺達の真上で止まる。
…マズイ!バレたか?

「そういえばご当主の部屋に見張りはつけてあるのか?」
「はい!そこは怠りありません!」
「よし!行くぞ!稲葉様と平岡様に良いところを見せれば…」
「あの噂本当なんですか?」
「いいから!今は私に付いてこい!」
俺達の真上で話していた2人はまた足音を立てて去っていった。

「ふぅー…あぶねぇ」
小次郎が息を吐く。
「でも困った。小早川秀秋の部屋はわからないし、わかったところで見張りがいるんじゃ…」

「いや?逆にわかりやすいだろ?見張りがいる部屋が小早川なんちゃらの部屋だってことさ」
小次郎がきょとんとした表情で言う。

「お前…天才か?…いや、でもどっちにしろ見張りがいるんじゃなぁ」
溜息をつく。
「それは俺が何とかするさ」
小次郎は背中の刀の柄を握って笑う。

…確かに。小次郎の剣の腕は一流だ。

「行くだけ行ってみるか…」
「おう!」
俺と小次郎は屋敷の内部に侵入した。

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