一般人の関ヶ原〜すぐに知ったかぶりする俺が西軍を勝たせようと決心した結果どうなるかというお話〜

とんぼ

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やるっきゃない

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徳川挙兵間近の報せが各地を駆け巡った。
風説によれば徳川家康は会津にて戦支度をする上杉に謀反の疑いありとして挙兵の準備をしているという。
すでに豊臣秀頼からの許しは得ていて、あとは号令をかけるだけだという。

俺達がこの報せに接したのは前田さんのところから一度佐和山に戻ったタイミングだった。

佐和山には既に三成さんたちが戻ってきていた。

「毛利殿は味方になることを約束してくれたぞ」
顔を合わせるや否や三成さんは鼻息荒くそう言った。
「そうか。これで西の憂いは無くなったな」
大谷さんが頷く。

「そちらは?首尾はいかがだった?」
三成さんが問いかける。
「うむ。伊達はしかとした返事は貰えなんだ。しかし完全に徳川寄りというわけではない。戦いの流れ次第で十分こちらに取り込める余地がある。それとついでに立寄った前田だ。太助の説得で前田が西軍に加わるぞ!」
大谷さんは三成さんに笑いかける。

「なんと!?まことか?前田殿が…太助。どんなまじないを使ったのだ?」
三成さんは興奮気味にこちらを見る。

「うむ芳春院様を江戸から救い出すと宣言した」
大谷さんが口ごもる俺の変わりに言う。

『なっ!?』
その場にいた俺と大谷さん以外。
三成さん
左近さん
琴子
ひかるさん
皆があんぐりと口を開けている。

…あれ。やっぱり無理ゲーな感じ?

「大丈夫。太助ならきっとやり遂げる。なぁに失敗したら腹を切るだけだ。なぁ太助?」
大谷さんだけがからからと笑う。

…なんであんたこの件に関してだけはこんなに阿呆なんだ?

「そ…そうか。太助。頑張れよ…」
「これは…前田殿は戦力に数えられんか…」
「バカだバカだとは思っていたけど…」
「太助様…」
左近さん、三成さん、琴子、ひかるさんかそれぞれ言葉をかけてくれる。
そのどれもが憐れみに満ち満ちていた。

「だ。大丈夫…すずと小次郎もいるし…」

「相手は徳川だよ?甘くないって…」
琴子が馬鹿にしたように呟く。

「とにかく調略は順調だ。家康はそろそろ挙兵する。戦の時は近いぞ」
三成さんは冷静な顔に戻っている。

三成さんはその他の大名たちに味方になってもらうように文を書くと言って一度解散になった。

庭に出るとすずと小次郎が紫乃さんに切りかかっている。
すずと小次郎はそれなりに必死に切りかかっているが、紫乃さんはそれを両手に持った短刀で鼻唄混じりに捌いている。

「あら、太助様。軍議は終わりですか?」
キンキンと金属同士のぶつかる音を響かせながら紫乃さんの表情は柔らかい。

「くそ。全然だめだ美人姉ちゃん強えな」
小次郎は諦めたようで日本刀を背中の鞘に収める。

「絶対に隙ができるはず…」
と言いながらすずは諦めずに小太刀で斬りかかるが紫乃さんは顔色一つ変えずにすべて捌き切る。

「紫乃さん強いんだね」
俺の言葉に紫乃さんは微笑む。
「年の功ですわ」

…そういえば紫乃さんていくつなんだろう?

「紫乃さん…お願いがあるんだけど…」
「何でしょうか?」
「前田さん家のお母さんを江戸から助け出すの…手伝ってもらえないかな?」
「いいですよ」
俺のお願いに快諾する紫乃さん。

すずも驚いて手が止まる。

「うふふ。だって前田様をこちら側に引き込むのは我が主の求めるところでもあるんですから…やらない理由がありませんわ」
紫乃さんは頬に手を当てて首を傾げる。

「あ…ありがとう…助かる」
「うふふ。はい」
俺が頭を下げると紫乃さんは柔らかく笑った。


それから数日で徳川家康は会津征伐のために挙兵した。

畿内は騒然とする。
会津征伐に反対するもの。率先して会津征伐に加わるもの。それらはまさしく未来の西軍と東軍の姿であった。

家康は秀頼に挨拶をしてから領国である江戸に戻り軍を編成する。

「暗殺」の言葉が左近さんの口から出たのはこの頃だった。

家康が江戸に戻る際に必ず近江を通る。そこを奇襲して家康を殺してしまおうというものだ。

「必ずや打ち果たせます」
左近さんは鼻息荒く三成さんに詰め寄る。

「暗殺はあまり気が進まぬ…」
三成さんは目を伏せる。

「進む進まぬではございません。良いですか?この機に家康を殺してしまえば戦など必要ないのです。そうすれば多くの兵が命を落とさずに済む」
「ううむ…」
左近さんの言葉に三成さんは考え込む。

…確かに。戦争になればたくさんの人が死ぬ。

「私も左近殿の言うことに賛成だな」
大谷さんが口を挟む。

「刑部殿…」
「治部。お主の美学に付き合って死ぬ兵どもが気の毒だ。左近殿の言う通り家康を暗殺しろ」
戸惑う三成さんに大谷さんはぴしゃりと言う。

「むぅ…琴子…。この砌、家康の暗殺計画はあったのか?」
三成さんが琴子を見る。

「はい。ありました。やはり左近様の献策により暗殺計画がたてられました」
琴子が答える。

「と、いうことは失敗したのだな」
三成さんは少しほっとしたように息を吐く。

「はい。事前に家康に気付かれ逃げられました」
琴子は頷く。

「どのような計画だったのだ?」
左近さんは相変わらず鼻息が荒い。

「申し訳ありません。詳しくは知りません。ただ暗殺というよりは奇襲に近いものだったと言われています」
琴子が答える。

「なるほど。ならば暗殺に特化すればあるいは…」
左近さんが顎を撫でる。

「ダメだ、左近。それこそ無駄死にである」
三成さんが強めに言う。

「しかし!」
「ならぬと言ったらならぬ!了見せよ!」
食い下がる左近さんに三成さんが再度強く否定しその話は立ち消えになった。

しかし、夜になって左近さんから呼ばれる。
左近さんの部屋に行くと大谷さんがいた。

「太助、家康の暗殺、そなたはどう思う?」
左近さんが聞いてくる。

「え?いや、もしそれができたら一番良いと思いますよ」

「うむ。では力を貸してくれ」
大谷さんが嬉しそうな声を出す。

「え?」

「殿には内緒で家康を殺る」
左近さんはニヤリと笑う。

「とるって…俺そういうの役に立たないから…」
…嫌だ。暗殺とか怖いって。

「大丈夫だ。お前は小次郎の引率だ。あいつはお前の言うことなら聞くだろう」
…確かにそれはそうかもしれないけど

「すずは危険だから置いていく。儂と小次郎で家康を斬る」
左近さんが刀を引き寄せる。
…目が据わってる…

「後のことは私に任せろ」
大谷さんが頷く。

…左近さん死ぬ覚悟?え?小次郎道連れ?



「おう!いいぜ!」
「え?」
小次郎に話をすると小次郎は笑って答える。

「いや、お前死ぬかもしれないんだぞ?わかってるのか?」
「は?刀を持ってるんだ、いつだって死ぬかもしれないぞ?」
俺の問いにキョトンとしている小次郎。

…ダメだこいつとは死生観が異なりすぎる。

「よく言った小次郎!お前は本物の武士だ」
左近さんがバシバシと小次郎の肩を叩いている。

「じゃ、じゃあ2人で行ってらっしゃい…」
…ここの2人通じ合ったから俺必要ないよな…

「何を言っている。行くぞ。儂と小次郎が死んだら誰が暗殺成功を殿に伝えるのだ?馬鹿め」
左近さんに首根っこを掴まれる。
…なんて言われようだ。…っていうか

「えっ?こんな今日の今日でです?」

「当たり前だ。待ち伏せするのだぞ。絶妙の場所でやらねばなるまい」
左近さんはそう言うと俺を掴んだまま歩き始めた。
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