一般人の関ヶ原〜すぐに知ったかぶりする俺が西軍を勝たせようと決心した結果どうなるかというお話〜

とんぼ

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大江戸脱出大作戦!

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夜が更ける。

「芳春院様。準備はよろしいでしょうか?」
俺が声をかけると障子が開き芳春院さんが出てくる。
「参ろう」
芳春院さんは短く言うと用意してあった輿に乗り込む。
娘ももう一つの輿に乗せて寺を出る。

ここから30分ほどで港に着く。

今のところ騒ぎにはなっていない。

船に乗ってしまえばこっちのものだ。港に着くまでが勝負である。

歩みは順調だ。

俺とすずが先頭。小次郎と紫乃が最後尾にいる。

夜風に潮の匂いが混じる。

港が近付く。

いける。

後少しだ。

追手はない。

…なんだ。楽勝じゃないか…

俺はふっと息を吐く。

その時俺の真横に人の気配が急に現れる。

「太助…」

「何だ才蔵か。驚かせないでくれ」
才蔵が俺の真横にピタリと付いて歩く。

「敵が来る…」

才蔵はそれだけ言うと再び姿を消す。

「お兄ちゃん…急ごう」
すずも何かに気付いたのか真剣な表情だ。

俺は頷くと小走りになる。

「少し急ぎます」
すずが輿に声をかける。

後ろの方が騒がしい。

恐らく追手がかかった。

港が見える。

孫七さんの部下が手を振っている。

ここから小舟に乗って沖に停泊している船に乗り換える。

「芳春院様。港に着きました。小舟にお乗り換えを」

芳春院さんは娘を抱き上げると一緒に小舟に乗り込む。

「行ってください」

芳春院さんの侍女も船に乗り込むのを待って俺は孫七さんの部下に声をかける。

孫七さんの部下は頷くとゆっくりと楷を漕ぎだす。

俺とすずはその小舟が十分に岸から離れたことを確認して頷き合う。

遠くから小次郎と紫乃が駆け寄ってくるのが見える。
その後ろには20人ほどだろうか?忍者が追いすがっている。

その先頭を走るのは…

「ハットリくんめ…」

海沿いに追い詰められる。

「またお前か…」
ハットリくんが俺を睨みつける。

「それはこっちのセリフだ」
俺も言い返す。

「芳春院をどうした?」
ハットリくんが辺りを窺う。

「さぁね」

「今返せば命だけは助けてやるぞ」
ハットリくんが忍者刀を抜きながら言う。

「嫌だね…」

俺はハットリくんと話しながらちらっと後ろを窺う。

芳春院さんたちを船に届けた小舟が俺達を迎えにこちらに向かっている。

あの小舟に飛び乗ればこの窮地を脱出できる。

…あと2~3分といったところか?

「そうか…なら死ね。おい」
ハットリくんが声をかけると忍者が数名火縄銃を構える。

「いきなりかよ…」
小次郎が苦笑いをする。

…まずい。こんな開けた場所では盾にするものもない。

「撃て…」
ハットリくんが呟くと同時に破裂音が…響かない

「うっ」
「ぐぁ」
「ぐっ」
「かは」
「がっ」
火縄銃を持った男の首にクナイが突き刺さる。

「何だ?クナイだと?」
ハットリくんが辺りを見渡す。

「…あそこか…」
ハットリくんは懐から手裏剣を出して蔵の屋根に投げつける。

壁と同化していた才蔵はその場を飛び退く。
避けた代償としてその姿を晒すことになった。

「ふん。まぁいい。斬れ」
ハットリくんの号令で敵が一斉に飛びかかる。

小次郎、すず、紫乃さん、それぞれ相手に飛びかかり空中で交錯する。

敵が皆地面に崩折れる。

すずは頬から血を流しているが深手ではない。
小次郎と紫乃さんは無傷だ。

外側で取り囲む敵が2人才蔵のクナイで倒れる。
「ちっ。忌々しい」

ハットリくんは才蔵に手裏剣を投げるが才蔵は難なく避ける。

振り返ると小舟は飛び移れる距離まで近付いていた。

「すず…」
俺は小声ですずを呼ぶ。

すずは俺を見て小舟を見て小さく頷く。

すずが懐から取り出した玉を地面に叩きつける。

『ぱぁん』
夜の港に乾いた音が響きあたりが白い煙に包まれる。

「むっ。またか…奴ら逃げるぞ追え」
ハットリくんの冷静な声がする。

まずいな…混乱が少ない。

「みんな海に飛べ!」
俺が叫ぶと小次郎がまず小舟に飛び移る。
次に俺。
すずが飛び込んで来るのを受け止める。
気が付くと才蔵がしれっと小舟に乗っている。
よし。みんな無事だ…

岸の煙が晴れていく…

そこには紫乃さんがいた。

…えっ!?何故!?

紫乃さんはこちらを見て微笑んでいる。

「紫乃さん!早く!」
俺はつい叫ぶ。

「あの小舟に飛び移れ!」
ハットリくんが部下に指示を出す。

岸からジャンプしようとする敵を紫乃さんが短刀で斬りつける。

ドボンドボンと敵が海に落ちる。

「行ってください!」
紫乃さんはこちらに微笑んで叫ぶ。

「ダメだ、紫乃さん!まだ間に合うから!早く!」
俺も負けじと叫ぶ。

「ダメだ!太助。これ以上待てば全員やられる」
小次郎が俺を小舟に座らせようと押さえる。

「出してください」
すずか孫七さんの部下に短く言うと部下は頷いて楷を操る。

「ダメだ!待って!紫乃さんを置いていけない…」

紫乃さんは既に敵に囲まれている。

しかししぶとく敵の攻撃を躱して時間を稼いでいる。

小舟が岸から十分な距離を取ったタイミングで紫乃さんが敵の囲いを突破した。

「まさか…ここまで泳いでくる気か?」
才蔵が呟く。

紫乃さんが岸を蹴る。
海に飛び込もうとする。
しかしその時
『パァーン』
と乾いた音が響き渡る。

服部半蔵が火縄銃で紫乃さんを撃ったのだ。

紫乃さんの身体から血が噴き出すのが見えた。
紫乃さんはそのまま飛沫を立てて海に落下した。

「うわぁぁあぁ」
俺の絶叫が海面に木霊した。
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