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2話
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翌日の学院は、なんだか妙にざわついていた。
廊下を歩けば、視線がふわりとこちらに集まっては、すぐに逸らされる。
クスクスと笑う声や、ひそひそとささやく声まで聞こえてくる。
……どうしてかしら?
「ねぇ昨日さ、リリアナ様のお茶会に、あの人たちが集まったんだって」
「攻略対象……じゃなくて、王太子殿下と宰相補佐候補と、あの無口な騎士でしょ?」
「なんで悪役令嬢のところに……?」
しっかり聞こえておりますわ。
昨日の“平和なお茶会大乱入事件”は、どうやら瞬く間に学院中に広まったらしい。
ただお茶を飲みたかっただけなのに、どうしてイベント扱いになっているのかしら。
「リリアナ様、おはようございます!」
元気な声がして振り返ると、クラスメイトのエルナが笑顔で駆け寄ってきた。
彼女は以前からわたくしに話しかけてくれる、数少ない“普通に接してくれる子”の一人だ。
「昨日、お茶会をされたんですって? すごい顔ぶれだったとか」
「わたくしとしては、たいへん困りましたわ……平和を求めておりますのに」
「ええと……その、人気なんだと思いますよ?」
エルナが困ったように笑う。
人気。
悪役令嬢が人気。
その発想はなかった。
教室に入ると、さらに空気がざわっと動いた。
「リリアナ嬢、おはよう」
声の主はユリウスだった。穏やかな笑顔がまぶしい。
「昨日のお茶、とても美味しかったです。またぜひご一緒に」
「え、ええ……こちらこそ」
周囲がざわめく。
「ちょっと……ユリウス様があんな柔らかい声で……」
「リリアナ様って、もしかして実はすごい方?」
ちがいますわ。ただお茶を淹れただけですのに。
席につくと、今度は無口な騎士ノアが、なぜか隣の窓際に立っていた。
立っているだけなのに、視線が痛いほど刺さる。
「……ノア様? どうしてそこに?」
「護衛」
「護衛?」
「……気に入った」
「……わたくしのお菓子を、ですわね?」
こくりと静かにうなずく騎士。
教室の女子たちから小さな悲鳴が上がった。
「ノア様があんな顔するなんて……!」
「リリアナ嬢、恐ろしい……!」
まってくださいまってください、わたくし何もしてませんわよ。
そして授業が終わると、さらに追い討ちがきた。
「リリアナ」
呼ばれて振り返ると――王太子レオンハルトが立っていた。
昨日よりも、ほんの少し距離が近い気がするのは気のせいかしら。
「今日も……その、お茶会をすると聞いた」
「えっ、誰から……?」
「ユリウスだ。彼が嬉しそうに“今日の茶葉は何だろう”と言っていたのでな」
ユリウス様。なぜ余計なことを。
「それで、その……俺も参加していいか?」
教室が静まり返る。
同時に、女子たちの視線が炎のように熱くなる。
わたくしはにっこりと微笑んだ。
「……殿下。平和を乱さないとお約束してくださるなら、どうぞ」
「もちろんだ。昨日は……楽しかったからな」
王太子が、ほんの少しだけ笑った。
その笑顔はゲームでは絶対に見なかったものだ。
さて。
わたくしの“平和なお茶会”は、今日こそ平和にできるのかしら?
胸の中でそっとため息をつきながら、わたくしは午後の予定を考え始めた。
――できれば、静かに紅茶を楽しみたいのですけれど。
廊下を歩けば、視線がふわりとこちらに集まっては、すぐに逸らされる。
クスクスと笑う声や、ひそひそとささやく声まで聞こえてくる。
……どうしてかしら?
「ねぇ昨日さ、リリアナ様のお茶会に、あの人たちが集まったんだって」
「攻略対象……じゃなくて、王太子殿下と宰相補佐候補と、あの無口な騎士でしょ?」
「なんで悪役令嬢のところに……?」
しっかり聞こえておりますわ。
昨日の“平和なお茶会大乱入事件”は、どうやら瞬く間に学院中に広まったらしい。
ただお茶を飲みたかっただけなのに、どうしてイベント扱いになっているのかしら。
「リリアナ様、おはようございます!」
元気な声がして振り返ると、クラスメイトのエルナが笑顔で駆け寄ってきた。
彼女は以前からわたくしに話しかけてくれる、数少ない“普通に接してくれる子”の一人だ。
「昨日、お茶会をされたんですって? すごい顔ぶれだったとか」
「わたくしとしては、たいへん困りましたわ……平和を求めておりますのに」
「ええと……その、人気なんだと思いますよ?」
エルナが困ったように笑う。
人気。
悪役令嬢が人気。
その発想はなかった。
教室に入ると、さらに空気がざわっと動いた。
「リリアナ嬢、おはよう」
声の主はユリウスだった。穏やかな笑顔がまぶしい。
「昨日のお茶、とても美味しかったです。またぜひご一緒に」
「え、ええ……こちらこそ」
周囲がざわめく。
「ちょっと……ユリウス様があんな柔らかい声で……」
「リリアナ様って、もしかして実はすごい方?」
ちがいますわ。ただお茶を淹れただけですのに。
席につくと、今度は無口な騎士ノアが、なぜか隣の窓際に立っていた。
立っているだけなのに、視線が痛いほど刺さる。
「……ノア様? どうしてそこに?」
「護衛」
「護衛?」
「……気に入った」
「……わたくしのお菓子を、ですわね?」
こくりと静かにうなずく騎士。
教室の女子たちから小さな悲鳴が上がった。
「ノア様があんな顔するなんて……!」
「リリアナ嬢、恐ろしい……!」
まってくださいまってください、わたくし何もしてませんわよ。
そして授業が終わると、さらに追い討ちがきた。
「リリアナ」
呼ばれて振り返ると――王太子レオンハルトが立っていた。
昨日よりも、ほんの少し距離が近い気がするのは気のせいかしら。
「今日も……その、お茶会をすると聞いた」
「えっ、誰から……?」
「ユリウスだ。彼が嬉しそうに“今日の茶葉は何だろう”と言っていたのでな」
ユリウス様。なぜ余計なことを。
「それで、その……俺も参加していいか?」
教室が静まり返る。
同時に、女子たちの視線が炎のように熱くなる。
わたくしはにっこりと微笑んだ。
「……殿下。平和を乱さないとお約束してくださるなら、どうぞ」
「もちろんだ。昨日は……楽しかったからな」
王太子が、ほんの少しだけ笑った。
その笑顔はゲームでは絶対に見なかったものだ。
さて。
わたくしの“平和なお茶会”は、今日こそ平和にできるのかしら?
胸の中でそっとため息をつきながら、わたくしは午後の予定を考え始めた。
――できれば、静かに紅茶を楽しみたいのですけれど。
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