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7.癖の強いお医者様に当たりました
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しまった、ついさっきの出来事が頭をよぎってお礼よりも先に苦情が飛び出してしまった。主治医のマントからバカでかい舌打ちが鳴らされる。
「すみません、つい。でもさっきの所業を考えると責めたくなるのが心情というか」
「はっ。謝罪の振りをして非難か。いい教育をしているようだなリヒャルト」
ここで親を責められると辛いものがある。親は親で、さくちゃんは悪くない、お前が悪いと宣う始末。
「親子揃って不調法ですみません。いつも診ていただいてありがとうございます」
キリがないので一度文句を引っ込めてとにかくぺこりと頭を下げた。その下でべーっと舌を出すのは忘れない。
「どうだ、俺のさくちゃんは! ちゃんと謝れる良い子なんだぞ、素晴らしい! 俺の宝物!」
「気持ち悪い」
「さくちゃんは気持ち悪くない!」
「お前がだよバカいきり立つな鬱陶しい」
さっきから罵倒の多いやり取りだが、たぶんこれはこれで仲がいいのだろう。遠慮なしにものが言い合える程には親密だし、怒りに任せて斧を振り回して首を飛ばそうとしてきた相手に対してこの対応は、寧ろ寛容と言っても良いのでは、と思えてきた。
「あの、それでですね」
「なんだ」
「私の体ってどうなってるんです?」
顔が見えない主治医は、首を傾げてふるふると頭を振った。表情から読み取れる情報って思った以上に多いんだ、ということを思い知る。
そんなボディランゲージじゃ何も伝わりません、お医者様。
「えっと、」
「こいつから聞いていないのか」
こいつ、とおそらく顎を癪ってリヒャルトさんを指す。
「聞いてます。でも、さっきあの白い部屋で亀裂の辺りが光ったから、何かあったのかなって」
「どういうことだ、アウル。何かあったのか」
ソファにふんぞり返っていたリヒャルトさんがバネのように立ち上がって主治医を詰める。この二人、頭ひとつ分の身長差だ。
「それを聞きにここへ来た」
「なに?」
「おい、被験体」
「えっ、私のこと?」
「お前以外にいるか」
知らねぇよ。
「あの時、どういう状況だった。正確に思い出せ、お前の主観で」
失礼な呼び方に対する抗議を差し挟む暇を与えずに、主治医マントは真剣な声音でそう告げる。私も体が最優先として、ひとまず文句は棚上げにしておこう。
「あの時は確か……胸を揉まれて」
「揉んだのか!? さくやの胸を!!」
「触診だ黙ってろバカ親」
「馬乗りされて身動きが取れなくて……」
それから、ああそうだ。ここから先はあんまり言いたくないな。
「えっと……。呪いで死ぬならまだしも、こんな死に方は嫌だ、って。そしたら光った」
リヒャルトさんの眉間にシワが入って、眉がキュッと上がった。私が呪いによる死を受け入れてることを、この人は気に食わないんだ。
だが主治医はそんな事は意に介さないようだ。
「死を拒絶したわけか」
はい、と頷くとマントは顎に手をやりながら、なるほどと呟いた。
どういうことか問おうとしたが目の前に筋肉が迫ってきて、有無を言わさずプレスされる。
ちょっと痛いくらいにぎゅうぎゅう締められて窮屈。それでも、この過保護で心配性が過ぎる人をこんな風にさせたのは私だ。息が詰まるほどの抱擁にも、文句は言えなかった。
「死にたくないと願った。その結果、どうなったと思う」
「分かりません」
「考えろその頭は飾りか」
筋肉にプレスされながらの受け答えは中々に苦しいのだけど、そちらこそご理解頂けてますか?
などという文句は辛うじて飲み込む。
「亀裂が光った」
「それは現象だ、結果を答えろと言っている」
「~~!! それ以上は見てないので分かりません!」
さすがに腹が立ってきた。リヒャルトさんのシャツを噛みながら(不可抗力)匙をぶん投げる。
「亀裂が小さくなった。一ミリ程ではあるが」
そんなもん分かるか、と言い捨てる準備をしていた言葉が引っ込んだ。
こともなげに凄いことを言う。一瞬理解が追いつかず二人揃ってリアクションがワンテンポ遅れる。
「本当ですか!?」
「本当かアウル!」
「うるさい」
リヒャルトさんが私を腕に抱えたまま主治医に向き直ったりするので、足がぶらん、と宙に浮いて振り子のように揺れる。小さな悲鳴は筋肉プレスにより消されてしまう。
「どういうことなんだ、治るのか!?」
「どういうことなのかは今から調べる。その為にその被検体に話を聞きに来たんだ」
「おい、さくやを被験体呼ばわりするのはやめろよ」
そうだそうだ、と追撃したくても圧迫されている声は鈍く篭って呻き声にしかならない。そろそろ苦しい。
「ふん。お前達は分かってないようだな」
マントが嘲るように肩をすくめた。
「下手をすれば神の世の時代の呪いだ。そんな代物、現代に残ってるはずがない」
リヒャルトさんが息をのむ。それがどれ程のことなのか私にはいまいち分からなかったけれど、この反応からして、恐らく途方もなく凄まじい力が働いているのだろう。
「つまり、世界中探したってそいつしかいない。被検体としては……超がつくほどの貴重品だ」
「俺はさくの呪いを解いてくれと頼みはしたが、実験体にしていいとは言ってないぞ」
「実験体? バカを言うな。下手にメスなど入れられるものかよ。お前は呪いを解いてもらう。俺は呪いの研究ができる。双方利益しかないだろうが」
その捻くれたウィンウィンは成立するのでしょうか主治医。そうツッコミを入れようとした時。
外から、蹄の音が重く響いた。
「すみません、つい。でもさっきの所業を考えると責めたくなるのが心情というか」
「はっ。謝罪の振りをして非難か。いい教育をしているようだなリヒャルト」
ここで親を責められると辛いものがある。親は親で、さくちゃんは悪くない、お前が悪いと宣う始末。
「親子揃って不調法ですみません。いつも診ていただいてありがとうございます」
キリがないので一度文句を引っ込めてとにかくぺこりと頭を下げた。その下でべーっと舌を出すのは忘れない。
「どうだ、俺のさくちゃんは! ちゃんと謝れる良い子なんだぞ、素晴らしい! 俺の宝物!」
「気持ち悪い」
「さくちゃんは気持ち悪くない!」
「お前がだよバカいきり立つな鬱陶しい」
さっきから罵倒の多いやり取りだが、たぶんこれはこれで仲がいいのだろう。遠慮なしにものが言い合える程には親密だし、怒りに任せて斧を振り回して首を飛ばそうとしてきた相手に対してこの対応は、寧ろ寛容と言っても良いのでは、と思えてきた。
「あの、それでですね」
「なんだ」
「私の体ってどうなってるんです?」
顔が見えない主治医は、首を傾げてふるふると頭を振った。表情から読み取れる情報って思った以上に多いんだ、ということを思い知る。
そんなボディランゲージじゃ何も伝わりません、お医者様。
「えっと、」
「こいつから聞いていないのか」
こいつ、とおそらく顎を癪ってリヒャルトさんを指す。
「聞いてます。でも、さっきあの白い部屋で亀裂の辺りが光ったから、何かあったのかなって」
「どういうことだ、アウル。何かあったのか」
ソファにふんぞり返っていたリヒャルトさんがバネのように立ち上がって主治医を詰める。この二人、頭ひとつ分の身長差だ。
「それを聞きにここへ来た」
「なに?」
「おい、被験体」
「えっ、私のこと?」
「お前以外にいるか」
知らねぇよ。
「あの時、どういう状況だった。正確に思い出せ、お前の主観で」
失礼な呼び方に対する抗議を差し挟む暇を与えずに、主治医マントは真剣な声音でそう告げる。私も体が最優先として、ひとまず文句は棚上げにしておこう。
「あの時は確か……胸を揉まれて」
「揉んだのか!? さくやの胸を!!」
「触診だ黙ってろバカ親」
「馬乗りされて身動きが取れなくて……」
それから、ああそうだ。ここから先はあんまり言いたくないな。
「えっと……。呪いで死ぬならまだしも、こんな死に方は嫌だ、って。そしたら光った」
リヒャルトさんの眉間にシワが入って、眉がキュッと上がった。私が呪いによる死を受け入れてることを、この人は気に食わないんだ。
だが主治医はそんな事は意に介さないようだ。
「死を拒絶したわけか」
はい、と頷くとマントは顎に手をやりながら、なるほどと呟いた。
どういうことか問おうとしたが目の前に筋肉が迫ってきて、有無を言わさずプレスされる。
ちょっと痛いくらいにぎゅうぎゅう締められて窮屈。それでも、この過保護で心配性が過ぎる人をこんな風にさせたのは私だ。息が詰まるほどの抱擁にも、文句は言えなかった。
「死にたくないと願った。その結果、どうなったと思う」
「分かりません」
「考えろその頭は飾りか」
筋肉にプレスされながらの受け答えは中々に苦しいのだけど、そちらこそご理解頂けてますか?
などという文句は辛うじて飲み込む。
「亀裂が光った」
「それは現象だ、結果を答えろと言っている」
「~~!! それ以上は見てないので分かりません!」
さすがに腹が立ってきた。リヒャルトさんのシャツを噛みながら(不可抗力)匙をぶん投げる。
「亀裂が小さくなった。一ミリ程ではあるが」
そんなもん分かるか、と言い捨てる準備をしていた言葉が引っ込んだ。
こともなげに凄いことを言う。一瞬理解が追いつかず二人揃ってリアクションがワンテンポ遅れる。
「本当ですか!?」
「本当かアウル!」
「うるさい」
リヒャルトさんが私を腕に抱えたまま主治医に向き直ったりするので、足がぶらん、と宙に浮いて振り子のように揺れる。小さな悲鳴は筋肉プレスにより消されてしまう。
「どういうことなんだ、治るのか!?」
「どういうことなのかは今から調べる。その為にその被検体に話を聞きに来たんだ」
「おい、さくやを被験体呼ばわりするのはやめろよ」
そうだそうだ、と追撃したくても圧迫されている声は鈍く篭って呻き声にしかならない。そろそろ苦しい。
「ふん。お前達は分かってないようだな」
マントが嘲るように肩をすくめた。
「下手をすれば神の世の時代の呪いだ。そんな代物、現代に残ってるはずがない」
リヒャルトさんが息をのむ。それがどれ程のことなのか私にはいまいち分からなかったけれど、この反応からして、恐らく途方もなく凄まじい力が働いているのだろう。
「つまり、世界中探したってそいつしかいない。被検体としては……超がつくほどの貴重品だ」
「俺はさくの呪いを解いてくれと頼みはしたが、実験体にしていいとは言ってないぞ」
「実験体? バカを言うな。下手にメスなど入れられるものかよ。お前は呪いを解いてもらう。俺は呪いの研究ができる。双方利益しかないだろうが」
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