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雪乃に一番最初に声をかけたのは山田の彼女である綾だった。クラスの中でも元気で可愛いと評判で、その行動力なら不思議ではない。
「雪乃ちゃんって、昔この辺に住んでなかった?」
「……住んでた」
「やっぱり! 覚えていないかも知れないけど、小1の時に同じクラスだった」
「……ごめんなさい。途中で転校したから覚えてないかも」
まつ毛を伏せた雪乃に対し、綾は気を悪くした様子がない。
「いいの、いいの! これから友達になればチャラね」
「友達……」
「よろしくね、雪乃ちゃん!」
一瞬だけ表情を曇らせたことに綾は気付かない。
俯く雪乃の唇は震えており、それを隠すように手で覆う。
離れた場所にいるにも関わらず、耳を傾けていた直は自分の唇を摘む。それは雪乃と対になるような動作だった。
「ん? 唇がどうかしたのか?」と山田が問うと「うん」という返事だけが返ってくる。
それ以上の言及がないことを悟った山田は、綾と雪乃を呼んだ。
「自己紹介させて! 俺は綾の彼氏の山田圭太で、こっちは黒鉄直。ほら、直もなんか言えって」
肩を叩かれた直は、じっと雪乃の顔を見たあと、視線がぶつかったことを確認してから口角を上げた。
「よろしく」
たった一言だけの挨拶に雪乃も頷くだけだった。
こうして、直と雪乃の接点は生まれた。
* * *
テーブルの上のフライドポテトに、真っ先に手を伸ばしたのは綾だった。ハンバーガーチェーン店の人気商品だ。
山田によって連れてこられた直は一番硬そうなものを選んで噛み砕いた。
「カリカリしたところが美味いんだよな」と山田が同調する。3人で一番大きいサイズをシェアしており、テーブルの上にはポテトとジュースだけが置かれている。
「雪乃ちゃんのことなんだけど、小学生の時はもっと明るい感じだった。転校先で何かあったのかな……」
心配そうに綾が呟けば、山田がジュースを一口飲んでから口を開いた。
「10年もあれば人は変わるんじゃないか? お前が気にするようなことじゃない」
「そうなんだけど」
白熱していくカップルを前にして、直は選別してポテトを口に入れていく。その動きに迷いはなく、2人が気付いた頃には半分ほどのポテトが消えていた。
「いつの間に!?」
「美味かった」
「ふにゃふにゃしたのしか残ってない……」
肩を落とした山田だが、相手が直なら仕方がないと諦めている。ふやけたポテトを文句も言わずに食べていたが、一つの疑問が浮かんできたようだ。
「なんでここに戻ってきたのかは聞いたの?」
「海外に行っていたお父さんが帰ってきたからって聞いたよ。雪乃ちゃんはお父さんの親友のところで生活してたみたい」
「親戚の家でもなく?」
「そこまで詳しく聞けないよ」
綾の言葉に「それもそうか」と山田は頷いた。
直はコップの中に残った氷を噛み砕く。
左上に視線を向けているが、そこには何もなく、考え事をしているのが見受けられる。
小さくなった氷を飲み込むと、珍しく自分から綾に声をかけた。
「聞いといて」
脈略のない一言。
綾と山田は合わせ、口数の少ない男が発した言葉の意味を考える。要求が理解されていないことを直も察した様子で付け加えられる。
「転校先のこと。素性を知りたい」
「素性って……。人に興味を持つなんて珍しいな」
長年の付き合いである山田だからこそ驚いている。
それと同時に雪乃の存在は直にとって特別なのだと教えられたようなもので、「まじかよ」と目を丸くしていた。
――あの白い首筋に触れてみたい。雪のように冷たいだけなのか味見したい。
直の思考は欲求で満たされていた。
「雪乃ちゃんって、昔この辺に住んでなかった?」
「……住んでた」
「やっぱり! 覚えていないかも知れないけど、小1の時に同じクラスだった」
「……ごめんなさい。途中で転校したから覚えてないかも」
まつ毛を伏せた雪乃に対し、綾は気を悪くした様子がない。
「いいの、いいの! これから友達になればチャラね」
「友達……」
「よろしくね、雪乃ちゃん!」
一瞬だけ表情を曇らせたことに綾は気付かない。
俯く雪乃の唇は震えており、それを隠すように手で覆う。
離れた場所にいるにも関わらず、耳を傾けていた直は自分の唇を摘む。それは雪乃と対になるような動作だった。
「ん? 唇がどうかしたのか?」と山田が問うと「うん」という返事だけが返ってくる。
それ以上の言及がないことを悟った山田は、綾と雪乃を呼んだ。
「自己紹介させて! 俺は綾の彼氏の山田圭太で、こっちは黒鉄直。ほら、直もなんか言えって」
肩を叩かれた直は、じっと雪乃の顔を見たあと、視線がぶつかったことを確認してから口角を上げた。
「よろしく」
たった一言だけの挨拶に雪乃も頷くだけだった。
こうして、直と雪乃の接点は生まれた。
* * *
テーブルの上のフライドポテトに、真っ先に手を伸ばしたのは綾だった。ハンバーガーチェーン店の人気商品だ。
山田によって連れてこられた直は一番硬そうなものを選んで噛み砕いた。
「カリカリしたところが美味いんだよな」と山田が同調する。3人で一番大きいサイズをシェアしており、テーブルの上にはポテトとジュースだけが置かれている。
「雪乃ちゃんのことなんだけど、小学生の時はもっと明るい感じだった。転校先で何かあったのかな……」
心配そうに綾が呟けば、山田がジュースを一口飲んでから口を開いた。
「10年もあれば人は変わるんじゃないか? お前が気にするようなことじゃない」
「そうなんだけど」
白熱していくカップルを前にして、直は選別してポテトを口に入れていく。その動きに迷いはなく、2人が気付いた頃には半分ほどのポテトが消えていた。
「いつの間に!?」
「美味かった」
「ふにゃふにゃしたのしか残ってない……」
肩を落とした山田だが、相手が直なら仕方がないと諦めている。ふやけたポテトを文句も言わずに食べていたが、一つの疑問が浮かんできたようだ。
「なんでここに戻ってきたのかは聞いたの?」
「海外に行っていたお父さんが帰ってきたからって聞いたよ。雪乃ちゃんはお父さんの親友のところで生活してたみたい」
「親戚の家でもなく?」
「そこまで詳しく聞けないよ」
綾の言葉に「それもそうか」と山田は頷いた。
直はコップの中に残った氷を噛み砕く。
左上に視線を向けているが、そこには何もなく、考え事をしているのが見受けられる。
小さくなった氷を飲み込むと、珍しく自分から綾に声をかけた。
「聞いといて」
脈略のない一言。
綾と山田は合わせ、口数の少ない男が発した言葉の意味を考える。要求が理解されていないことを直も察した様子で付け加えられる。
「転校先のこと。素性を知りたい」
「素性って……。人に興味を持つなんて珍しいな」
長年の付き合いである山田だからこそ驚いている。
それと同時に雪乃の存在は直にとって特別なのだと教えられたようなもので、「まじかよ」と目を丸くしていた。
――あの白い首筋に触れてみたい。雪のように冷たいだけなのか味見したい。
直の思考は欲求で満たされていた。
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