飢食は雪で満たされる

音央とお

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それを直の目線が拾ったのは、たまたまだった。

学校から少し離れた公園の前に一台の車が横付けされた。
助手席から降りてきたのは雪乃で、運転席から大学生くらいの若い男が降りてくる。
背中側しか見えないが、背は高く、ただのスウェットだというのに立ち姿は様になっている。
煙草に火を付け、男は白い煙を吐いた。

「放課後も迎えに来るから」

よく通る男の声は、車道の反対側を歩いていた直の耳にまで届いた。
一方の雪乃は唇を動かしているのに判別ができなかった。首を横に振っていることから拒絶は見えるが、押し切られたようだ。
俯きながら頷いている。

ほんの僅かな時間であったが、直の頭の中にその背中は刻まれた。



*   *   *



誰が言い出したかは分からないが、雪の積もったグラウンドを見て「クラスで雪合戦をしよう」という話になった。
冷めた反応をするよりも、ノリの良いクラスメイトたちで、半分以上が放課後に集まった。

帰ろうとしていた直も山田によって引き留められ、興味のない顔で賑わいを眺めている。
近くの木に積もった雪を摘み上げていると「食うなよ!?」と目敏く、山田に注意された。

「これは美味くない」
「美味いとか美味くないとかじゃないからな!?」

山田は白熱する男子たちの戦いの中に戻っていく。
終わる頃には着替えが必要そうだった。

ぐちゃぐちゃになっていくグラウンドに、直の足は進まなかった。
代わりにやってきたのは、綾と雪乃。
手袋をつけた綾の手のひらのうえには雪うさぎが作られていた。
この雪の中、どこからか2人でパーツを拾い集めたらしい。

「見て見て~、上手じゃない? 写真撮ろうかなー」

綾に習うように雪乃はスマホを構えた。
碧い落ち着いたスマホカバーが、綾のキラキラとしたものと正反対に見える。

「私も混ざってくるけど、雪乃ちゃんはどうする?」
「やめておく。私はいいや」
「じゃあ、ぼっちの直の相手してあげてね」

そうは言われても、並んでグラウンドを見つめる直と雪乃の間に会話はない。
先ほどの写真を嬉しそうに見つめる雪乃の横顔を、直は静かに見ていた。


*   *   *


机に突っ伏して寝ていた直は、綾と山田の、賑やかな声で目を覚ました。
机の上には教科書とノートが開きっぱなしで、教師にすら起こされずに寝ていたようだ。
時計の針は昼休みを表している。

「……おはよう」

すぐそばに雪乃が立っていた。
気恥ずかしそうに目を伏せている。
手元には数枚の写真があり、小学校低学年くらいの女の子たちが写っていた。

「探してみたら、雪乃ちゃんが写ってるやつがあったんだ! ほら、直も見てみて!」

綾が差し出してきた写真。
レジャーシートを敷いてお弁当を食べていることから、遠足での一幕のようだ。
5人の女の子の真ん中で、雪乃の面影がある子が、ピースを作っている。
向日葵のような笑顔が活発な印象を与える。

「可愛いよね! ……ちなみに私は横のメガネ」

明るい様子は変わらないが、印象がだいぶ変わる。
雪乃が綾を見ても誰か分からなかったのも納得するくらいには。

写真への興味は一瞬で、直は今の雪乃を見つめた。
他の3人は写真の印象について語っている。

微かに頬を赤らめる雪乃に、喉が上下に動いた。







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