飢食は雪で満たされる

音央とお

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碧葉の情報を得たことで、雪乃の中で大きな存在であることが確定した。
直は目立たない場所から、車に乗り込む雪乃を見つめた。

雪乃のためにドアを開け、シートベルトまでつけてやる。
習慣と化しているであろうそれを雪乃は受け入れていた。
何もしないのが正解であるかのようで、直の目は細められる。

車は発進し、雪乃を連れ去るように視界から消えた。



*   *   *



直がお目当てがあるわけでもなく行った書店の帰り道、大きなエコバッグを持った雪乃が歩いていた。
はみ出した食材からスーパーの買い物帰りと推測される。

「あっ」

雪乃が直に気付いた。
たまたま休日に遭った2人は無難な挨拶を交わすと、無言になる。
どちらも話下手なので気の利いたことは喋れない。

目指す方向は同じらしく、距離を開けつつも歩く。
後ろから見ていると荷物を重そうにしているのがよく分かる。

「貸して」と言い、相手が断るよりも早く、直は荷物を取った。
雪乃は驚いた顔をしたものの、素直に甘えることにした。

「ありがとう。助かる」

自然に溢れた笑顔に、直の喉が鳴った。
荷物を持つ手に力がこもる。

「……他に助けてほしいことは?」
「……? ないよ」
「ほんとうに?」
「うん」

直は「そうか」と呟く。
雪乃は目を伏せる。
静かな2人の沈黙は、気まずいところか穏やかなものだった。



*   *   *



シューズの滑る音とバスケッドボールが叩きつけられる音が聞こえる。
体育館へと続く渡り廊下の中央で、直は曇っていく空を見上げた。
夕方から天気は荒れるという予報だった。

足を向けていたはずの体育館には戻らず、教室へと向かう。授業中であるため、廊下は静寂だった。
こちらに視線が動いても、誰も声を掛けてくることはないので、直の足取りは止まらない。

教室の中には雪乃だけがいた。
体育は休むと綾と話していたのを聞いている。
教師から出された課題に取り組んでおり、シャープペンシルを走らせている。

横顔は真剣そのものだが、机の片隅に置いたスマホを気にしている瞬間がある。
そして、またシャープペンシルを走らせる。

直は雪乃から死角になる壁にもたれると、小気味よい音だけを拾うように目を閉じた。


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